世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1056

正念場にさしかかったアベノミクスと日本経済

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部 講師)

2018.04.16

 2012年12月の第2次安倍政権発足から丸5年が過ぎて,6年目に入った。この間,日本経済は,いわゆるアベノミクスにより,全般的に好調であり,デフレ脱却まであともう一歩のところまできた。このように,よく新聞やTVなどのマスコミでは報道されている。

 果たして,アベノミクスによって,本当に日本経済は,回復して好調を維持しているのであろうか? 本コラムでは,このことについて,懐疑的に考えたい。

 アベノミクスとは,安倍政権の経済政策の総称であり,3本の矢から構成されている。第1の矢は,異次元の金融緩和策であり,第2の矢は機動的な財政出動であり,第3の矢は規制改革である。この柱のうち,第1の矢は,日本の中央銀行である日本銀行(日銀)との連携により,強力に推進されている。この異次元緩和には,量的緩和も含まれ,日銀はETFを通じて,株式も購入している。その結果,日本の株式市場は上向き,現在,日経平均株価は2万円を超える水準を維持している。また,円ドル市場でも,円安傾向が定着して,現在は1ドル=106円前後である。

 このように,金融・資産面から日本経済を見ると,経済は堅調である。では,実物面から見ても,日本経済は一見,好調のように見える。日本経済の成長率は,潜在成長率である0%前半を超える成長率を維持しており,雇用状況も良い。失業率も低く,有効求人倍率もバブル期以来の良い数字である。これらの数字もアベノミクスによってもたらされたものなのであろうか。以下では,有効求人倍率に焦点を当てて,考えていく。

 第2次安倍政権発足時の2012年12月と2018年2月のテータを職業別に比較する。厚生労働省によると,2012年12月の有効求人倍率は0.79である。職業別で見ると,最も高いのが医師・薬剤師等の7.58倍,最も低いのが,一般事務の職業の0.19倍である。このように,職業別にかなりの差があるのが,特徴である。有効求人倍率が高いのは,建設躯体工事の職業の5.69倍,保健師・助産師等の3.25倍,接客・給仕の職業の2.29倍,介護サービスの職業の1.96倍である。これが2018年2月になると,有効求人倍率は1.51となり,職業別で最も高いのは設躯体工事の職業の10.46倍であり,一般事務の職業の0.44倍である。有効求人倍率が高いのは,医師・薬剤師等の5.58倍,接客・給仕の職業の4.21倍,介護サービスの職業の4.02倍,保健師・助産師等の2.56倍である。

 このように,2012年12月と2018年2月を比較すると,人手不足の問題は,構造上のものであることが分かる。つまり,医療関係の規制産業か,いわゆる3Kといわれる今の日本で敬遠されがちな産業である。したがって,アベノミクスの第1の矢とは関係なく,日本の人口構造や各種の規制によって人手不足が悪化している。

 これから分かるのは,アベノミクスの第3の矢である規制改革が不十分であるということである。この不足を解消するには,介護や医療における規制改革や海外労働者の受け入れなどの根本的な原因に対処する必要がある。確かにアベノミクスの第1の矢である金融緩和によって,日本経済の金融面は確かに堅調である。しかし,雇用などの実物面をみると,まだまだすべきことがある。介護・医療などの社会保障改革や外国人労働者に関する規制改革を実行する必要がある。これらの政策は,長年言われていて新鮮味がなく,地味ではある。しかし,日本経済の持続的成長を達成するには,選挙民の受けは良くなくても,実行しなければならない政策である。その意味では,まさにアベノミクスは今,まさに正念場を迎えている。

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