世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2044
世界経済評論IMPACT No.2044

EU加盟東欧諸国における「一帯一路」の残り火:ハンガリーの鉄道高速化

田中素香

(東北大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2021.02.08

 東欧16カ国と中国のいわゆる「16+1」(協力会議)は2012年東欧諸国の大きな期待の中で始まったが,18年頃からEU加盟の東欧11カ国の中から不満が広がり,期待はしぼんでしまった。中国が約束したインフラ投資は実行されず,EU非加盟の西バルカン諸国(ボスニア,セルビア,モンテネグロなど)に集中したのが一因である。ルーマニアは原発2基建設の約束が実行されないとして,去年6月に中国政府との契約を破棄した。アメリカ政府の働きかけがあったといわれる。

 チェコには約30億ドルのインフラ投資が約束され,16年3月習近平主席が訪問するなど,期待が高まった。だが,若干の企業買収が行われただけだった。それも,関わった中国の民間企業に不祥事が続き,「一帯一路」は中国政府が責任を持って事業を進めると考えていたチェコ国民の大きな期待は大きな落胆へ反転した。プラハと北京の友好都市協定はプラハと台北の友好都市協定に入れ替わり,昨年8−9月にチェコ上院議長が台湾を訪問して,両国の連帯を約束した。最近では,バルト3国のリトアニアも台湾重視路線になった。

 ポーランド政府は18年の「16+1」会議で中国の投資の質の悪さを批判してから,批判的な態度を続ける。現在の政権(「法と公正」党)は親米反EUの行動が目に付くが,去年12月30日にEUと中国が大筋合意した「CAI(包括的投資協定)」に対して,米欧の大西洋同盟を裏切るものだと外相が批判している。それがEUを動かしてCAI不承認になるとは思えないが,メルケル首相とフォンデアライエン欧州委員長のドイツ・コンビのリードで進んだCAI合意は,承認プロセス(3月)では波乱なしには済みそうにない。ポーランドの対中感情の悪化には深刻化する新型コロナ危機の影響も大きい。昨年10月の調査では,回答者の過半数が,「新型コロナウイルスは中国の研究所が開発して中国政府が世界にばらまいた」と回答したという。トランプ政権の主張がかなり広範に受け入れられているようだ。

 こうした「一帯一路」離れの中で,ハンガリーのオルバン首相の長期政権は親中路線を貫く。「一帯一路」の目玉プロジェクトと目されていた首都ブダペストとベオグラード(セルビアの首都)の間の鉄道整備のために,昨年4月中国とのローン契約に署名したのである。シーヤールトー外相は,「ブダペストは中国貨物のヨーロッパ税関センターになる」と述べた。2つの首都の間の人の輸送ではなく,中国貨物の輸送を当てにしている。ギリシャ最大のピレウス港の運営権は中国のコスコが握る。エーゲ海やアドリア海の他の海港にも中国のコンテナ貨物が入る。それらコンテナ貨物をブダペストまで運搬し,西欧諸国に配送するハブになるというのである。ハンガリー議会では野党が「税金の無駄遣い」と批判したが,与党の議席は3分の2を超える。賛成133,反対58,棄権1で承認された。中国にとって歓迎すべきニュースであろう。

 2つの首都の間の鉄道の距離は350キロメートル,セルビア側が184キロ,ハンガリー側が166キロである。かつてパリとイスタンブールを結んだオリエント急行が走った鉄道路線であるが,老朽化し,10年前には6時間でつないでいた旅客列車が今日では8時間かかるようになった。高速バスより時間がかかるそうだ。その単線の路線を複線化し,最高時速200キロの中国製の高速列車を走らせて3時間あまりでつなぐ。関係3カ国で14年に合意し,セルビア側の工事は2年ほど前に着工したが,ハンガリーはEUの公共調達の規制などのために遅れていた。

 建設には23億ドルが見込まれており,そのうちの85%を中国が20年間ローンで支給するが,利子など詳細は明らかにされていない。建設は10年の予定だが,もっと短期間に完成とのフィージビリティスタディもある。

 問題も多い。第1に,両首都の人口は少ない。ブダペスト175万人,ベオグラード137万人,旅客は非常に少なく,時間が短縮されてもまったくペイしない。では,中国貨物でペイするかというと,それも不可能との批判が強い。中国側は将来どれだけの量の貨物がこの路線を使うかについて確定的な展望を示していない。「一帯一路」では採算無視のインフラ投資が少なくない。ペイしなければ,当該国の国民の税負担が増える。「債務の罠」のリスクもあり,EUも頭が痛い。

 第2に,計画の不透明性だ。ローン契約の詳細は10年間秘密にされる。投資費用の回収の目途が立たない事業の詳細を明らかにしたくないのだ,との見方も多い。

 第3は腐敗(corruption)の問題だ。ハンガリーの担当企業はオルバン首相の友人メーサーロシュ・リューリンツ氏の所有する1社だけである。中国企業と協力して工事を進める。この問題は別に取り上げよう。

 なお,朝日新聞編集委員の吉岡桂子氏がブダペストからベオグラードまで列車に乗った。〈中国がハンガリーで造る「契約10年機密」の鉄道〉というタイトルの記事を昨年12月21日,「朝日新聞 Globe+」に掲載していて,参考になる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2044.html)

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