世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1734
世界経済評論IMPACT No.1734

日本の国力の低下

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2020.05.11

 2019年10月に中国の武漢で発生した新型コロナウイルスが世界に飛び散り,世界中が大混乱しているが,未だどのように終息するのか見当もつかないでいる。しかしこの混乱の中で,これまで気付かなかったことがいろいろと明るみに出てきた。

 4月2日安倍首相は突然「一世帯に布マスク2枚を支給する」と宣言した。そのことにつき国民からはブーイングが出たが,政府は珍しく「宣言したこと」を実行した。しかし配布し始めてからすぐ,あろうことか安全のための「布マスク」に異物が混入し,髪の毛が入っていたり,汚れがあることが分かった。各地でこのようなものが8千枚近く見つかったという。菅官房長官は「流通段階の確認により発見されたもので,適切に除外されている」と言って,配布を続けると言った。

 首相自らのイニシャティブで,「政府御用達」として「布マスク」を製造させたのだが,こんな不良品を調達してしまった。折角首相が日本国民の安心のためにやろうとしたことが裏目に出てしまった。4月24日,菅官房長官は,慌てて布マスクの未配品分を回収し,再チェックすると言った。何ともお粗末な話である。

 かつての日本の「モノづくりの力」を知っている人は,どうもこれはおかしいと思うだろう。外国のメディアもこれに気付いている。

 新型コロナウイルスによる感染者,死者を少なくするために,検査キット,人工呼吸器,防護服,防護マスクなどが必要であるが,日本ではこれが足りない。ある医療関係の人の話だと,政府は,PCR検査キットが不足していることもあり,極力検査をやらないように病院などに指示してきたという。外国では,日本は,検査をしていないので感染者の数が少ないのではないかと見ている。

 政府は,不足しているこれらのものを大至急日本で製造させようと動いたのであろうが,日本の大企業はなかなか動かない。政府は人工呼吸器をトヨタに製造依頼したようだが,トヨタは造ろうとはしない。

 日本の大企業は,450兆円以上の内部留保を貯めているのに,儲かりそうもないものには手を出さない。日本の経団連も動かない。しかし政府は,強制してでも必要なものを日本企業に造らせなければならない。

 台湾はコロナウイルス感染症に対して適切な対策を迅速に実行し,非常に成功している。日本の窮状を見かねて,台湾はある企業が持っていた防護服を日本に送ってくれたようである。大変有難い話である。

 韓国もこの感染症に対する対策と行動は世界からも成功例として称賛されている。徹底的なPCR検査をし,GPS(全地球測位システム)を活用して人の動きをモニターし,必要なマスク,検査キット,人工呼吸器を調達し,給付金支給など迅速に手を打った。医療崩壊を避けるための病院を拡充し,隔離施設などを手当てしたが,これにはサムスン,LG,現代自動車など韓国産業による所有施設などの提供とサポートがあった。

 1980年代の日本産業の強みは「モノづくり力」の基本となる「品質管理力」であり,日本生産性本部,日科技連を作り,国民運動として展開したTQC活動である。これが1950年から1980年の日本経済の奇跡的成長をもたらしたものである。日本は官民一体となりものごとを遂行するという力を持っているということで,外国からも「オールジャパン」,「日本株式会社」と言われ,恐れられたものである。

 しかしこの日本の「モノづくり力」と官民一体となって動く力がここ30年で失われてしまった。日本産業のもっていた「大義」はどこに行ってしまったのだろうか。疫病のような災難にたいしては日本全体が英知と力を集め迅速に対応しなければならないが,それができていない。

 この問題の原因はいくつかある。基本的には,その原因は,2001年ころから小泉内閣が,アメリカの尻馬に乗り,グローバル化に走りだしたことにある。グローバル化政策により,規制の撤廃をし,何でも民営化させて,不必要に産業の競争を激化させた。企業はそのために商品の価格切り下げ競争を強いられ,特に中国などの商品と競争したので,労働者の賃金を下げて,コストカットに走り,日本商品の「高品質の看板」を捨てた。そして日本産業は空洞化し,中国の生産に頼り過ぎてしまった。こうして最終的には世界に誇った日本の家電産業は消えてなくなった。自動車産業はまだ品質不良によるリコールを繰り返している。

 日本政府は,小さい政府にすると言って「緊縮財政」を進め,医療費を下げようとして,医療設備,保健所,病床,必要な社会インフラを削減し,そのための職員や医者の数を減らしてきた。これらが今度のコロナウイルス災害を克服する上で大きな障害になっている。

 グローバル化の行き過ぎのために,国家の司令塔としての政府の統率力が無くなり,日本産業は,自分の利益を追求するだけで,グローバルで暴れまわり,産業としての結束力も薄れ,日本経済のため,日本社会のためという大義の意識も捨ててしまった。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1734.html)

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