世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1979
世界経済評論IMPACT No.1979

錯綜する論点のインテグレーション:海外と国内動向

末永 茂

(エコノミスト  )

2020.12.21

海外動向:理念とリアルの乖離

 アメリカ大統領選挙の大勢がようやく固まり,バイデン新大統領が登場することとなった。これでリーダーに相応しくないビッグ・マウスや流言飛語の類は,聞かなくて済むことになるだろう。しかし,50:50に限りなく近い投票差となったことによって,アメリカの相対的衰退と政策的選択の狭さが国際社会に示された。新大統領の登場が直ちに,大きな政策転換を実現できるものではない。一度他国に経済産業的ノウハウを移転した大国が,再興する例は歴史的に極めて稀である。社会組織編制原理の疲労が原因しているからである。具体的には産業・マネージメント技術の流出が新興国のヘッド・ハンティングによって発生している。国内でリストラされたベテランの技術者や大量の留学生,海外研修によってそれが補強され,そして研究者の海外流出もそれに拍車をかける。

 他方,先発国の援助政策も大きく影響している。かつてODAは新植民地主義政策の要であったとの批判があり,アンチテーゼとして「人間の安全保障」というスローガンが国際社会に広がった。人口増加率が著しい途上国の貧困撲滅という耳障りの良い国際政策の陰で,アフリカや未開の地で開発が進んでいる。第3世界の同盟拡大を名目に,資源開発戦略が深化しているのである。我が国の援助政策は政治戦略的ではなく経済的支援を中心に据える傾向が強かった。かつ,地域研究者も理念先行的な議論が多かったように思える。これを卒業し,もっとリアルな議論を展開すべきではないだろうか。援助対象国の政治経済的自立(律)を促す支援は人類愛に満ちているが,世界の歴史的現実は必ずしもそのようには展開していない。ユーラシア大陸の一体的開発構想は資源開発や略奪的関わり等,地政学的意味における勢力拡大につながる可能性の方が高い。国際的な「グリーン投資」協力を! という美しいスローガンも素晴らしいが,これだけでは経済的技術的ノウハウを単に差し上げる結果に終わってしまうのではないか。

国内動向:ヘッド機能の創設を

 内外の政治戦略を構築するためには,専門家と政治家がタッグを組まなければならない。だが,戦後政治の在り方はポピュリズムの権化のようなもので,限界がある。政治家になるためには選挙活動に多大なエネルギーを要するからである。しかも,国の最終的議論の場が予算委員会にあるというのが国会の実態であるから,全くヘッド機能が抜け落ちている。我が国はいずれ世界戦略を策定しなければならないが,軒並み専門雑誌の発刊や財団法人等のシンクタンクの資金的運営が厳しさを増しているともいわれている。他方で,若手研究者の処遇も不安定であることは随所で話題になっている。オーバー・ドクター問題や海外留学希望者の減少は,就業機会に不利とされる点にある。民間企業をコアに硬直した雇用構造を早急に,そして大胆に改革すべきである。

 実学(資格試験対策)教育の充実を! 英語で授業を! 9月入学を,との議論に明け暮れて欧米の顔色を伺っている間に,背後から津波がやってきて足元から砂浜が流されている。1920年代に心霊術を学問対象とするのかという議論もあったように,実学と虚学の審査・区別は重要である。だが,学術会議問題は研究者の個別事情はさておき,読んだこともない論文の学問的評価をし,一般行政職員と同じように任命することが果たして有意義なのだろうか。もちろん,「軍事研究反対」という領域不明で非現実的な決議や,学者がデモや集会に頻繁に参加し指導するようなことが,意味があるとは思えない。しかし政治家がそれらを判断し,研究対象の多様化を排除すれば事態はますます深刻になりかねない。このような不毛な論争の陰で,新興国は着実に先端科学技術開発に力を入れている。これまでの単なるコピー技術から基礎研究への転換を重視し,世界をリードしようとしている。我が国が余りに短期的で目先の利害関係のみに目を奪われていると,周辺国の追い上げに気が付かず,亡国の民に転落しかねない。この事情を打開するために伝統的名称であるが,やはり我が国で地球全体を網羅的・俯瞰的に観測・分析できる数千人規模の「世界経済研究所」を創設すべきではないだろうか。

地方動向;新体制への生みの混沌

 通勤ラッシュで非生産的な時間とエネルギーを消耗する経済システムを根底から覆し,大災害も想定される首都圏の一極集中を是正することは最大級の国策である。コロナショックを機に地方回帰を進める最適な時期である。だが,地方企業や行政・教育機関等の採用システムは旧態依然としている。また,食糧生産に深くコミットしているJAや農業関連機関等も前近代的組織慣行を温存させている。最近の論調では「反TPP論者」は農家に多額の直接補助を支給し,あたかも農家の国家公務員化も容認すべし,とも思える主張までしている。こうした業界の刷新や自己改革意欲に水を差すような政策が,産業構造の硬直化や停滞を招いていることは確実である。農地の喪失を助長する減反政策や統制経済化を奨励する政策は,教条的な社会主義政策を構造化しかねない。

 中国GDPは2028年にはアメリカを超える,と日経センターでは予測している。数十年後には外国領土を丸ごと買い取ることも,計算上は可能となる。外国資本によって土地購入されれば,山林・農地の放棄や管理が及ばない土地は一層拡大し,国土・国家は荒れ果てるだろう。さらに加えて気候変動による連続的な大災害を呼び起こす。やはり地球人口78億人はどう見ても多すぎる。経済成長論として,人口減少を積極的に評価する議論が待たれる所以である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1979.html)

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