世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1021

ルネサンスプロジェクトは単なる掛け声に終わるのか?:三菱東京UFJ銀行によるインドネシアのダナモン銀行買収

伊鹿倉正司

(東北学院大学 教授)

2018.02.26

 一昔前,髭男爵(ひげだんしゃく)というお笑いコンビの「ルネッサ〜ンス」というギャグが少し流行ったことをお覚えだろうか。当時,居酒屋に足を運ぶと,若者のグループから「ルネッサ〜ンス」という乾杯の掛け声が聞かれたが,一発ギャグの宿命か,いまではお笑いコンビの存在とともに掛け声も全く聞かれなくなった。

 2017年12月26日,三菱東京UFJ銀行は,インドネシアのダナモン銀行の買収を発表した。ダナモン銀行は,株式時価総額でインドネシア国内第5位,総資産額で国内第8位の大手銀行であり,主に自動車ローンや中小企業向け貸出に強みがあるとされる。ダナモン銀行の株式取得は3段階で行われる予定であり,同月29日には発行済株式総数の19.9%の取得が完了し,2018年半ばには40%の取得が予定されている。三菱東京UFJ銀行は,最終的にはダナモン銀行の73.8%の株式を取得し,連結子会社化を目指すとされる。買収金額が約7,000億円に達するこのプロジェクト名は「ルネサンス」。これまでの邦銀による海外銀行の買収としては,2013年のタイのアユタヤ銀行(クルンシイ)の約5,400億円を上回る最大規模の事案になる予定である。

ルネサンスの真意とは?

 今回のダナモン銀行の買収は,前身の横浜正金銀行が1893年5月に上海出張所を開設したのち,およそ120年(1945年6月〜1952年3月の期間を除く)にわたる三菱東京UFJ銀行のアジア進出の集大成といえる。しかしながら,この買収が,同行にとってルネサンス(再生)と命名するほどの意味があるものなのだろうか?

 元来,ルネサンスとは,14〜16世紀の西ヨーロッパで起きた革新的な文化運動として広く理解されているが,この言葉が企業と結びつくとき,カルロス・ゴーン氏による日産自動車の再生を想起させる。1990年代後半,深刻な経営難におちいった日産自動車を,ゴーン氏は徹底した経営合理化を断行することで,わずか数年で黒字化に成功した。この再生劇は,コストカッターとしてのゴーン氏の経営手腕によるものが大きいと捉えられているが,ゴーン氏の自伝『ルネッサンス:再生への挑戦』でつづられているように,日産自動車は,企業としてあるべき姿を取り戻したにすぎない。すなわち,社内の円滑なコミュニケーション,顧客やサプライヤーとの信頼関係,そして自動車メーカーとしての誇りである。

 銀行法第2条で定められているように,銀行の本質的業務は,預金,貸出,為替の3つの業務である。特に貸出業務においては,預金・為替が主として受動的な業務なのに対して,借り手の資金返済能力を審査し,適切な金利を設定して貸出を行うという意味で能動的な業務であり,また,社会における銀行の存在意義が最も問われる業務である。しかしながら,現在のわが国の銀行による貸出業務は,企業の資金需要の長期低迷,異次元の金融緩和に伴う貸出利ザヤの縮小,担保の過度の依存による目利き能力の低下などにより,金融仲介機関としての役割を十分に果たすことができなくなっている。

 一方,インドネシアに目を転じると,資源価格の動向に左右されやすい不安定さはあるものの,東南アジア最大の約2億6千万人の人口を有し,実質経済成長率が5%を超える好調なマクロ経済を背景にして,企業や個人の資金需要は旺盛である。また,貸出利ザヤも厚く,担保法制が未成熟なため,借り手の資金返済能力を見極めるための高い目利き能力が銀行に求められる。まさに現在のわが国とは対照的な金融環境がインドネシアにはある。

 1980年代のバブル期以降,わが国の貸出の現場で失われつつある顧客との信頼関係,目利きの力,そして,バンカーとしての誇りを取り戻すため,異国の地でその再生に挑む。この買収プロジェクトがルネサンスと命名された真意は、まさにそこにあるのではないだろうか。

ルネサンスは成就するのか

 最近,東南アジアの地場銀行による店舗再編のニュースが相次いでいる。シンガポール最大手のDBSが,将来的な店舗全廃を表明していることは,前稿「ASEANで進展する新たな地域金融統合の姿」で触れたが,今年1月,総資産額でタイ国内第3位のサイアム銀行が,大胆な店舗再編計画を発表した。その計画は,モバイルチャネルや人工知能などのデジタル技術を積極的に導入して,2020年までに現在の約1,150店舗を400店舗に集約するともに,1店舗あたり平均10名程度の人員を半減させるというものである。これにより,営業経費を約30%も削減できるとされる。昨年10月,わが国のメガバンク3行が,単純合計で約3.2万人分の業務を削減し,また,今後数年で各行数十店舗の統廃合を打ち出したことで世間を騒がせたが,東南アジアで今後起こるとされる再編は,わが国と比べてはるかにドラスティックなものである。

 現在,三菱東京UFJ銀行は,インドネシア国内にジャカルタ支店と10カ所の出張所,ファイナンス・カンパニーを1社有しているが,ダナモン銀行を傘下に収めると,さらに1,800超の拠点と約4万人の従業員(いずれも連結ベース)を手に入れることになる。これらの拠点や人員をテコに,三菱東京UFJ銀行は主として中小企業向け貸出を深耕していくものと考えられるが,一方で,コスト削減をどのように進めていくのか。ルネサンスの成就には,この背反する難しい課題の克服が求められている。

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