世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1709
世界経済評論IMPACT No.1709

アジアインフラ投資銀行(AIIB)へのヒアリング調査

岩本武和

(京都大学経済学研究科 教授)

2020.04.27

 2016年1月に開業したアジアインフラ投資銀行(AIIB)は,2020年で5年目を迎えた。創設時57カ国だった加盟国は,2019年7月時点で100カ国・地域に達し,すでにアジア開発銀行(ADB)の67カ国・地域を超えている。

 AIIBは,ADB等と同様の「国際開発金融機関」(MBD)ではあるが,習金平国家主席が2014年11月のAPEC首脳会議で提唱した「一帯一路」(Belt and Road Initiative;BRI)戦略を後押しする役割を,実質的には担っているかもしれない。一国家の開発戦略たるBRIの資金供給は,MBDたるAIIBではなく,国家開発銀行,中国輸出入銀行,国営商業銀行などの担当とされるが,案件ごとの詳細は明らかではないことも多い。その意味で,BRIにおけるインフラ建設において,AIIBが過剰融資を行うことで,新興国を「債務の罠」に陥れているという批判もある。

 すでに1年以上も前のことになるが,2019年2月に,筆者を含め同じ研究チームの5名(アジア太平洋研究所[APIR]のプロジェクト)で,中国人民銀行(PBOC)およびAIIBへのヒアリング調査を行った。PBOCへのヒアリングついては,本コラム「中国人民銀行(PBOC)ヒアリング調査」(2019年11月25日),および「中国の不良債権問題,資本流出,人民元の国際化:中国人民銀行(PBOC)へのヒアリング調査」(2019年12月2日)で報告したので,今回はAIIBへのヒアリングの概略を記録しておきたい。

【AIIBの現状】AIIBの従業員は,2019年2月現在,180人から200人であるが,今年末までに300人に増やす計画である。また前職は,ほとんどが金融セクター出身で,弁護士もいる。ほぼ50%から60%が国際開発金融機関の経歴を持っており,残りの30%から40%は民間セクターか政府セクター出身者である。

 当行には,アメリカ人もいれば,日本人の同僚もいて,国籍はさまざまである。現在はこのビルを無償で北京市政府から借用しているが,本部は現在建築中で,そこに2020年に引っ越す予定である(AIIB本部ビルは2019年10月24日に竣工した)。

【AIIBの基本的役割と三つの重点分野】アジアの新興国では,基本的な電気や水衛生が大いに不足しており,巨大なインフラ需要がある。当行は,アジアのインフラ格差に対処するために創設されたMDBである。

 当行の優先事項として,三つの重点分野がある。第一に,持続可能なインフラは我々にとって鍵となる。とりわけ,パリ協定の目標や国連の持続可能な開発目標を達成できるように,環境に優しいインフラ支援を促進するという意味で,加盟国を支援する。第二に,特に内陸国にとって大きな鍵となるのが,国境の接続性・連続性である。これには,道路や港等だけでなく,インターネット,電気通信,5Gといったものも含まれる。第三に,当行が特に力を入れているのが,民間資金動員である。気候変動やインフラへの資金調達といった課題に取り組むには,民間セクターの参加が欠かせない。当行のプロジェクトは,これら3つのテーマのいずれか,または複数に該当することを必要とする。

 それに加えて,以下の5つの分野,「エネルギー戦略」,「交通についての戦略」,「都市戦略」があり,今年中にさらに2つのセクター,つまり「水セクター」と「ICT」(インターネット通信技術)を含め,合計5つのセクターとなる。

【プロジェクトの選定基準】AIIBは利益団体であり,譲許的融資が認められるような世界銀行とは違って,当行にはそのような特定の資金調達窓口はない。したがって,世界銀行等と比べると,概して当行の融資は決して安くはない。当行は,プロジェクトが確実に利益をもたらすか,プロジェクト終了後自立できるかを重視する。

 また,融資に対する政府保証に関して,プロジェクトの一部については,政府からの強い後ろ盾を求めている。大規模プロジェクトに資金調達するコストは非常に高く,当行で待機している案件は,大規模で確実に利益をもたらすプロジェクトのみである。また,我々にとっては金融仲介機関を通して活動することが重要である。したがって,例えば,株式経由でインフラ投資が可能となるIFCファンドに投資してきた。ESG(環境・社会・ガバナンス)基準を満たすアジアの社債に投資するプロジェクトも発表した。

【他のMDBとAIIBの違い,および中国の政策銀行とAIIBの関係】我々は,他の国際機関に出資者として加盟できなかった多くのメンバーも加入させている。こうしたメンバーは,ここで容易に当行の機能にアクセスできる。今後は,ADB,世界銀行とともに共同融資する比率が高まっていく予定である。また,中国の政策銀行とは何の物理的プラットフォームも存在しない。彼らは我々のことを知っているし,我々も彼らを知っているが,当行は中国の政策銀行とは根本的に異なり,抜本的に異なる法的構造を持っている。したがって,双方の間には共同融資のプロジェクトは一切なく,MDBたるAIIBと中国の政策銀行とは,根本的に異なるタイプの組織である。

 (なおヒアリングおいては,債券発行による資金調達の可能性についても言及したが,直後の2019年5月に初めて外債による資金調達25億ドルが決まった)。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1709.html)

関連記事

岩本武和

最新のコラム