世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1039

習近平体制2期目の市場開放政策とアジア大市場の形成

唱 新

(福井県立大学 教授)

2018.03.26

 3月20日に全国人民代表大会が閉幕し,新しい国家体制が誕生し,習近平2期目の体制は本格的に発足することになった。国家主席の任期撤廃により,習近平政権の長期化が見込まれているが,それは中国の政治と社会にどのような影響を及ぼすかに関しては,いまのところ,すぐ結論を出すのは時期尚早であり,今後,その動向を見つめていく必要がある。

 経済の面に目を転じると,中国経済は確かに金融リスク,過剰債務,国有企業改革などの課題を抱えてはいるが,貧困削除,新興産業の育成,供給側改革及びイノベーションの促進などによる経済成長の質の向上を通じて,段階的にこれらの問題を解決し,経済は中長期的には安定的な成長を維持することが出来るのはほぼ間違いないであろう。こうした中で,アジアにとって特に注目すべきは対外政策のあり方である。これに関しては,李克強首相は『政府工作報告』の中で,以下の四つの方向で対外開放の一層の拡大を推進していくと表明している。

 第一は,「一帯一路」国際協力と「国際産能協力」を中心に「チャイナ製造」と「チャイナサービス」の対外拡大を促進すること。第二は,外資系企業の対中直接投資に対し,投資分野の拡大と規制緩和を推進すること。第三は,自動車・日常消費財の輸入関税の引下げによる国内市場の開放を通じて,産業構造の調整と貿易収支の均衡を促進すること。第四は,多角的通商交渉による貿易・投資の更なる自由化と利便化を通じて,自由貿易と経済のグローバル化を推進することなどである。さらに李克強首相は人民代表大会閉幕後の記者会見では消費財,薬品,自動車の大幅な関税引下げを表明した。

 中国の市場開放に関しては,外国資本に対する投資分野の拡大や規制緩和を実現するには時間がかかるとみられているが,足元では関税引下げによる国内市場の開放は現実味を帯びており,世界各国,とくにアジアの各国にとって,多くのビジネスチャンスを生み出すことになっている。

 中国の対外政策は従来の一方的な輸出拡大から輸出拡大と輸入促進を同時に推進する方向に転換しつつある。その背景は長年にわたって貿易黒字の累積により外国との貿易不均衡をもたらしたからである。2017年には輸出は7.9%増の2兆2634億ドルに対し,輸入は15.9%増の1兆8409億ドルで,貿易黒字額は英国の輸出額に匹敵する4625億ドルに達していた。巨額な貿易黒字は国内ではインフレや不動産価格の押し上げ要因となり,対外的には多くの国との貿易不均衡ひいては欧米との貿易摩擦を募らせている。それゆえ,国内インフレの抑制と外国との貿易均衡を図る上では,国内市場の開放も迫られている。

 こうした中で,中国はかつて,2015年6月,2016年1月,2017年1月の3度にわたって,消費財の関税引き下げを行ってきたが,2017年12月1日からさらに食品,健康保健用品,履物・衣料品,家庭用電気機器,薬品,レジャー用品,雑貨など,HS8桁分類の187項目,計8000種類の商品に対し,平均輸入関税率を17.7%から7.7%への引き下げ,さらに5年後にはその多くの商品について,0%にすると表明した。また輸入拡大の一環として,2018年11月には上海で,中国初の「輸入促進博覧会」を開催する運びとなっている。

 今回の関税引下げにより,中国の消費者は越境ECを利用して,外国製品の「爆買い」も予想されており,ASEAN諸国からの果物,農林水産品,韓国からの家庭用電気機器,ヨーロッパからの酒類・食品の輸入が増えており,とくに中国とFTAを締結している多くの国々はその恩恵を受けると見込まれている。こうした中で,中国に空間的距離が近い日本にとっても,多くのビジネスチャンスをもたらすのは間違いないであろう。

 中国は関税引下げにより,国内市場の開放に踏み切ったのは,国内の産業構造の調整,貿易黒字の削減,欧米との貿易摩擦の緩和を狙っているが,これまでに世界最大のアブソーバーとしてのアメリカでは保護主義的貿易が台頭している中で,中国の市場開放はアジア大市場の形成を促進するであろう。こういう意味では,CPTPP(包括的及び先進的な環太平洋パートナシップ協定)だけでなく,物品貿易の共同市場の形成に重要な意味合いを持つRCEPの早期締結も重要な課題となっている。

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