世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1154

「空中シルクロード」の現況と課題:“一帯一路”構想の空間的広がり

小島末夫

(ITI 客員研究員)

2018.09.10

 周知のとおり,陸と海の現代版シルクロードとも呼ばれる中国の広域経済圏構想“一帯一路”は,今から丁度5年前に習近平国家主席によって提唱され,国家戦略の一つにも数えられた。それ以来,同構想はホットワードとなって広く耳目を集め,世界における同国の存在感を高めるのに大きな役割を果たしてきた。昨今では陸と海の分野に止まらず,“一帯一路”の一環として新たに空のシルクロードを始め,デジタル・シルクロードや氷上シルクロード(北極海航路)なども取沙汰されている。

 このように新領域の開拓が一段と進められ様々な展開をみせるにつれて,中国とアジア・アフリカ・欧州をつなぐ陸・海・空・ネットの四位一体型インフラ網が徐々に形成されつつある。そうした各種ネットワークの中で,本小稿では,とくに「空中シルクロード」の動向に焦点を合わせ,現在までの進捗状況について主に明らかにしたい。

 まず,「空中シルクロード」とは実際には一体何を指すのか? この概念が中国で正式に初めて公にされたのは,2017年6月のことであった。すなわち,ルクセンブルクのベッテル首相が対中国交樹立45周年(日本も同様)を記念して訪中した際,習近平主席が首脳会談の席上で,「中国側は鄭州〜ルクセンブルク間の『空中シルクロード』の建設を支持する」と表明したことに始まる。これは,中国河南省の鄭州(省都)〜ルクセンブルク間の国際貨物線を空路で開通させ,中国と欧州を結ぶ「空中シルクロード」実現への積極的な取り組みを後押ししたもの。

 だが,この「空中シルクロード」という考え自体は,もう少し以前から提示されていた。実はこれまで,毎年1月に「空中シルクロード」に関する国際フォーラムが北京で既に開催されてきており,本年1月末にも第3回目のそれが開かれたところである。その点から推察すると,国内的には少なくとも2015年の段階——“一帯一路”構想の具体的な計画文書を公表——において,何らかの形で別途併せて議論され始めていたものと思料される。また本年5月には同じく北京で「2018中欧航空サミット会議」が開催され,双方の間で「空中シルクロード」の拡大についても討議されたと伝えられる。

 それでは,従前の陸と海のシルクロードから新たな経路として「空中シルクロード」の構築が提起されるに至ったのは,どんな背景があるのか? 輸送モード別に見た世界の輸出入貿易では,大量輸送の可能な海上輸送が量的面で圧倒的に高いシェアを占めているものの,金額的には航空輸送がほぼ3分の1を占めるほどに伸びていて,陸海をも凌ぐほどの成長力を示していることが分かる。こうしてモノの荷動きが空(空運)に一層向かうようになっており,とりわけ産業の構造変化に伴う半導体等製品の高付加価値化やIoTの普及などを追い風に,今や航空貨物輸送の重要性が増している。そのため“一帯一路”沿線国への更なる連結と急増著しい越境ECなどに対応する輸送力の強化を図る上でも,航空の強みをより発揮すべく「空中シルクロード」の建設が求められていたのである。

 さらに,「空中シルクロード」初の中国側の起点都市として河南省の鄭州が真っ先に選ばれた理由は何であるのか? それは,河南省が約1億人の人口を有し域内総生産でも全国第5位を記録すると共に,中国中央部の中原地区にあって鄭州(米アップル社のiPhone生産基地)が全国屈指の交通の要衡に位置しているからにほかならない。こうして航空輸送の分野では,中欧間の枢要な結節点として中国河南省の鄭州・新鄭空港と欧州の物流拠点であるルクセンブルクのフィンデル空港の間で,貨物直行便が就航するようになった。両者の関係が強まったのは,2014年に中国政府系の河南民航発展投資有限公司がルクセンブルクを拠点に国際貨物輸送を手がけるカーゴルックス航空の株式35%を購入(出資)したことが契機である。そして同年6月には鄭州〜ルクセンブルク間の国際航空貨物ルートが開通し,当初は3本の航空路線,つまり鄭州〜ルクセンブルク,鄭州〜ミラノ,ルクセンブルク〜鄭州〜シカゴ間が運行されるようになった。そうした結果,鄭州〜ルクセンブルク間の航空貨物便は,2014年時点の週2便(貨物輸送量1.5万トン)から2017年には週16便(同14.7万トン)へと増加された。今や鄭州空港の貨物総取扱量は2017年に初めて50万トンの大台を突破し,世界の空港トップ50内にランクインするまでに達している。

 いずれにせよ,当面の課題の一つとしては,「海より早く,空よりも安い」触れ込みで近年急速に伸びている中欧班列(“鄭新欧”など中欧間横断鉄道)との競合状態から,如何に差別化を図り優位性を発揮していけるかどうかにあると言えよう。

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