世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1336

停滞する東ティモールのASEAN加盟問題

助川成也

(国士舘大学政経学部 准教授)

2019.04.15

 ASEANには1999年のカンボジアを最後に,新たな加盟国はない。「最後の加盟候補」と言われる東ティモールは2011年に加盟申請をしたものの,未だ加盟に至っていない。ASEANが未加盟国を惹きつける理由と東ティモールが加盟に至っていない要因は何だろうか。

ASEANの新規加盟に向けた検討の現状

 10カ国からなる地域協力機構である東南アジア諸国連合(ASEAN)は,全ての主権を加盟国が保持したまま,一部で共通政策を実施する緩やかな政府間機関である。既に1967年の設立から52年が経過しているが,依然としてASEAN加盟に対する域外国の関心は高いようである。

 最近では2017年,ASEAN議長国であったフィリピンのドゥテルテ大統領は,5月に中国で開かれた一帯一路フォーラムで,トルコとモンゴル両国首脳から,両国がASEAN加盟に関心を持っており,議長国としての支援を要請されたことを明らかにした(注1)。また,豪州は18年にASEAN豪州特別首脳会議をシドニーで開催したが,それに先立ち,豪州がASEAN加盟に関心を示していることが報道された。これに対し,インドネシアのジョコ大統領が「良い考えだ」として加盟を支持する考えを表明した。

 トルコ,モンゴル,豪州はASEAN加盟への関心を示したものの,憲章に規定された参加条件に合致しておらず,現実的には加盟は難しい。ASEAN憲章では第6条に新加盟国の加盟承認について明記されている。同条によれば,加盟承認の基準として,(a)東南アジアとして認識された地理的領域内の立地,(b)全てのASEAN加盟国による承認,(c)本憲章による拘束と本憲章の遵守に対する同意,(d)加盟国の義務を履行するための能力と意思,の計4つが挙げられている。

 現時点でASEANへの正式な加盟申請を行い,且つASEAN自体も加盟の是非を審議している国は,2002年にインドネシアから独立した東ティモールのみである。東ティモールは,2007年に東南アジア友好協力条約(TAC)に加盟し,2011年にASEAN議長国インドネシアに正式に加盟を申請した。東ティモールのASEAN加盟は,2015年末のASEAN共同体創設,2017年のASEAN創設50年の際,大きな話題になった。特にASEAN創設50周年の際は,議長国フィリピンが強く後押しした。しかし,ASEAN関係者によると,同国の加盟準備が整っていないとして特にシンガポールが反対,同年中の加盟は見送られた。

 2019年の議長国タイの外務省は東ティモールのASEAN加盟について,「将来的には加盟できるとは思うが,まずコンセンサスが必要。現時点で,加盟10カ国によるコンセンサスは得られていない」とした(注2)。また,ASEAN事務局で経済共同体を担当している幹部は,「東ティモールの加盟はASEANとしては歓迎。しかし,経済だけでも年間約700の会議がある。これを加盟国で負担しなければならない。また,物品やサービス他,ASEANがこれまで長年に亘り積み上げてきた約束全ての遵守を約束しなければならない。約束出来ないと新規加盟国にはなれない」(注3)と語っている。新規加盟に際し,東ティモールはASEANの各種措置の導入と履行等の面などで,ASEAN側の宿題に答えられていない模様である。

加盟のメリットとASEANの懸念

 ASEANがここまで長い期間,存続し,且つ未だに加盟への関心が高いのは,①ASEANの下での集団的経済政策実施による投資誘致効果,②ASEAN加盟で得られる集団的交渉力,等にある。ASEANは大臣会議や首脳会議に合わせ対話国などと個別且つ定期的に会議を開催する。更に,ASEAN主導で東アジア首脳会議,ASEAN地域フォーラム(ARF)等対話メカニズムの場を提供している。

 ASEANは対話の場の提供で,常にASEANとしての意見を関係国や国際社会に伝えることが出来る。また,域外大国に挟まれながらも,ASEANとしてまとまることで,域外大国に対する交渉力を保持している。東南アジアの小国にとって,ASEAN加盟は大国の過剰な介入を回避し,自らの利害・主張を実現する最良の方法である。

 しかし,その交渉力はASEANの結束および中心性(ASEAN Centrality)で裏付けられたものである。メコンの4カ国がASEANに加盟した90年代後半,社会主義や軍事独裁など異なる政治体制の国々を取り込んだことは,「協議とコンセンサス」を基本原則としているASEANの波乱要因にもなった。具体的には,援助等を通じて特定加盟国に影響力を持つ域外国が,ASEANの議論や決定に対し干渉するなど,全会一致が困難になる場面が度々見受けられ,ASEAN懐疑論が沸き起こった。これらは,特にASEAN原加盟国にとって深い教訓となった。

 ASEANは政治・安全保障共同体(APSC)ブループリント2025の中で東ティモールの加盟について,ASEAN関連活動に必要な能力開発の面を鑑みた上で検討されることが明記されている。ASEANは新たな加盟に対しては,ASEANの地盤沈下や足枷,ASEANの中心性が棄損することがないよう,慎重に検討を進めている。東ティモールは加盟に際し,少なくともこれら懸念を払拭出来る回答を準備し,更に将来的に議長国を担える人的資源や財政能力の開発・向上が不可欠である。東ティモールのASEAN加盟は2025年を一つの期限として,検討は中長期に亘る可能性がある。

[注]
  • (1)2017年5月16日付インクワイラー紙” Turkey, Mongolia want to join Asean — Duterte”
  • (2)日本アセアンセンター・ASEAN研究会主催ASEANミッション(18年9月2日〜8日,タイ,シンガポール,インドネシア)でのヒアリングによる。
  • (3)前脚注に同じ。
[参考資料]
  • 山影進編(2011)『新しいASEAN』日本貿易振興機構アジア経済研究所。
  • 鈴木早苗(2014)『合意形成モデルとしてのASEAN』東京大学出版会。
  • ASEAN Secretariat (2002), Joint Communique, The 35th ASEAN Ministerial Meeting, Bandar Seri Begawan, 29-30 July 2002.
  • Moe Thuzar (2017), “What does it take to join ASEAN?” ISEAS Perspective, ISEAS - Yusof Ishak Institute.
  • Rodolfo C. Severino (2006), Southeast Asia in search of an ASEAN COMMUNITY: Insight from the former ASEAN Secretary-General, Institute of South East Asia Studies, Singapore (ISEAS).

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