世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1625
世界経済評論IMPACT No.1625

ILC誘致,学術会議重点計画外れるも欧州戦略注視:文科省は今夏めど大型研究のロードマップを作成

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授)

2020.02.17

 本サイトでたびたび訴えてきたILC誘致について,先延ばししてきた日本政府の判断が重要な局面を迎えるので,また報告を続けたい。国際的な競争関係が激動する中で,日本が強みを持つ研究や技術を活かして日本に建設が期待されているこの国際プロジェクトは,稀有な千載一遇の機会と考えるからである。

 ILC(International Linear Collider)は,国民が広く知り得てはいないが,ノーベル賞受賞者が多い素粒子物理学の科学研究分野で,日本の優れた超電導加速技術やナノビーム技術が評価され,素粒子実験・研究の大型先端線形加速器を日本に建設するよう欧米が期待している建設計画である。ILCは,ヒッグス粒子の存在を突き止めたCERN(欧州合同原子核研究機構)の円形ハドロゲン加速器LHC(スイスのジュネーブ郊外に所在)の後続機として,国際的に設計・開発されてきた。

 日本では東北の岩手・宮城両県にまたがる北上山地が建設の適地とされ,2016年に盛岡市,19年には仙台市で国際研究者学会のLCWS(Linear Collider Work Shop)が国際会議を開催,後者会議では当初計画の短縮化や建設コスト削減を議論し,日本政府の誘致決定を求めた仙台宣言を発信した(注)。筆者はこの二つの国際会議を傍聴し垣間見て地元の熱気と海外からの期待をつぶさに見聞し感激したが,日本学術会議はILC誘致について有識者会議で検討を重ねて18年末になって誘致にネガティブな答申をした。一方,文部科学省はプロジェクトに関心を示し国際的な議論や協議を踏まえると判断を先延ばしし,20年に入って政府判断は最終局面を迎えている。

 最初の局面は,2020年以降の日本の大型研究計画で日本学術会議の「マスタープラン」に挙げられるかどうかで,その答申が1月末に行われた。165件の応募から161件を選定,このうち優先順位が高く速やかな推進を要する重点大型研究計画選定でILCはヒヤリング対象になったものの,重点計画31件からは外れた。日本初の国際科学研究拠点誘致で震災復興後の期待から産官学一体となって誘致を訴えてきた東北では,実現が難しくなったのではとの観測が出ている。

 文部科学省は答申を参考にしつつ「学術研究大型プロジェクトの推進に関する基本構想(ロードマップ)」を今夏めどに作成する方針で,その申請には重点計画またはそのヒヤリング対象になる条件がある。ILCは,重点計画には外れたもののヒヤリング条件はクリアしており,ILC計画の対応は欧州2020~24年素粒子物理研究戦略等の議論を注視しつつ慎重に検討する(荻生田光一文部科学大臣)とされる。

 これまでの経緯では,ILC計画は欧州戦略に入る見込みで,戦略は5月中にはまとめられる予定。ILCのマスタープランへの応募を行ったKEK(高エネルギー加速器研究機構,つくば市)は,「実現に向けて今後は建設費の国際分担に向けた政府間交渉,研究者レベルでのさらなる準備が必要で,日本政府の前向な姿勢を期待したい」と述べている。文部科学省のロードマップに挙げられるようになるならILC誘致の実現は確かになろうが,現時点では定かではない。

 筆者がILC誘致に大きな期待を持っているのは,詳細を評価する能力はないものの冒頭に述べたように日本の比較優位性や欧米の研究者から請われている日本初の科学研究計画であるからである。稀有なまさに千載一遇の日本の将来を託す計画であろうし,筆者がさらに評価するのは地元の経済界,学界,行政,住民だけでなく未来の子供たちがILCを学んで将来の夢を育んでいることである。地元紙の岩手日報紙や河北新報紙のILC誘致特設欄には,具体例が頻繁に報道されている。

 こんな例は寡聞にして知らないし,計画推進が難しい最大の要因として指摘されている建設費の大きさは国際的な分担を含めて制約になるとは思えない。20年近く住んで実感した明治以来「白河以北一山百文」(河北新報発刊趣意から)といわれる開発遅れが影響しているように感じられ,また東北地方は忖度の利く有力な政治的背景が弱いとの指摘も認めざるを得ない。そして,最近国家百年の計を託す日本の見識や判断力が弱体になり劣化しているとの懸念もあり,ILC誘致が実現するか否かを注視している。

[注]
  • 2019年11月11日付のIMPACT弊稿No.1537:ILC東北誘致に向けて国際学会が「仙台宣言」参照。なお,この2月8日にはKEK,東北ILC推進協議会等12団体が東京(東大)をメイン会場に盛岡市,広島市,福岡市会場を映像で中継し,ノーベル物理学賞を受賞したピーター・ヒッグス氏(英国)のビデオ出演や同じく受賞者の小林誠氏らのパネル討論のILC国際シンポジウムを開催,4会場で約600人が参加した。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1625.html)

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