世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.597
世界経済評論IMPACT No.597

最後のフロンティア:アフリカ市場

今井雅和

(専修大学経営学部 教授)

2016.02.22

 中国をはじめとする新興市場の減速が明らかになり,石油などの天然資源価格が低迷するなか,アフリカ市場を語るのは,時宜を得ていないとの声が聞こえてきそうである。しかし,タイムスパンを少々長めに捉え,20世紀から21世紀にかけて,アフリカにどのような変化が起きたのかを踏まえ,最後のフロンティアとしてのアフリカ市場について,考えてみよう。

 まずは,昔話から始める。1980年代半ば,あるメーカーの駆け出しビジネスマンであった筆者は,アフリカ市場を担当していた。駐在員を含めると10名程度の営業チームが「夢の大陸」アフリカを担当した。当時,アルジェリアなど,社会主義を標榜する国は,国家が年間消費量を入札によって,一括して買い付けていた。狭義の営業は,毎年,数週間から1カ月の入札で終わり,あとは製品を計画に従って,供給するだけである(といっても,物量が多くそれほど簡単ではない)。江戸時代の相撲取りよろしく「1年を10日で暮らす」ビジネスであった。また,購入代金を石油で支払うため(カウンター・パーチェス),石油を市場で転売しなければならず,逆ざやが発生した。その分は事前にコストに算入しなければならなかった。今になってみれば,ちょっと面白い,変わった商売である。

 その後,アフリカの担当を離れ,アフリカについてはニュースを通じて,知るだけであったが,1980年代後半から世紀の変わり目にかけて,アフリカ各地でさまざまな問題が噴出し,紛争が多発した。しかし,世紀を跨いだ頃から,アフリカにも新たな動きが現れる。全般的に見れば,クーデタや内戦がほぼ集結し,安定に向かう。エリトリアと南スダンが独立し,アフリカは54カ国になり,国家間の紛争もほぼ収束した(注1)。国際機関や欧米で活躍した人材が,政治家として帰国し,民主主義が機能し始める国も出てきた。また,政治指導者の汚職摘発の動きも顕在化し始めた。

 21世紀に入り,天然資源価格が高騰したことで,資源国に経済的離陸の兆しが見えるようになった。同時に,非資源国でも,ICTの進展を背景に,情報取得が容易になり,市場が徐々に機能し始めた。アフリカ全体で見れば,21世紀の最初の10年で,経済規模は3倍になり,1人あたりGDPも2倍強になった。もちろん,平均余命,教育年数,識字率,経済的豊かさなどで構成される,国連開発計画の人間開発指数(HDI)は,アフリカのほとんどの国が100位以下である。課題山積であることには変わりなく,ようやく一歩,前に踏み出したにすぎない。しかし,ともかくも前進し,20世紀とは異なる,新しいアフリカが出現する兆しがあることに注目したい。

 これまで,「アフリカ市場」を一括して,議論してきたが,当然ながら,アフリカは1つではない。アフリカ全体の人口が約12億人,直近の経済規模(GDP名目値)が約2.5兆米ドルであるから,人口と経済規模はインドと似通っている。インドの多様性について述べる余裕はないが,言語,宗教はもとより,州の独立性が高く,「連邦国家」とさえいえる。他方,アフリカは54カ国によって構成され,面積はインドの9倍である。民族,言語,宗教,旧宗主国もバラバラである。「アフリカ市場」と記述すること自体,誤解と混乱を招く元かもしれない。ある自動車メーカーの役員が,アフリカは3つくらいにまとまってくれないと,なかなか対応しづらいとおっしゃることも,もっともなことである。アフリカ市場への対応は各国別ではなく,地理的,文化的近接性によって,北部,西部,東部,中南部など面として対応するしかない。

 資源国が経済発展の原資として,天然資源に期待するのは当然であるが,「資源の呪い」に陥らないような,政治家の強いリーダーシップが必要である。また,最近の資源価格の低迷に見られるように,天然資源のみに依存しては,安定性に乏しい恨みがある。東アジアの経済開発モデルが示すように,製造業は手間と時間がかかるものの,国民の能力向上と生活向上,外貨獲得と経済発展の基礎となる。アフリカと製造業,なかなか繋がりにくいかもしれない。しかし,南アフリカは自動車と関連産業を中心に,日本企業(注2)も多数,生産進出している。同国はアフリカでは例外的であるが,他にも少ないながら,日本企業が生産拠点を設けている国がある。ケニアとナイジェリアには二輪車の工場があり,エジプトでは異なる分野の数社が生産活動に従事している

 筆者が特に興味を持っているのはチュニジアとモロッコである。特にモロッコは,観光地であるため,観光収入がGDPの約7%を占めるが,製造業の輸出額はその2倍強,約15%に上る。自動車部品や縫製品などを主に欧州に輸出している(南アフリカを含め,アフリカの製造業の輸出先は主に他のアフリカ諸国)。政府の施策も明確で,EUと米国を含む,50カ国・地域と自由貿易協定を締結している。地中海を挟んで,欧州の対岸に位置する立地面の優位性もあるが,何といっても政府の一貫した政策がこうした成果をもたらしている。経済的成果の基礎は内政と社会の安定である。国境を容易に越えるテロリスト集団の犯罪がモロッコに及ばないことを願うばかりである。

[注]
  • 1)国家を前提とする紛争は,ほぼ収束したが,最近はボコハラムなど,国境を自由に越える,「グローバルな」テロリスト集団による不安定要因が目立つようになった。
  • 2)アフリカ市場にもっとも積極的な日本企業は,豊田通商である。2012年に,同社はアフリカ市場に強みのある,フランスの商社CFAO S.A.を傘下に収めた。自動車販売に止まらず,消費財ビジネスや医薬品の卸売事業,さらにはCFAOとカルフールの提携によって,サブサハラでの小売事業に日本企業としては初めて,参画する可能性が開けてきた。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article597.html)

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