世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナ対策で膨張する日銀バランスシート
(法政大学 教授)
2020.10.05
第2次安倍政権は7年8か月という歴代最長になりその幕を閉じたが,アベノミクスの功罪とは何か。その功罪に対する評価や総括はこれから行われることになろうが,異次元緩和(量的・質的金融緩和)の象徴であった日銀のバランスシートの現状については,あまり広く認識されていない。
まず,2013年4月から日銀は異次元緩和をスタートしたが,長期国債を年間ネットで大量に購入しているにもかかわらず,マネーストックは想定よりも伸びず,2016年頃には,数年以内での物価2%目標の達成も絶望的となった。また,日銀が購入する長期国債のボリュームが大き過ぎることから,その頃には国債市場で取引する国債が枯渇する懸念が指摘され始め,マネタリーベース目標の限界が明らかとなった。
このような状況の中,日銀は2016年1月にマイナス金利政策を導入したが,それも早々に失敗に終わり,同年9月下旬,量から金利を柱とする新たな金融政策の枠組み(長短金利操作付き量的・質的金融緩和)を導入し,実質的に「異次元緩和」の転換を図った。それ以降,日銀は,「こっそり」と異次元緩和の手仕舞いを進めていた。
それは,2010年から2020年における日銀のバランスシートの資産規模やその増加幅などの推移から読み取れる。
異次元緩和スタート前の2012年では,日銀のバランスシートは年間で8.5兆円しか膨張していなかったが,異次元緩和スタート後の2013年では年間で55.7兆円も膨張している。その後,日銀バランスシートの膨張は加速していき,ピークとなったのは政策転換を行った2016年で,その時のバランスシートは91.5兆円も膨張している。
しかしながら,政策転換を行った直後の2017年のバランスシートの膨張は58.6兆円になり,2019年は21.8兆円にまで縮小していた。これは,「こっそり」と異次元緩和の手仕舞いを進めていたことを意味する。
この結果,日銀のバランスシートの膨張は緩やかになりつつあった。実際,日銀のバランスシートは,資産(対GDP)で2013年の30.3%から,2018年には100.5%に急膨張したものの,2019年は103.6%であり,このまま,異次元緩和の手仕舞いを進めていけば,日銀のバランスシートは対GDP比で安定化できる可能性があった。これはデータから読み取れる確かな事実であり,日銀内部でも,対GDPの資産規模を概ね100%で収束させることができると考えていたのではないか。
ところが,今年(2020年)2月から,新型コロナウイルスの感染拡大が日本や世界を襲った。2020年度の国の一般会計における当初予算は約102.6兆円であったが,緊急経済対策の第1次補正予算・第2次補正予算と合わせ,歳出合計は約60兆円増の約160兆円となった。このため,政府は大量の国債を発行することになったが,このような状況でも,国債発行の市中消化が可能なのは,第1次補正予算編成のとき,日銀が国債の買い入れをする「年間約80兆円」の保有残高増の目途を撤廃したからである。
だが,この結果として,日銀のバランスシートは再び急膨張をしつつある。その象徴が,2020年の110.2兆円だ。この値は,日銀のバランスシートにおける資産が,2019年から2020年の1年間で増加した規模を表すが,異次元緩和のピーク時(2016年)の91.5兆円よりも大きい値である。
いま長期金利が低位の水準に抑制できているのは,日銀が大量に長期国債を購入しているためだが,それが永遠に可能なわけではない。金利の上昇が財政を直撃する前に,いずれ財政再建が求められる。新型コロナウイルスの感染拡大が経済を直撃している今,財政・社会保障の改革を行うのは難しいが,その準備は進めておくのが新政権の一つの課題だろう。
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