世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.953

習首席の唱える「中華民族の復興」とは何か? (その2)

田崎正巳

((株)STRパートナーズ 代表)

2017.11.20

言語,文字から見た中華民族

 次は言語である。これも全然違う。モンゴル語はアルタイ系であり,ウィグル語はモンゴル語と同じ体系を持つと言われるトュルク系である。語順で言えば,モンゴル語はむしろ朝鮮語,日本語に似ており,文字も含めて全て漢語とは異なる。

 チベット語は詳細不明なものの,チベット・ビルマ系と言われており,チベット語の表記はサンスクリットを表すために作られたとも言われているので,インドの影響が強いようである。

 これら3民族を漢民族と同じ「中華民族」と主張するなら,そもそもこんなに長い間隣合わせにありながら,なぜ漢字の影響が全くないのかが不思議である。漢人の中でも実質的にはいろんな民族に分かれているが,それでもなんとなく「漢人」というアイデンティティがあるのはこの漢字という文字の共通性であり,漢人はこれには強烈な誇りを持っているのである。

 そのような「誇るべき」立派な漢字がありながら,なぜ「同じ中華民族」であるこれら3民族はいずれも漢字を使わなかったのであろうか? しかもこれら3民族の文字の方が漢字よりも遅かったのであるから,いくらでも「同じ中華民族」に伝える機会があったはずである。海を隔てた日本に伝播するよりもよっぽど簡単ではないか。

宗教,伝承から見た中華民族

 宗教についても明確に違う。チベット族は当然チベット仏教であり,モンゴル族は「ダライラマ」の命名者であるほどで,当然チベット仏教である。ウィグル族も昔は仏教だったが,現在は強烈なイスラム教徒なのはご存知の通りである。中国には,仏教もイスラム教も入ったが,共産党以前でもこの2大宗教は中国の主流宗教とはならなかった。

 民族内での伝承も当然異なる。いつまで遡るかは別であるが,例えばモンゴル族やトュルク系民族はテンゲル信仰があり,民族の祖先は「狼」や「鹿」などの動物が出てくる伝説があるのは,よく知られたところである。

 漢族にとっては何か? 始皇帝で有名な秦か? 私は漢人の最大の伝承アイデンティティは漢字だと思っているが,秦にしろ漢字にしろ,これら3民族はこの漢人の伝承は全く気にしていないし,そもそも知らない。1000年,2000年もの歴史があるのに,全く共有していないことをどう説明できるのか?

 あえて秦をいうのであれば,モンゴル族にとってのこの頃の「先祖」は匈奴であり,モンゴルではフンヌ,と言う。現代モンゴル人はこのフンヌを自分たちの始祖だと信じている。漢人が自分たちの始祖と信じる秦の時代にこの匈奴は北の大国として存在していたので,これは100%お互いの始祖が違うと信じていることの証明でもある。

社会,帰属意識から見た中華民族

 社会組織も違う。モンゴルではその始まりはモンゴル帝国であるが,その始祖とされる匈奴やその後の柔然,更にはトュルク系の大帝国突厥に至るまで,統治者による支配構造は十進法による「人」の支配であった。これはユーラシア遊牧民に共通の支配構造である。

 どういうことか? 漢人は我々日本人と同じく支配の単位は「土地」である。それは農耕民族にとっては何といっても田畑が一番大事だからである。

 織田信長にしろ,徳川家康にしろ,いやそのずっと前の平安時代であっても,その領土をどう管理するかが大切であった。漢族も同じで,県とか村とかの単位で統治していたのである。

 だが,遊牧民は違う。新潟県魚沼市にいる羊を対象に税金を取ると言っても,遊牧民は簡単に移動してしまうので,税を取りに行ったらもぬけの殻ということは当然ある。そうなると,管理の対象は「人」となるのである。「十人」「百人」「千人」単位の十進法で組織し,一番大きな単位は「1万人」である。要するに「土地」をベースにした社会組織と「人」をベースにした社会組織では,徴税方法から社会管理の仕組みまで全く構造が違うということである。

 更に「民族概念への帰属意識という主観的基準が客観的基準であるとされることもある」と書かれてあるが,これで言えばどの3民族も「漢族」「中華」「中国」などに対する帰属意識はゼロである。この3民族に共通なことは何かといえば,それは「中国嫌い」「漢族嫌い」「共産党嫌い」であり,これは間違いなく共通点と言える。

 

 ここまで見て来たように,特に問題となるモンゴル人,ウィグル人,チベット人は客観的に見ればどのような視点を持っても,漢民族でもなければ造語である「中華民族」でもないことは明白なのである。(続く)

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田崎正巳

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