世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.979
世界経済評論IMPACT No.979

2018年春までにNAFTA再交渉は合意できるか

高橋俊樹

(ITI研究 主幹)

2018.01.01

 NAFTA再交渉の第1回目は2017年8月16日〜20日までワシントンで行われた。第2回目の再交渉は9月1日〜5日までメキシコシティ,第3回目は9月23日〜27日までカナダのオタワで開催された。第4回目は10月11日〜17日まで再びワシントン,第5回目は11月17日〜21日にメキシコシティで行われた。第6回会合は,2018年1月23〜28日にカナダのモントリオールで開かれる予定だ。

 第1回〜第3回までに,中小企業の活用促進,競争政策,デジタル貿易,規制慣行,税関・貿易円滑化,国有企業,衛生植物検疫措置(SPS),の分野で交渉が進展した。

 第3回会合では,米国はアンチダンピング(AD)と補助金相殺関税(CVD)の発動に関する紛争解決制度(第19章),及びセーフガード措置の発動に関するNAFTA加盟国の適用除外規定(NAFTA802条)の撤廃を提案。

 同時に,繊維製品の原産地規則の例外である「非原産繊維製品特恵関税割当(TPLs:北米産であるかどうかを定めた原産地規則を満たせなくても,1つ以上のNAFTA諸国で実質的な加工を受ける特定の量の糸,織物,アパレル製品などに無税輸入を認める特恵制度)」の廃止を求めた。

 そして,米国はカナダとメキシコからの政府調達の規模を,両国が米国に開放する規模と同程度にすることを要求したが,これには米国の政府や産業界からも反対の声が上がっている。カナダはNAFTA第19章の改正案を示しているようだが,内容は不明である。

 第4回目では,米国は5年ごとに3カ国が継続で合意しない限り協定は失効するとした「サンセット条項」の導入を求めた。メキシコはこれに対し,5年ごとに内容を見直すとした対案を正式に提示した。また,米国は自動車の原産地規則において,付加価値基準を現行の62.5%から85%へ引き上げ,さらに50%の米国製部材(コンテンツ)の使用を義務付けることを要求。そして,投資家が国家を訴えることができるISDS条項において,NAFTAのそれぞれの国が利用を選択できる規定の導入を提案した。

 第5回目では,米国が第4回会合で提案した原産地規則の改正案に対して,メキシコとカナダはこれを受け入れない姿勢を示した。両国はまた,紛争解決の枠組み廃止にも反対した。前回会合で提案された米国コンテンツの50%使用は,米国のカナダ・メキシコからの輸入車で,東南アジアのコンテンツが米国コンテンツを上回っていることから,導入が求められたようである。

 また,米国は鉄鋼製品にトレーシングルール(当該部品の輸入時点まで遡って「非原産材料価額」に含める)の適用を要求した。これが認められれば,日本から鋼材を輸入してメキシコで自動車を生産する場合,付加価値基準を満たすことが難しくなりそうである。

 知的財産権の分野においては,インターネットを活用したサービスの規制緩和(関税の免除,データ・センターの強制的な現地化要求の禁止),著作物の保護期間の延長(50年⇒70年),さらには特許期間を実質的に引き延ばす薬品の開発データ保護期間の延長,などが話し合われる見込みだ。

 ISDS条項は,そもそもNAFTAで導入されたものだが,NAFTA再交渉では,前述のように北米3カ国がそれぞれISDS条項を利用するかどうかを選択可能にする規定が米国から提案されている。一方,カナダやメキシコはEUカナダFTA(CETA)で採用されている投資裁判制度を提案しており,3カ国から独立した裁判所で審議するなど透明性を高めることを狙っている。

 労働においては,米加の労働組合は,USTR(米国通商代表部)が2017年7月17日に公表したウイッシュリスト(交渉目的をリストアップしたもの)での労働条項は不十分とし,規則に違反した国に関税引き上げなどの対抗措置が取れることを要求している。

 このように,NAFTAの再交渉は,原産地規則を始めとして,政府調達,紛争解決制度(第19章),知財,ISDS条項などに至るまで,少なからぬ懸案事項を抱えている。このため,既に2017年内の合意は第5回会合直後に断念しているが,2018年3月の妥結目標の達成も難しくなってきているのが実態である。

 ただし,米国議会において,税制改革法案が12月20日に上下両院とも通過したことは朗報である。これまでトランプ政権は大きな業績を上げていないこともあり,税制改革法案の成立はNAFTA再交渉の重要性を相対的に低下させる。これにより,トランプ大統領がNAFTA再交渉における強硬な姿勢をある程度は緩和する可能性が出てきたことになる。原産地規則では,米国政府は厳しい要求を出しているが,米産業界は必ずしもこれを歓迎しているわけではない。

 これにより,もしも米国におけるNAFTA再交渉の姿勢が変化すれば,2018年の3月から夏にかけての妥結の可能性が高まる。NAFTA再交渉の合意時期の趨勢は,TPP11の署名の動向にも大きく影響を与える。カナダはNAFTA再交渉の妥結までは,TPP11の署名に反対する可能性があるからだ。当面は,NAFTAとTPP11は連動しながらその合意を目指すことになる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article979.html)

関連記事

高橋俊樹

最新のコラム