世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1784
世界経済評論IMPACT No.1784

いまアメリカで起こっていることについて

宮川典之

(岐阜聖徳学園大学 教授)

2020.06.22

 今回のコラムでは,いまアメリカで起こっている例の騒擾問題について考えてみたい。

 まずアメリカ合衆国が成立したときから人種問題はたしかに存在した。独立革命時において建国の父祖とされる主要な人物たちは,自ら所有するタバコ農園で多くの黒人奴隷を使用していた。代表的人物は初代大統領ジョージ・ワシントン,第3代大統領トマス・ジェファソン,および第4代大統領ジェイムズ・マディソンだ。例外的存在としての第2代大統領ジョン・アダムスはさておき,かれらは皆,大農園主としてのもうひとつの顔を持っていた。ワシントンは独立戦争時の英雄として人気が絶大であった。ちなみに初代財務長官を務めることになるアレグザンダー・ハミルトンはワシントンの副官であった。評伝によれば,二人の軍事面の才能は秀でていたようだ。もうひとりの父祖ベンジャミン・フランクリンはかなり年長(最年少のハミルトンとの年齢差は50年)であり,フランスでの外交に功績があった。否,かれはそれだけではなく起業家として経済的センスに優れていて科学者としての一面も具備していた。ともあれここに挙げた建国の父祖6人のうち,その出自から見てあとの方の3人を除いて最初に挙げた3人は奴隷制プランテーションの所有主だったわけだ。

 ここで確認しておきたいことは,最初に挙げた3人のうち独立宣言を起草したのはジェファソンだった——かの有名な文言「人間はみな平等に創られた」がその中にある——こと,憲法制定の過程においてはマディソンとハミルトンは大いに関わっていたし,それらの中で彼らは高邁な思想を高らかに謳い上げもした。かれらが「市民」というばあい,それは暗黙裡に白人を意味していた。独立時においては,黒人すなわち奴隷だったので,黒人の市民権(公民権)は度外視されたのであろう。

 黒人の人権が真正面から考えられるようになったのは,南北戦争後である。北部が南部に勝利したことで,形式上奴隷制は廃止された。だからといって黒人は完全に解放されたかといえば実情はそうではなく,差別は執拗に残った。現在のアメリカの状況を見ても,黒人差別が依然として残存していることは厳然たる事実なのだ。南北戦争後は奴隷とは呼ばれなかったものの,いろいろな次元で社会的差別は残り続けた。黒人の人権獲得がもう一歩前進したのは,1960年代のキング牧師による公民権獲得運動である。キング牧師自身は暗殺されるという憂き目にあったが,黒人の公民権獲得という面においてそれは大きな前進であった。それでもなお暗黙裡の黒人差別は続いたのである。

 そして現在,どうなっているだろうか。現実は,マスメディアによって報道されるとおりである。政治社会的出来事としては,白人警察官による黒人迫害としてあつかわれているが,もうひとつの事象は新型コロナウィルスの蔓延に求められる。というのは,このウィルスの流行によって犠牲になっているのは黒人やヒスパニックが相対的に多いことが判明しているからだ。否,圧倒的に多いといった方が正しいかもしれない。このことは,それほどの社会的格差があるということにほかならない。

 黒人に犠牲者が多く出ているということは,いうまでもなく白人社会に比べて黒人社会の方が貧困状態に置かれている人が多いということだ。それもアメリカ固有の極端な経済格差に起因していると捉えてよいであろう。かのスティグリッツも主張するように,現在のアメリカでは,極端な言い方をするなら1%の最富裕な人間がいるのに対して,99%が貧困状態にある。社会現象となって表面化したのは中流階層の下層への没落である。このことはブランコ・ミラノヴィッチによって考案されたエレファント・カーブの谷底部分によって示された。アメリカのばあい,そのような現象が明瞭に示されたとともに検証されたということだ。社会現象としては中流白人の貧困化として知られる。その結果トランプ氏の登場へとつながるのだが,さらにいうならこのことは白人だけに見られたのではなくて,黒人がさらに追い込まれるということを含意するものでもあった。

 いまアメリカで起こっているのは,一種の暴動である。さらに規模が大きくなると革命的な様相を帯びることにもなりかねない。トランプ大統領の対応には大きな疑問符が投げかけられている。歴史が動こうとしているのかもしれない。文字通り,事態の推移から眼を離せない状況だ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1784.html)

関連記事

宮川典之

国内

アングロアメリカ

最新のコラム