世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2030
世界経済評論IMPACT No.2030

通貨は誰が発行すべきか:安易に民間デジタル通貨の発行を許してはならない

中條誠一

(中央大学 名誉教授)

2021.01.25

 昨年5月に,本欄(No.1737)でリブラのようなデジタル通貨を民間が発行することに警鐘を鳴らした。幸い,リブラ構想は頓挫したかに見えた昨年末に,なんと日本で30社連合が2022年までに民間デジタル通貨の発行を目指すという報道がなされ,愕然とさせられた。

 依然として,民間デジタル通貨発行意欲が根強い背景には,2つの意味で「すでに民間で通貨は発行されてきている」という誤解あるように思われる。その誤解を解くことによって,デジタル化時代でも,通貨は国家が発行すべきことを強調したい。

預金はその特殊性から,国家管理の下で,銀行に委ねられてきた

 通貨は現金と預金しかない。その発行方法は,政府・中央銀行の現金と中銀当座預金をベースマネーとして,銀行が預金を信用創造するという二重構造でなされている。確かに,預金は銀行が発行する民間マネーであるが,それは国家自身では膨大な取引の決済や金融仲介をスムーズにできないからである。また,ネット上で,「価値の伝達」ができなかった中では,預金(正体は,取引と残高データ)という通貨は,銀行のサーバーの中で管理し,口座振替で送金せざるを得なかったからである。

 それ故,国家機関の一部として認可を受けて,預金を信用創造し,その管理や決済業務を行ってきており,国家の持つ「通貨主権」を代行しているといってもよい。すなわち,人々が安心,安全,公正なものとして預金を受領できるように監督・規制が整備され,通貨価値を維持するための金融政策は預金も含めて遂行できた。さらに,銀行は金融仲介サービスの対価(預貸金利差)を追求しており,市場競争にそぐわない通貨発行をビジネスにしているとはいい難い。したがって,預金が民間マネーということをもって,デジタル通貨も民間が発行してよいということにはならない。

決済サービスのデジタル化と違いデジタル通貨は国家が発行すべき

 日々の決済には,クレジットカード,デビットカード,スイカのような電子マネー,○○ペイのようなスマホ決済が使われることが多いが,これらは通貨ではない。今の通貨である現金と預金は使い勝手が悪い。現金は原則手渡ししなければならない。預金は口座振替をしなければならず,日々のお買物の支払いの度に,銀行に行って手続きをするわけにはいかない。それをスムーズにできるようにしたのが,こうしたものなのである。

 厳密にいうと,通貨は最終的な「決済手段」であるが,これらは「通貨の補助・代用手段」,平たくいえば「通貨のようなもの」である。その違いを一言でいうならば,「通貨のようなもの」は表面上,それで支払いをしているように見えるが,最終決済はできておらず,その背後で通貨である預金が口座振替され,売り手の口座に入金されて始めて,決済が完結されているからである。

 すでに民間が通貨を発行しているという勘違いから,もっと便利な民間デジタル通貨の発行も時代の流れと見られがちなところに大きな問題がある。「通貨のようなもの」の発行は決済サービスのデジタル化である。これを民間がビジネスとして担い,利益を得ることにそれほど問題はない。しかし,今や通貨そのものがデジタル化され,デジタル通貨が発行されるとなると,話は別である。

 民間デジタル通貨の発行には,「通貨主権」上の3つの問題が生じてしまう。詳述する紙幅はないが,安全,安心,公正の確保への不安,金融政策への悪影響,私企業がシニョレッジを得ることの是非である。やはり,預金のようにどうしても民間でなければならない事情がない限り,国家が中銀デジタル通貨を発行すべきである。そして,国家が現金と預金に,新たに中銀デジタル通貨を加えた通貨システムを再構築することこそ,デジタル化時代での正しい通貨発行のあり方に他ならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2030.html)

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