世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1249
世界経済評論IMPACT No.1249

2019年の世界を俯瞰する

真田幸光

(愛知淑徳大学ビジネス学部 教授)

2019.01.14

 「株は景気の先行指数である」と言われていることはご高尚の通りである。

 そうした意味では,昨年末,株価が7年ぶりに年初対比でマイナスとなり,「2019年のスタートは大丈夫なのか?」「2019年の景気は弱含みでスタートか?」と言った不安感がある中,本年は始まりそうである。

 2018年の日経平均株価の推移を見てみると,「年初来の最高値は10月2日につけた24,448.07円で,当初の市場の見通しでは,そのままの水準を維持し,25,000円程度で2018年末は終了するはずであったが,米中摩擦の拡大が経済のみならず,軍事外交問題にまで拡大したことが確認され,その結果,知的財産権の侵害とイラン取引に関与していたとの理由から華為のCFOがカナダで逮捕され,またカナダ人が中国本土で逮捕されるなどのきな臭い事件が続いた12月には株価は急落,10月2日からたった2ヶ月ほどで株価は一気に崩れる傾向を示し,結局は,先進国株価が揃って打たれ,下落傾向は改善されず,12月26日には2018年最安値となる18,948.58円をつけた。年末の12月28日には,なんとか20,000円台を回復し,20,014.77円をつけて終えたが,不安を抱えたまま2018年の取引は終わった」と総括出来よう。

 本年はまた,米中摩擦に加えて,BREXITをはじめとする欧州情勢の不安,イラン問題など中東情勢不安,が顕在化すると先進国株価が更に下落,日経平均株価も勿論下げ傾向を示す可能性がある。

 しかし,一方で,世界的な資金余剰の中,資金の行き場を求める投機筋は,チャンスを見て,先進国の株式市場に投機性資金を戻す動きを示そうことから,2018年と同様,株価は,「ファンダメンタルズ」は重要視しつつも,その時々の,「国際情勢」を背景に,ミニ上昇,ミニ下落を繰り返す,但し,その周期は,短期間化する可能性もあると見ておきたい。

  • 2018年の日経平均株価推移
  •  年初来高値24,448.07円(10/02)
  •  年初来安値18,948.58円(12/26)
  •  2018年年初23,506.33円(1/4)
  •  2018年年末20,014.77円(12/28)

 一方,投機筋は,借金をして投機をすると言う,「キャリートレード」を好み,現状では,「比較的安心安全の通貨で金利の安い通貨である円」でこのキャリートレードが行われていることから,国際金融市場が安定し,キャリートレードが拡大する局面では,株価が上昇する一方,円が米ドルやユーロに転換されて投機をされるものもあることから,円安が助長される。逆に国際金融市場が不安定化するとキャリートレードが解消される局面に入ることから,株価は下がり,米ドルやユーロが円に戻されて,借金が返済されていくことから,円高が助長されると見られる。

 従って,来年も,上述したように先進国株価が乱高下する中で,キャリートレードも機動的に展開されると,円・米ドル為替も乱高下する可能性もあると見ておきたい。

 こうした先進国の株価動向を意識しつつ,日本経済について眺めてみると,「潜在的なインフラ開発需要も弱く,人口は多く消費者の消費力も一定水準にあるものの生活必需品が基本的には一般庶民に行き渡っており,消費財の需要も限定的であり,安定成長という名の低成長にならざるを得ない,結果として,デフレからの脱却は容易ではない」と先ずは見ておくべきであると考える。

 実際に,日本銀行が物価上昇率2%を目標に金融政策を展開してきているが,なかなか,その水準には達しておらず,デフレ脱却は達成されていない。

 こうした中,国際情勢に恵まれ,輸出型の大企業が活発に推移すれば,日本経済の成長も牽引されようが,上述したように,混沌となると,大きな期待は持てなくなるかもしれない。

 特に,円・米ドル為替が相対的に円高傾向に転じようものならば,日経平均株の主要対象となる輸出型大企業の株価は下落傾向を強める危険性もあろう。

 更に,米国景気の低迷に加え,中国本土経済のリセッションが顕在化すると2019年の日本経済は輸出サイドで不冴えとなり,かなり厳しい状況になる可能性も出よう。

 一方,一昨年から進められている,「賃上げ」も大きな効果は示しておらず,直近の日本の平均年収は2018年の暫定統計では414万円程度と推計されており,平均では2017年よりも15万円ほど,むしろ低下している。

 こうしたことから,日本のGDPの6割を超える民間消費の拡大もあまり期待できない。

 このような現状を想定する場合,例えば,2019年には,気象災害,地震災害対策などを意識し,積極的に,計画的に,かつ,適切に予算配分をして,国家のインフラを抜本的に見直す,「国土強靭化計画」を立案,推進していけば,日本は国際金融市場の動向に拘らず,比較的堅調に推移していくことができよう。

 今年こそ,既得権益層の利権絡みの国土インフラ開発ではなく,「国の粋を集めた計画作りとその実行」を行うべきであり,それこそが,安倍首相が言い始めた,アベノミクスの三本の矢の三本目となる「成長戦略」にも繋がるものと思う。

 そうした意味で,2019年,大いに期待したい。

 尚,昨年末に米国のトランプ大統領と中国本土の習近平国家主席が電話会談を行い,両首脳は貿易摩擦の緩和に向け,協議を進めることで一致したと報告されている。

 トランプ大統領は,「米中関係は重要で,習国家主席との良好な関係を重視している」とコメント,これに対して,習国家主席が,軍事面なども含めて,米国との協調を図る姿勢を明確に示せば,昨年末に起こった先進国株価の下落は静まり,一点,上昇に向かうとの期待も出ている。

 年初の先進国株価の動向を先ずは注目したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1249.html)

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