世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
二つの凶悪事件と移民キャラバン問題の陰にいるのは誰か?
(Global Issues Institute CEO)
2018.11.05
中間選挙も近い10月下旬,トランプ大統領に批判的な一連の人々に,パイプ爆弾が送りつけられ,その犯人が逮捕された直後にピッツバーグのユダヤ教の教会堂で,11人が死亡する銃撃事件が起こった。それ以上に米国のメディアは,中米から米国に向かう約7000名もの移民キャラバンの問題を取り上げている。
以上の諸件には繋がりがある。実は今,米国で移民キャラバンに財政支援を行い,裏で操っているのは,ジョージ・ソロス氏であるという噂が流れているのである。
例えばNewsweekが10月28日に配信した“ERIC TRUMP SAYS PITTSBURGH SYNAGOGUE SHOOTING SUSPECT ‘DOESN’T REPRESENT THE RIGHT’”という記事でも,この説が紹介されていて,それを信じたために銃撃事件の犯人は犯行に及んだのではないかと彼のSNSへの投稿等から推測している。
但し同記事によれば犯人はトランプ支持者ではなく,むしろトランプ大統領も米国を破壊するグローバリストの一員であり,真の愛国者ではないとも投稿している。またNYTが10月27日に配信した“Cesar Sayoc, Mail Bombing Suspect, Found an Identity in Political Rage and Resentment”という記事では,パイプ爆弾事件の犯人も複数回の窃盗と人種差別等による脅迫事件を起こしており,2002年に母親が彼を精神病院に入院させようとしたが拒否し,その時点では政治に全く興味がなかったが,2016年に突然トランプ候補を応援し始めたという。
このように犯人達自身に非常な問題があるのであって,保守系New York Postも中立系The Hillも“この事件が中間選挙の結果に影響しないだろうし,してはならない”と主張しているが,それが正論だと思う。
にも関わらずリベラル系ワシントン・ポストが10月27日に配信した“Critics say Trump has fostered the toxic environment for the political violence he denounces” という記事では,トランプ大統領が移民キャラバンを操っているのはジョージ・ソロスだという噂の拡大に加担したため,二つの事件が起きたと批判している。だが同じワシントン・ポストが,同じ10月27日に配信した“In the closing days of the election, Trump turns to his favorite weapon”という記事では,米国有権者が重視する政策の中で移民問題は経済や医療保険に次ぐくらいに重要で,国境警備に関して頼りになるのは,トランプ大統領が民主党を8%上回っている。
そのためかNYTが10月23日に配信した“The Migrant Caravan and the Midterms”では移民キャラバンを操っているのは共和党ではないか? ―という“陰謀説”が主張されている。
だがUSA TODAYが10月26日に配信した“Caravan focus could backfire and cost Republicans in the midterms”では,この移民キャラバンがグアテマラからメキシコに入ろうとした時,米国の圧力を受けたメキシコ政府の警官隊等による催涙ガス等を使った鎮圧の様子は非常に残酷な光景で,同じことが米墨国境で起これば,トランプ政権に不利になると同記事は警告している。こんな危険な賭けを共和党がするだろうか?
FOXが10月26日に配信した“Progressives are using migrant caravan for twisted political game before midterm elections”という記事の中では,そのような事態を起こさせたり,トランプ大統領の移民キャラバン入国反対を米国精神の否定として批判することで,リベラル派が中間選挙を有利に闘うために移民キャラバン問題は利用されていると主張している。
更に同記事ではリベラル派は,大都市でエリートとして暮らしている人が多いので,移民キャラバンに対し同情的な論調を叫ぶのであり,もし(不法)移民に自らの身の安全を脅かされる状況になれば全く違うことを言うだろうと喝破している。これは米国の政治的,地域的分裂を指摘したとも言える。ユダヤ教の寺院での銃撃事件も,あるいはパイプ爆弾事件も,アメリカの宗教的な分裂の表れと言う人は多い。そう言う人ほど,その分裂を招いたのは,トランプ大統領であるように主張する。
WSJが10月29日に配信した“The Oldest Hatred”の中でも,「この機に乗じて政治的左派が早速,乱射事件の責任をトランプ氏に転嫁し始めている。ワシントン・ポストはこのテーマに関する複数の記事を掲載した。トランプ氏の娘がユダヤ教に改宗し,娘夫婦が子供たちをユダヤ教徒として育てているにもかかわらずだ」と述べている。そして「米国でイスラエルやユダヤ人を最も熱心に支援しているのは,福音派キリスト教徒」(WSJ日本語版より引用)だと主張している。
これは事実であり福音派こそトランプ大統領の非常に強い支持基盤である。
そしてDaily Beastが10月27日に配信した“Pittsburgh Synagogue Shooting Is a Moment of Reckoning for American Jews”という記事では,トランプ大統領に対するユダヤ系アメリカ人の支持率は20%程度だが,これはユダヤ系アメリカ人の中の宗教的民族派の人々であると述べられている。トランプ氏の娘婿の少なくとも父親は宗教的民族派のユダヤ系アメリカ人であり,イスラエルのネタニヤフ首相の盟友である。
どうやら今の米国は不法移民等を使って米国を混乱させ,自らの思い通りの無国籍で国際的ビジネスのやり易い国にしようとするジョージ・ソロス的な,グローバリストでリベラル派のユダヤ系を中心とする人々と,自らの宗教に熱心な民族派ユダヤや福音派の白人(ないし黒人,ヒスパニック)との間で分断され“見えない内戦”状態にあるようだ。
後者中心で米国を再統合し,前者がもたらした混乱を収束すること。それがトランプ大統領の歴史的な使命だろう。この度の出来事の影響を乗り越え中間選挙に勝利して欲しいものである。
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