世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1776
世界経済評論IMPACT No.1776

前例に縛られる日本,前例を突破する欧州

鶴岡秀志

(信州大学先鋭研究所特任 教授)

2020.06.15

 相変わらずTVは学習能力欠如を晒している。2011年の福島原発事故を経ても,絶対的な安全確保というものは幻であることを露程にも考慮しない。新型コロナ(COVID-19)の感染者が一人出れば大騒ぎである。枕草子の「いとあさまし」という表現がピタリと思うが如何か。第2波の感染拡大に構えなければいけないが,マスコミに言われなくても我国の「民度」は適切に対応するだろう。

 巣ごもりで終日,TVながら族をする機会に「恵まれ」たが,各局が政府批判と外国礼賛,果ては我が国民にはその筋の脅し紛いを連日放送していた。NHKはNスペとニュースらしい番組(BS1の10分間ニュース以外,実質ニュースショーである)で国民に対して恐怖心を植え付けることに躍起になっていた。各局各番組とも中身は毎日同じなのでだんだん言葉が過激化していった。世界の状況を見れば,COVID-19は中国発の地球規模災厄であることは判るし,感情を抑えて数字を下にした報道,または2時間の専門家の講演だけにすべきである。タレントMC・ゲストは無用である。還暦を過ぎた目からは,戦後,特に筆者の幼少時に忌み嫌われた「〇〇は敵だ」という類の戦中国策宣伝の再来としか思えなかった。

 前例に縛られて緊急の医薬品,医療機器承認ができない我国の状況には目を覆いたくなる。トヨタが人工呼吸器を急遽生産しようとして,結局断念したしたことを役所はどれほどの重みを持って理解しているのか(全く判っていないかもしれない)。また,欧米で日本製のPCR装置を始めとした最新鋭機器が使われていても国内で使えないというジョークのような本当の話。前例を盾に取り国民の選んだ内閣の言うことも聞かない,国民よりも●●村への貢献を優先する高級官僚はいっそのこと公選制にすればいかがか。

 5月22日の深夜にフランス在住の友人から電話があり,「COVID-19対策で欧州R&Dテーマの緊急2次募集が開始された。欧州有力研究者でチームを組むので,日本で開発されているカーボンナノチューブ(CNT)センサーを使えないか」と要請された。これはShort Noticeの緊急募集で,3月に行われた最初の募集・決定内容があまりに平凡だったので,その後の状況に対応できなかったためらしい。今更ソーシャルディタンスの最適化やAIによる画像診断で罹患者を特定するという内容ではCOVID-19対策に力不足である。他方,このコロナウイルスは,発症率は低いもののとんでもなく危険であることが徐々に解ってきている。特に欧州では危機的状況に陥ったので各分野の研究者が総掛かりで調査を行っている。感染回復後に免疫ができるかどうかも未だ未解明,困ったことにウイルスはPCR検査により検出されずに体内でくすぶり続ける可能性も示唆されている。特に循環器系(心臓,血管など)への影響が大きく,日本のTVはあまり触れないが脳梗塞,心筋梗塞,体組織壊死が高頻度で報告されている。次第に解りつつある症状から,X線,CTスキャン,PCR増幅という「点=一瞬」での測定に加えて,特に心電の連続計測で循環器系活動をモニターする,「線=時間」情報が必要となってきた。報道されているように,年令に関係なく軽い風邪症状から急激な悪化までの時間が非常に短い場合があり,一日数回の医師の問診では防ぎ切れない。Googleが200億円以上で買収したLED装備腕時計型心拍測定装置は常時携帯型で,WEB経由で心拍と体温ぐらいはモニター可能であるが,肝心の心電信号が無いのでAIでこの情報を分析しても循環器疾病を判断できない(心拍と心電信号は別物)。現在,病院等では金属チップのセンサーを使用しているが,電波対策など整えられた部屋以外では雑音が多く,心電信号研究はノイズ除去研究に等しくなっている。また,現在の装置は携帯するには大きくて煩わしいものである。

 早速,CNTセンサーの事業化を進めている友人に問い合わせたところ,秋以降の商品化を一部棚上げして協力することを承諾してもらえた。2019年度に国立医薬品食品衛生研究所が急性毒性試験の新方法開発用として採用した技術でもあるので同研究所に相談したところ,匕ト用への展開を快託してくださったことも幸いした。欧州研究グループには,国内医療用器具としての申請承認は未実施であることも説明したが,欧州はチャレンジを優先するとのことで問題視しなかった。結果として,COVID-19対策R&Dへの応募書類では,準商業化技術として患者と医療関係者の生体バイタル信号モニタリングに採用されることになった。具体的には,先端診断機器の診断結果とCNTセンサーによる常時心電信号モニタリングを組み合わせて,COVID-19罹患者の状態だけではなく医療従事者の感染早期発見(欧州はかなり高率なので),PCR検査推奨情報を素早く出せないか,ということも研究するようである。他方,欧州でもコロナ感染を恐れて多くの患者が病院を避けていて,そのために悪化死亡と言う事例が増加している。TeleHealthという標語の下で,特に循環器系の持病を持つ患者に対してCNTセンサーによる常時遠隔モニタリングにより心電信号を解析し,AIから警告を発するシステの構築も含まれている。循環器系疾病は自覚症状よりかなり前に心電信号の変化が観測されることが解っているので,With Coronaの時代に適合する真の医療イノベーション技術にもなるだろう。

 今回のCOVID-19災厄は,前例踏襲と既得権益の死守が社会的経済的障害であるだけでなく,多くの国民を危険にさらしてしまう害悪であることを白日のもとに晒した。主要メディアは,視聴率を上げるために国民を脅す内容に執着するのではなく,この実態を指摘して改善提案をすることが報道機関としてあるべき姿であろう。TVに知恵が無いためと想像するが,雨後の筍のように表れて持て囃す遠隔診断も新規の技術は無く,現状ではデジタル化とは程遠いマイナンバーカードを使った国民給付金申請と大差ない。一部野党のカミツキ質問が無意味なことを,そしてもっと良い質疑応答が国会で交わされていることを巣ごもりで多くの国民が気づいたことであろう。イノベーションの障害,DXへの壁を見極めることができなければ,TVマスコミは社会的経済的に無駄な存在である。前例に固執するのはマスコミかもしれない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1776.html)

関連記事

鶴岡秀志

特設:コロナ関連

科学技術

日本

最新のコラム