世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1539

RCEPの重要性と日本・ASEAN

清水一史

(九州大学大学院 教授)

2019.11.11

 今月初めにバンコクでASEAN関連首脳会議とRCEP首脳会議が開催された。世界経済における保護主義拡大の中で,今回のRCEP首脳会議におけるRCEP交渉妥結が期待されたが,結局,妥結できなかった。インドを除く15カ国が20章全ての章で合意したが,インドは関税交渉等で妥協しなかったのである。しかしながら,RCEPは現在の世界経済においてきわめて重要である。

 RCEPの「共同首脳声明」は,(インドを除く)15カ国が全20章に関する条文ベースの交渉及び15カ国の基本的に全ての市場アクセス上の課題への取組みを終了したと述べた。しかし,インドには未解決のまま残されている重要な課題があり,全てのRCEP参加国がこれらの未解決の課題の解決のために共に作業していくと述べている。

 RCEPは現代の世界経済にとって大きな意味を持つ。RCEPは世界の成長センターである東アジアのメガFTAである。東アジアにはAFTA(ASEAN自由貿易地域)や複数のASEAN+1のFTAは存在するが,広域のメガFTAは存在しない。RCEPが16カ国で実現すれば,世界の人口の約半分,世界のGDPと貿易総額の約3割を占めるメガFTAとなる。

 RCEPが実現するならば,第1に東アジア全体で物品(財)・サービスの貿易や投資を促進し,東アジア全体の一層の経済発展に資する。第2に知的財産や電子商取引など新たな分野のルール化に貢献する。第3に東アジアの生産ネットワークあるいはサプライチェーンの整備を支援するであろう。

 RCEPの実現は,日本経済と日本企業にとっても,きわめて重要である。日本にとって,RCEP参加国との貿易は総貿易の約半分を占め,年々拡大中である。またASEANと日中韓やインドを含むRCEPは,日本企業の生産ネットワークにきわめて適合的である。

 そしてRCEP交渉妥結は,現在の保護主義に対抗する大きな意味を持つ。RCEPは世界の成長センターである東アジアのメガFTA である。交渉妥結は,RCEPに入っていないアメリカに大きなインパクトを与える。また既に発行済みのCPTPPと日本EU・EPAとの3つのメガFTAの相乗効果が期待される。

 今回の首脳会議で,インドは成長鈍化の中での貿易赤字の拡大を懸念し,最後まで妥協しなかった。またインドはRCEPからの撤退を表明したとも報道されている。しかしインドも入っていることがRCEPに大きな意義を与える。インドは人口も多く,今後のアジアの成長の核である。またインドは,「自由で開かれたインド太平洋戦略」にとっても不可欠である。拡大する中国の影響力とのバランスを取るためにも,インドは重要である。

 インドは大国ではあるが,大きな貿易赤字を抱え,一人当たりGDPもASEANのCLMV諸国に近い。RCEP交渉の妥結にはいくつかの国に自由化やルール整備の経過措置を認める事も必要である。いくつかの猶予を与えながらもインドをメンバーに維持することが重要であろう。そしてRCEPから抜けることは,インド自身にも大きなマイナスであることを説き続ける必要がある。

 RCEP交渉において日本の役割は大きい。日本は,世界経済における保護主義の拡大の中で,CPTPPと日本EU・EPAを発効させ,保護主義に対抗している。RCEPを実現させて,3つのメガFTAの相乗効果を発揮させたい。更にアジア軽視になりそうなトランプ政権のアメリカに対する説得も,日本の役割となるであろう。今回の一連の首脳会議には,アメリカは大統領も副大統領も参加せず,大統領補佐官が参加しただけであった。

 そしてASEANはRCEPにおいて主要な役割を担う。そもそもRCEPを提案したのはASEANであり,交渉を主導している。RCEPでは「ASEANの中心性」が規定され,分野別交渉の作業部会ではASEANが議長国となっている。東アジア経済統合においては,ASEANが中心にいてバランスが保たれている。

 交渉には大変難しい面があろうが,日本とASEANが協力して,インドをも含めた形でのRCEPの交渉妥結が来年になされる事を期待したい。

[付記]
  •   RCEPとASEAN中心性に関しては,拙稿「ASEANと東アジア通商秩序―AECの深化とASEAN中心性―」,石川幸一・馬田啓一・清水一史編著『アジアの経済統合と保護主義:変わる通商秩序の構図』文眞堂(2019年11月新刊)を参照されたい。

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