世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2060
世界経済評論IMPACT No.2060

財政破産の歴史:人類はどうして学ばないのだろうか

紀国正典

(高知大学 名誉教授)

2021.02.22

 この地球上の国のなかで,財政破産を起こしていないのは,わずか一国,アフリカの小国モーリシャスだけとなる。これが,IMF(国際通貨基金)のエコノミストであったラインハート&ロゴフが,1300年から2008年までの800年間にわたり,66ヵ国もの国について調査した研究成果でくだした結論である。ラインハート&ロゴフ『今回はちがう:金融愚行の800年』2009年(邦訳『国家は破綻する―金融危機の800年』日経BP社,2011年)。

 「財政破産」とは,政府が貸手である債権者(公債保有者)に対して返済不能になったこと(債務不履行:デフォルト)である。外国の公債保有者に対して債務不履行になった「対外財政破産」と国内の公債保有者に対して債務不履行になった「国内財政破産」の二つに分類することができる。

 対外財政破産は,「無遠慮な外国人債権者がからんでくる」ので,その事実が公表されデータがたくさん残っている,とラインハート&ロゴフはいう。彼らが調べた対外財政破産の回数は,19世紀までのヨーロッパでは,スペイン14回,フランス9回,ポルトガル7回,オーストリア・ハンガリー6回などである。20世紀以降でみると,トルコ5回,ポーランド3回,ルーマニア3回,ロシア3回,オーストリア2回,インドネシア4回,インド3回,中国2回などである。中南米となるとひどく,ブラジル7回,チリ7回,エクアドル7回,コスタリカ6回,ペルー6回,ウルグアイ6回,アルゼンチン5回などとなる。

 これらは戦争と恐慌の時期に多発し,ナポレオン戦争と大恐慌のときには,世界の半分の国が対外財政破産に陥っていたという。また銀行破産の多発時にも増大していた。

 国内財政破産は,政府が法的強制力を使って債務の改編や整理を行うので,公表されることが少なくデータが残っていない。ラインハート&ロゴフは,これを調べるのにまるで「考古学の調査をするようだった」として,政府が意図的に事実を隠していたと厳しく批判している。彼らは,このような破産を,「事実上のデフォルト」あるいは「法律上のデフォルト」ともよぶ。政府は,「債務の返済の拒絶や中止」,「債務の減額,返済延期や金利引き下げ」,「貨幣改革をともなった改編」などの法的強制手段を使ったのである。

 「貨幣改革をともなった改編」は,とりわけ過酷な大衆収奪となった。例えば,オーストリア(1945年)では,「一人当たり150シリングを上限として残りを封鎖済み預金口座に振り込ませ,その後この大半を無効とし凍結」,日本(1946年)では,「一人当たり100円を上限として新円に切り替え,残りを預金させ預金口座を封鎖」,ロシア(1947年)では,「個人が保有していた貨幣価値を90%切り下げ」,ドイツ(1948年)では,「ドイツマルクの保有高を一人当たり40マルクに制限,預金口座を封鎖し一部を無効」とした。生活に不可欠な貨幣が操作され,預金口座が封鎖されたり,無効とされたりしたのである。

 こららの貨幣改革に加えて,物価が短期間に急激に上昇するハイパーインフレが発生していた国も多く,大衆収奪はさらに激烈なものとなる。例えば,最高インフレ年率(%)でみると,1946年のハンガリーでは9.63×1026,1944年のギリシャでは3.02×1010,1923年のドイツでは2.22×1010,1923年のポーランドでは51,699.4,1923年のロシアでは13,534.7,1947年の中国では15,793.3,1945年の日本では568.0などとなる。

 これは,政府が財政資金を調達するため,貨幣発行権限のある中央銀行に公債を引き受けさせ,中央銀行がそれを引き当てに巨額の不換銀行券を発行したからである。民間で誰も買わない不良資産である公債を引き受け中央銀行の財務が不健全になり,不換銀行券に対する信頼が低下して貨幣減価が発生したのである。財政破産が貨幣破産を引き起こした。

 ラインハート&ロゴフはこのような破産を「インフレ・デフォルト」とよび,貨幣が金銀などの貴金属から印刷機で発行できる不換銀行券になってから激増したという。そして,昔からインフレは政府が国内債務の返済を回避するための「強力な武器」であったこと,これを企むことにかけては政府は「天才的な創造性」を発揮する,と警告している。

(詳しくは紀国正典「国家破産・金融破産および国際破産の歴史」高知大学経済学会『高知論叢』第117号,2019年10月を参照のこと。この論文は,金融の公共性研究所サイトの「国家破産とインフレーション」からダウンロードできる)。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2060.html)

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