世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1836
世界経済評論IMPACT No.1836

マジックマネーの実効に必要な実行戦略計画

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2020.08.10

マッジクマネーの二つの投入の道

 このマジックマネーを旨く使うには,二つのものを峻別し,それぞれ的確に投入しなければならない。一つは「危機対応のための資金投入」であり,二つ目は「経済再発展のための資金投入」である。第一のものは「赤字国債」であるが,第二のものは「プロジェクトのために国債」である。建設国債のようなものである。つまり第一のものは危機により経済が崩壊しているときの「止血」としての資金の投入である。これはケインズのいう「穴を掘り,またそれを埋め戻す」作業に支払うようなもので,一律支給金,救済金のようなもの。それは投資として乗数効果が低いが,企業の倒産を防ぎ,失業者の生活の止血をする。しかし今度のような「10万円の一律給付」を何度やっても,止血にはなるが,日本経済の付加価値が増大することにはならない。この第一の投資は必要最低限のものにする必要がある。一律支給金をもらうと,あるものは先行きが不安なのでこれを使わず貯金する。そうするとその効果はなくなる。

 第二のものは,疲弊した経済,産業を立て直し,活性化し,経済を再発展させるためのものである。具体的なプロジェクトで,それが新しい付加価値を生み,収益を上げることのできるものへの投資である。これは雇用を増加するもので,経済構造を改革するものである。「魚」(第一のもの,食料,止血)を与えるより,「釣り道具」(第二のもの,職場,仕事)を用意せよという謂れが重要になる。

経済政策策定と実行戦略計画

 2020年7月17日,政府は,経済財政運営の「骨太方針2020」を決定した。4つの柱があるようだ。「名目国内生産(GDP)600兆円」,「プライマリー・バランスの黒字化:2025年(2025年に延ばす)」,「物価上昇率:2%」,「有効求人倍数:1倍以上」。

 2000年の森内閣の時以来,「骨太方針」という言葉を使い,日本政府は毎年「骨太方針」を掲げてきた。「構造改革」という言葉を使いながら,物価上昇率,プライマリー・バランスの黒字化,GDP,有効求人倍率などを目標として,毎年同じような方針を掲げてきている。しかしその方針・目標の殆どはこれまで達成されていなく,日本経済は一向に良くなっていない。未だにデフレが続き,GDPは伸びていなく,実質賃金は下がり続け,国民は疲弊している。2013年黒田日銀総裁が任命されてから,物価上昇率2%を目標にデフレ退治を掲げてきたが,全く実現していなく,未だにデフレが深く進行し続けている。そして政府はGDPを600兆円にするという目標を5年ぐらい前からずっと掲げてきているが,実現していない。むしろ下がって,今や546.8兆円(2020年1−3月期)になっている。こんな状態が何年も続いている中で,今年もまた同じような目標を掲げている。先進国の中で,経済発展という点では,日本の一人負けである。

 毎年毎年繰り返す「言いっ放しの骨太方針」なら,ない方がよい。どうも政府の「骨太方針」は,日本の政治家の「選挙公約」のようで,実現しなくてもよいものだと日本の政治家,政府は思っているのかもしれない。これでは,業績の悪い企業の経営者が「来年こそは頑張りますので」と毎年繰り返しているようなものである。これは経営陣が総入れ替えになるゾンビ企業である。

 何故そうなったのであろうか。骨太方針という経済政策の立て方が間違っているのであろう。日本の「骨太方針」・経済政策計画は,縦割りの政府のいろいろの部門から「ウイシュリスト」を出させて,それをまとめたものである。しかもいろいろの派閥の利権争いのようなものが計画の中に入っている。国家のため,国民のための方針・計画になっていない。1960年池田内閣が当時の「経済企画庁」に作らせた「国民所得倍増計画」がスタートした。この計画は,自動車産業,機械産業,化学産業,家電産業,電子産業,通信産業,交通産業などの産業規模の成長姿が示されており,日本のGDPの拡大,賃金の上昇,生産性の向上,福祉産業の拡大などの青写真が示されていた。これを基にして民間企業は,自分の分野の事業計画を作り,いろいろの設備投資,研究開発投資を進めていった。筆者もこれに基づき自動車,機械金属分野での会社の長期計画を作り,会社を発展させた。これが1965年から1985年にかけて日本経済の奇跡的発展をもたらしたのである。政府の計画は,それを基にして民間企業が自分たちの発展の事業計画を作って連動するようなものにしなければならない。単なる「止血」の投資計画では,日本経済の再発展には繋がらない。

 そういう意味では,今の内閣は適切な経済政策を立案する能力がないのかもしれない。あるいは今の官僚の仕事には経済政策の立案はないのかもしれない。かつての「経済企画庁」のような頭脳集団が必要である。国家の頭脳として,「経済企画省」を新設し,それをサポートする「国立シンクタンク」を組織する必要がある。

 このような国家の戦略的政策目標と計画を創ることが重要であるが,その計画した目標を確実に実現するための「エグゼキューション力(執行力)」あるいは「エンフォースメント力」をつけなければならない。日本はこれが弱い。

 目標を確実に実現するには「戦略アプローチ」が必要になる。目標を実現するにはいろいろのことを準備し,実行しなければならない。ある最終目的を実現するためにはどのようなことが準備されなければならないか。そしてこの準備する必要なことを揃えるには,どのようなことをしなければならないかと考えていく。つまり最終目標から逆算して遡り,必要ないくつかのスッテプ,行動を明確にすることである。これが「戦略的実行計画」である。目標を確実に実現するための執行力である。

 今度の政府の給付金の支給でも,その実行を怪しげな団体に丸投げしては旨く行くはずがない。GoToキャンペン計画も,その計画自体の意味と効果の検討や,実行計画がずさんであったために,大変もたもたしている。

 お隣の国中国は,「孫子の兵法」を弁え,経済政策,政治政策について,目標を確実に実現できるような綿密な「戦略実践計画」を作っているという。それは日本とは比べ物にならないもののようである。『サイレント・インベージョン』(?)に描かれているように,中国は,長期的な綿密な戦略計画をもって,その国民には気付かせないで,日本やオーストラリアをいろいろの形で侵略している。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1836.html)

関連記事

三輪晴治

最新のコラム