世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1062

トランプの矢継ぎ早の決断とその後遺症についての一考察(その4):結果を予見しないままでの,生存本能の発現

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2018.04.30

 ここで少し脱線して,ボルトン新補佐官について若干の言及をしておこう。

 ボルトンは,2017年2月のフリン解任後の国家安全保障担当補佐官候補として,トランプが直接面談した3名の内の一人。この面談で,ボルトンは「戦いを仕掛け,明るい将来を切り開いていこう」と好戦的なアピールをトランプに行ったとされる。

 面談の結果は,マクマスターの採用となった(クシュナーが強く推したとの説もある)。それが今回,マクマスター更迭の後釜に,ボルトンが任命されたという次第。こうした事情を踏まえれば,如何に狭い範囲で候補者が人選されているか,逆にいえば,トランプの周りに人材がいないか,今回の人選過程から,そんな状況も垣間見られるというものだ。

 北朝鮮問題に話題を戻すと,今回の北朝鮮トップとトランプ大統領との直接会談合意に,米韓の諜報機関の連携が大きかった,とされる点も問題だろう。

 NY TIMES紙等によると,北朝鮮と米国のパイプを担ったのが韓国の諜報機関であり,米国の受け皿だったのがCIAだったという。そして,CIAのマイク・ポンぺオ長官が,トランプ大統領によって,次期国務長官となる(議会上院での承認を経て)という構図。

 この構図で明らかなのは,国務省の役割の縮小であろう。

 ポンぺオ国務長官の議会承認までには,幾ばくかの時間がかかる。

 その間の事前交渉パイプは,結局は,依然としてポンぺオ指揮下でCIAが担い続けるのか,或いは,ホワイトハウス内の国家安全保障会議の指示を国務省が実行に移す形に戻るのか…(その国家安全保障会議の取りまとめ役が,マクマスターからボルトンへ交代することになったが,この入れ替わりが米国の出方にどう効いてくるのか…)。仮に国務省が,事前交渉役を担うとなっても,国務省内の主要ポストが依然空席,そんなスカスカの体制で,微妙な事前交渉を担えるのか…。

 国務省が手薄となれば,日本の外務省は,この微妙な事前交渉時の米国との情報共有を,米国内のどの機関と行うのか…。例えば,拉致問題をトランプ大統領に持ち出させる,そんな,米朝首脳会談に臨む,日本なりの対米事前交渉を,日本の国家安全保障局が為しうるのか…。そうした役割までも総理自身が行うのか(恐らく総理自身が直接拉致問題を入れるよう,トランプ大統領を説得する,そうなりそうだが…)。そうなれば,交渉好きのトランプは,見返りに安倍総理に何を要求してくるだろうか…。そうした一連のシナリオを想定すると,どうしても,日本としての不安が次々と浮上してきてしまう。

 さらに,米朝首脳会談が実現するということになると,北朝鮮と中国の関係に動きも出てくる。そうした関係は,恐らく,北朝鮮とロシアとの関係にも及ぶかもしれない。或いは,北との接触の感触を,中国は韓国や米国にも事前に伝えてきたという。そうなると日本は,どういう立ち位置になってしまうのか…。

 話が長くなるので,他の関連問題にも眼を向けておこう。

 例えば,鉄鋼とアルミへの関税賦課問題(前者は25%,後者は10%)。

 トランプ大統領が,NAFTA交渉上の必要を指摘して,メキシコとカナダを関税賦課の対象から外した。これが切掛けとなり,次いで,オーストラリアに対しても,大統領は,同盟関係上の重要なパートナーであることを理由に,対象から外す旨の発言を行い,その際,ご丁寧にも,「他の同盟諸国にも,同様の適用除外への道が開かれている」ともとれる発言を,付け足した(韓国が,その範疇で,適用除外になった由)。

 これで,諸外国も,米国から関税賦課の例外の言質を取ろうと,一斉に動き出す(EUは,早々と,暫定除外を勝ち取っている)。

 しかし,じっくりと考えてみれば,そもそもメキシコやカナダ,或いは,オーストラリアの鉄鋼業やアルミ製造業は,それほど強力だったのか。つまり,彼らの当該産業にとって,米国の関税賦課免除がどれほどの重要さを持つものなのか…。恐らく,その重さは,日本や中国のそれとは比べ物にならないほど,軽かったはず(この点,韓国は実利を得た感が強いが…)。

 だとすれば,鉄鋼やアルミで,本来は余り重要ではないメキシコやカナダをダシにして,中国や日本から譲歩を引き出そうとの,トランプ流交渉戦術も一層鮮明になってくるではないか…。こう考えると,ひょっとして,韓国が除外されたのは(米韓自由貿易協定の再交渉妥結とも相まって),来るべき米朝,或いは,米朝韓首脳会談に於いて,一方では,韓国を米国側に一層引き寄せ,他方では,経済問題などで日本からより大きな譲歩を引き出す,そんな複合目的もあったからでは,などとの邪推すら生まれてくるではないか…。

 また,通商紛争では,諸外国が米国の対応変更を迫る際,当該国,もしくは当該国産業自身が前面に出ずに,米国内での利害関連産業に,ホワイトハウスへのロビー活動を代理させるのが常套手段。かくして,鉄鋼のパイプを使う米国の石油やガス産業,輸入国の報復を恐れる米国の農産物輸出業者団体,輸入アルミ缶を使う米国のビールや飲料会社等などが,自己利益を主張して,特定国への関税賦課を除外するよう,ワシントンで一斉に動き出す。

 しかし,こうした“除外を求める”ホワイトハウスへの求愛行動が高まることこそ,トランプ大統領にとっては,当該国との交渉で,有利な立場を構築出来るチャンス,とも見えているはず。

 外国側,もしくはその代理団体が,求愛行動を強めれば強める程,米国優位の妥協も可能になる。大統領の胸に,そんな交渉戦略が明確に根付いているに違いなかろう。

 例えば,日本が鉄鋼の関税賦課の除外を求めれば,その条件に,米国の武器をもっと買えという風に…。トランプ大統領の交渉術も,結局は,かつての襷掛けの相互主義なのだと考えた方が良いかもしれない。(つづく)

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