世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1053

ASEAN日本人起業家と新イノベーション:起業家たちが巻き起こす「3スタートアップイノベーション」

佐脇英志

(亜細亜大学 特任教授)

2018.04.16

 ASEANでは,近年,スタートアップ企業の動きが活発化している。ベンチャーキャピタル(VC)が急速にASEANに流れ込み,2012年までは日本を下回っていたASEANのVCの総額は急激に増加し,4年後の2016年には日本の3倍以上に膨張している(KPMG2017)。VCをはじめとするエコシステムの充実を背景としたASEANの起業家ブームの中で,日本人の起業家の活動も盛んになっている。彼らは,身一つで日本を飛び出し,海外の厳しい経営環境の中でローカルに溶け込み身を立ててきたが,その煩悶苦闘のプロセスの中でイノベーションを巻き起こしている。ここで最近のスタートアップに観察される3つの新タイプのイノベーションを下記紹介する。

  • ①タイムマシーン経営(Time Machine Innovation)
  • ②ピボット戦略(Pivot Innovation)
  • ③リープフロッグ戦略(Leap Frog Innovation)

 まさに「3スタートアップイノベーション」と呼べる新しいタイプのイノベーションである。

①タイムマシーン経営(Time Machine Innovation)

 海外で成功したビジネスモデルを国内にいち早く持ち込む経営手法であり,ソフトバンクの孫正義が命名したとされる。有名な事例は,サイバーエージェント藤田晋氏の「サイバークリック」である。1998年当時,藤田氏がUSAで行われている「クリック保証型広告」を見つけ日本に輸入した。見た人が1回クリックをしたら幾らという広告は今では当たり前であるが,当時は画期的な手法でありまさにタイムマシーン経営と言える。ASEANの日本人起業家のケースでは,松田励氏の率いるNewlegacy Hospitality社が,「Bed and Café」という新しいコンセプトのホテルを2016年にバンコク,2017年にクラビ,プーケットにオープンし東南アジアに1000件の開業を目指すというVisionを掲げ頑張っている。中級ホテルのポジションだが,その中で最高のレビュースコア(アゴダ,エクスペディア)を維持している。実はホテルのベースにあるビジネスモデル(小規模ホテルをリノベ&賃貸モデルで運営)は中国に既にあり,輸入したとのことである。ASEAN Japan Consultingを率いる阿部俊之氏は,タイに日系中小企業の進出が増え,進出可否検討の調査(Feasibility Study)の必要が出てきたというビジネスチャンスを見逃さなかった。ニッチ市場を手掛ける日本の品質の調査レポートをタイに持ち込むという正にタイムマシーン経営である。

②ピボット戦略(Pivot Innovation)

 事業の「方向転換」「路線変更」で,主にスタートアップが,当初のビジネスモデルから方向転換し,市場ニーズに合わせることである。有名な例では,元々写真と現在地を共有するソーシャルチェックイン機能だったInstagramは,ピボットして写真共有をメインとするサービスへ転換し大成功した。また,当初デジカメ用のプラットフォームだったAndroidは,オープンソースのモバイル用OSの開発にピボットし大成功し,現在のAndroidがある。なかなか新事業に踏み出せず,方向転換できない恐竜のような日本の大企業とは対照的である。小田原靖氏率いるタイ国最大の人材紹介会社Personnel Consultant社は,立上げ当初は不動産会社であったが,タイの今後の人材ニーズを見通し,人材会社に大きく舵を切った。最近では,起業家支援のためにレンタルオフィスを経営し,また近隣のミャンマー開放を踏まえて現地に人材会社を立ち上げている。このようにアジアの起業家は,経営環境の変化に機敏に反応し,ピボット(事業転換)を行っている。

③リープフロッグ戦略(Leap Frog Innovation)

 先進国が遂げてきた発展過程をテクノロジーの活用により一段飛びで抜かす現象である。特に新興国において,途中段階を飛び越え最先端の技術を取り入れて一気に進化することである。例えば,通信手段であれば,固定電話を持つことなくいきなり携帯電話を持ったり,商業であれば,デパートやショッピングモールを飛び越えてe-コマースに行ってしまう。さらには,交通手段に関しては,車を所有することなく,UBERを使うようになるといった事例である。特に業界団体,自国保護規制のため身動きできず進歩から取り残された日本と比べ,UBERを入れながら,自国のクローン(Grab, Go-Jek)を養成し技術を高めるASEANは対象的である。2014年に齋藤氏が設立したEmpag社は,タイで新鮮野菜直送ビジネスに着手し業績を上げてきたが,2017年にお料理動画制作ビジネスに乗り出し,売り上げを倍増させた。お料理動画制作ビジネスはピボットであるが,ビジネス自体はリープフロッグと言える。元々,経済的理由もあり自宅に台所を持たない習慣のタイ国の家庭で,お料理教室等を飛び越して,お料理動画にリープフロッグしているのである。

 

 日本のイノベーションランキングは,これまで世界4位〜5位で推移していたが,2016-2017年版では8位に後退。さらに,イノベーション能力自体になると世界21位まで落ち込んでいる(世界経済フォーラムWEF・国際競争力レポート)。ASEANに飛び出していった日本人が巻き起こす「3スタートアップイノベーション」は,画期的ではないかもしれないが,パラダイムを変えるイノベーションである。沈滞する日本企業が復権するためのロールモデルにしたい。

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佐脇英志

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