世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2013
世界経済評論IMPACT No.2013

インドの新型コロナ感染減少傾向は続くか:今年の共和制記念日式典は縮小開催の運び

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授)

2021.01.18

 日本や欧米主要国で新型コロナウィルス感染が再び増大する中で,インドでは昨年9月をピークに減少が続いている。年末年始の人の流れが増える時期や冬季を迎えて警戒が叫ばれていたが,ピーク時には日に10万人近い感染者が発生していたもののここへ来て2万人前後に減少,死亡者数も4桁から3桁に減り200人前後にまで減少している。これまでの感染者数は,1月10日現在1,045万人を超えて米国の2,214万人弱に次ぐ世界第2位,死者は15万人強で米国の37万人台,ブラジルの20万人台に次ぐ世界第3位と,世界有数の感染国であるのは間違いない。

 しかし,インドでは感染者数だけでなく回復者数も増え今や1,000万人を超えて,感染者と死亡者の増大に歯止めがかかる傾向が続いている。人口大国で貧困者も多く医療環境も十分とは言えない途上国のインドで,感染者は多くても回復率は現在96%にまで高まり,死亡率(CFR)は1%台に低下,陽性率も低くなってきている。こうした状況から,政府は国民の意識の緩みを懸念し度重ねて警告を発しているが,一部にインドの新型コロナウィルス感染はパンデミックが収束しつつあるのではとの見方も出ている。

 この減少傾向がこれからも持続するかどうかは,南アや英国で見られた変異ウィルスがインドでも確認され,また本格的な冬季到来を前に時期早尚と目される。一方で,政府が対策の切り札としてきたワクチン投与が1月16日にも開始される運びになり,大きな期待がかけられている。インド政府は1月に入り,英国・スウェーデン企業合弁Astra-Zeneca社とオクスフォード大共同開発ワクチン(インド企業現地生産)Covishieid及びインド企業Bharat Biotech社開発ワクチンCovaxinを認可し,第1弾として医療従事関係者や50歳以上の高齢者等から始め8月までに約2億7,000万人にワクチン投与を行う予定である。

 ワクチン投与は米国や英国の先進国や中国,ロシア等で既に始まっているが,インドでは国内投与に加えて近隣諸国への提供が図られているほか,ブラジルやミヤンマー等からの問い合わせが寄せられているようだ。ワクチンをめぐっては中国やロシアのワクチン外交が伝えられているが,インド産は摂氏6~8度で保管が可能とされコストも相対的に安く発展途上国向きとされる。WHOは,感染症経験を活かすインドの対策が戦略的とし,かつその政治的リーダーシップを評価し,ワクチンの途上国向け生産にも期待を寄せている。

 新型コロナウィルス感染はインドにとって「未曾有の危機」と受け止めて,その対策に政府は全力を挙げ既にGDP比で16%に及ぶ財政支出を講じる等最優先で取り組んでいる。折から昨年5月以来北部ジャム・カシミール州ラダック地区での中印両軍の対峙が続き,中国の対外進出や覇権拡大には「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想」や日印米豪の「4か国協力(QUAD)」が進展する中で,今年1月26日の“Rディ”式典の行方が注目されていた。1950年1月26日に憲法が公布された記念日のリパブリック・デイ(共和制記念日)は,全インド国民が例年祝日で建国を祝い,首都ニューデリーでは大規模なパレード等が開催される大イベントである。そして,ここにその時々の対外政策の主要相手である外国首脳を式典の主賓に招いてきた。

 最近の例でいえば,2014年の安倍首相,15年のオバマ米国大統領,18年のASEAN諸国首脳はその時期においてインドの対外関係の重要な相手国首脳である。19年には関係強化を図る米国トランプ大統領の招聘を計画したが日程が合わず,同大統領は20年2月に訪印した。今年21年には,G7議長国でG7に加えてインド,豪州,韓国を招き民主主義10国(D10)のサミットを計画していた英国のジョンソン首相が予定されていた。同首相は,EU離脱に道筋を付ける一方でインドとの関係を重視し,インド太平洋構想にも賛意を示していた。しかし,英国でコロナ感染が再び拡大しロックダウン等の対策を強化する中で,この計画はご破算になった。今年は外国首脳の主賓招聘はなくなり,またインドでも例年130万人に及ぶパレード見学者を2万5,000人程度に大幅に制限する等々縮小開催の予定と伝えられる(1月4日付Times of India紙)。

 日本では,インドのコロナ騒動について感染者や死者の大きさに偏った報道が多く,実は真摯な対策が取られ一定の効果を上げていることがあまり伝えられていないように思う。WHOがインドを評価するのは,戦略的な対策が高いリーダーシップによって,また報道の自由の下で国民に開かれて行われていることから,インドの経験は他の国々や国際的にも有益であろうとの目論見であるようだ。同じ意味合いで,今後の感染見通しは決して楽観を許さない現状であるが,これからのインドの感染対策に期待し注目して行きたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2013.html)

関連記事

山崎恭平

最新のコラム