世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国のトランプ関税への対抗策と日本への示唆
(福井県立大学 名誉教授)
2025.07.21
世界各国はトランプ関税政策に脅かされる中,日本もその対策に悩まされている。その中で,中国は効果のある対策でその影響を最小限に抑えており,それは日本への示唆となるではないでしょうか。それはレアアースの輸出管理を強化するだけではなくて,第三国市場への輸出を大幅に拡大したからである。即ち,中国はRCEP,上海協力機構,「一帯一路」,BRICS首脳会議などの経済協力プラットフォームを通じて,グローバスサウスへの輸出を拡大し,市場での「脱対米依存」を着実に推進している。
トランプの中国への関税政策は2018年からであるが,その翌年の2019~24年の5年間,中国のGDPは4.1兆ドル,輸出額も1.1兆ドル増えて,経済の安定成長を果たした。2025年上半期の輸出についてみると,対米の輸出は昨年同期比−10.4%と大幅に下落したにもかかわらず,米国以外の国(地域)への輸出は対ASEANが13.0%増,対中南米が7.2%増,対アフリカが21.6増%,対「一帯一路」関係国が9.6%増となって,結局,輸出全体では5.9%増となった。
その結果,ASEANは中国の輸出先で第一位となっており,アメリカ市場はASEAN,EUに次ぐ第三位の輸出先となり,米国への輸出依存度も2018年の20%以上から2025年6月時点の12%へと低下した。さらに2021年から,中国のグローバルサウスへの輸出はG7への輸出を上回って,むしろ,グローバルサウスは中国の主な輸出先となりつつある。
日本に目を転じてみると,いま,アメリカへの輸出依存度は20%以上となっている一方,中南米,中東,アフリカへの輸出は輸出全体の一割未満となっており,特に自動車の対米依存度(33.6%)が高すぎて,グローバルサウスの新興市場への輸出が少ないといわざるを得ない。日本企業にとって,新興国は大きな潜在力がある市場だ。
いま,中国の輸出は勢いがあり強さを増しているが,中国の産業と日本の産業は競争関係というより,むしろ相互補完関係にある。即ち中国企業は巨大な国内市場をバックに標準化・大量生産によって,コストが安くて,技術水準も上昇している。日本企業は「品質と機能が良い,信用が高い」という強いブランド力を持っており,技術水準の高いハイエンド分野では依然として競争優位が強いといえよう。とくに自動車,精密機械,産業ロボットなどの産業では中国は一般技術による大量生産であり,日本は高度技術によるハイエンド製品だという住み分け関係はこの先短期間で変わらないだろう。とくに第三国市場では中日産業は競争関係というよりも,こういう住み分けの分業関係も強いといえよう。
なお,今の円安は日本の海外市場確保の追い風となっている。いかにその優位を活かして,経営資源を集中的に中国,ASEAN,インド,中東,中南米,アフリカに投入するかは,日本企業にとって焦眉の課題となっている。
最後に経済の視点からみれば,トランプの関税政策はアメリカの経済力が弱まった表れである。これからの世界経済はグローバルサウスの時代が始まり,それにはさまざまな課題を抱えているものの,各国は新興市場の確保競争に凌ぎを削っている。日本もこの流れに遅れないことを期待している。
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