世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4237
世界経済評論IMPACT No.4237

ハンガリーの4月総選挙:トランプとオルバンの極右ポピュリズム連携

田中素香

(東北大学 名誉教授)

2026.03.02

 ハンガリーでは4月の総選挙に向けて,激しい政治的戦いが始まっている。この総選挙は民主主義をめぐる世界規模の闘争の重要な環として注目される。

 オルバン首相と政府与党フィデス(Fidesz: ハンガリー市民同盟)は,2010年から16年にわたり長期政権を維持してきた。EU加盟国でありながら,「親ロシア・親中国・反EU」の路線である。

 EUが共通外交安全保障政策によりウクライナ支援の具体策を打ち出すと,オルバンは強く反対する。同政策はEU加盟国の全会一致で成立するので,オルバン政権の反対で没になる。欧州委員会やEUは迂回作戦で対抗はするのだが,EUの重要政策が成り立たないわけで,頭痛の種であり続けている。

 オルバンは最近では「親トランプ」を強く打ち出して,「親米・親ロ・親中」となり,アメリカ政府の支持を国民にアピールして選挙を勝ち抜こうとしている。

 オルバンは「反自由民主主義(illiberal democracy)」を標語にしてきた。民主主義の憲法をもつ国で憲法に違反せずにいかに巧妙に反自由・反民主主義を実現するかの手本を世界に示してきたのである。

 2010年に政権をとると,EUでもっとも高い27%の付加価値税(日本の消費税)など豊富な政府資金を利用して,世論操作の制度作りに乗り出した。地方の新聞社の多くは経営が苦しい。政府の政策を前向きに報道し宣伝するのと引き換えに巨額の広告費を政府が提供する。特に選挙前には拠出額が増える。

 政府に批判的な放送局Aがあれば,政府寄りの放送局BにAの多数株式を買い取らせて経営者をすげ変える。政府に批判的なジャーナリストは経営者をすげ替えてやめさせる。

 このような手法で,地方に圧倒的な支持体制を構築して議席の3分の2以上を獲得すると,憲法を改正して,政府寄りの裁判官を最高裁判所に送り込み,違憲判決を回避する。

 ロシアに原子力発電所を発注して巨額の裏金をロシアから受け取り,プーチンを支持する。中国からは効かない新型コロナワクチンを大量購入し,輸入価格に上乗せして市中の病院に流し,差額を政権の重鎮や与党議員に回す。政権の重要閣僚は自家用ジェット機を保有し,EUの閣僚理事会にはEU加盟国の首都にそのジェット機で乗り付ける。

 オルバンは帝王のごとく振る舞うようになり,重要閣僚や与党議員,そして一族郎党にまで国家資金着用の腐敗が進んだ。巨額の国家資産が詐取され,一部は国外に移されている。

 こうした手法をEU諸国の極右ポピュリスト政党も学び,トランプもオルバンの手法を評価し,追随している。

 トランプは大統領職を利用して一族の金儲けを支援し,その閣僚にも疑いがかかっている。トランプは議会の3分の2はとれないが,過半数の上下両院の共和党を利用して事実上議会の機能を封じ込めており,オルバンの手法と共通する。大統領令を発出しまくって政策を次々に前へ進める。反対派が裁判所に訴えても判決には時間がかかるし,不利な判決には上訴して時間を稼ぐ。議会の掣肘を受けない「帝王」のごとく振る舞う。アメリカの3大放送局の一つを友人の資産家に買収させて,政府に批判的なキャスターをやめさせ,民主党議員の出演を阻止する。

 2月中旬,トランプ政権のルビオ国務長官がミュンヘン欧州安全保障会議にアメリカ代表として出席し,講演した。昨年2月には副大統領ヴァンスが同じ場で講演し,「欧州で最も懸念している脅威はロシアでも中国でもない。(欧州の)内側にある脅威だ」と言い放った。巨大テックの行き過ぎを規制するEUの法律は反自由主義だ,EU諸国の中道政権が極右ポピュリスト政党と連立しないのは反民主主義だ,などと決めつけたのだ。

 これによりヴァンスはEU主要国の政府関係者から蛇蝎のように嫌われ,今年はミュンヘンに行けなかった。代わりのルビオの講演も欧州側の懸念を緩和せず,さらにその後が振るっている。ルビオはEU主要国の政府首脳は相手にせず,ハンガリーとオルバン追随のスロバキアの両国を訪問し,政府首脳と会談したのである。ルビオは,「オルバンの役割はアメリカにとって不可欠(essential)だ」と称賛し,「選挙戦では支援する」とオルバンに伝えた。

 オルバン長期政権の腐敗は,政府関係者や知識層も多い首都の住民には伝わっていて,前回22年の総選挙では20近いブダペストの選挙区のほとんどで野党議員が選出された。だが,地方ではやはりフィデスが圧勝した。

しかし,今回は状況が違っている。世論調査では,政府系の機関はフィデス優勢を伝えているが,独立系の調査機関によれば,保守新党のティーサ(Tisza: 尊敬と自由)に10%弱の差でリードされている。

 トランプ政権はそのオルバンを選挙に勝たせようとしている。昨年,ポーランドの大統領選挙では,極右「法と公正」党候補の支持にトランプ政権の関係者が複数支援に乗り込み,政府系の民主派を破った。差はわずかに1%以下で,トランプ政権の支援行動がなければ,反対の結果になったかもしれない。今年はハンガリーにトランプ政権の息のかかった人物が乗り込み,オルバンとフィデス支持のキャンペーンに乗り出すのであろう。

 反オルバンのティーサのリーダーなどは,「たんなる政権交代ではなく,マフィア国家化したオルバンとその政府の体制転換だ」と気勢を上げているという。フィデスは選挙に負けると16年間で築いてきた資産(政治・司法支配体制,公金詐取体制,メディア支配体制)が崩壊し,各種蓄財の財産調査が行われるので,権力を死守しなければならない。

 4月のハンガリー総選挙はある意味で中道民主主義と極右ポピュリズムの世界規模の戦いなのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4237.html)

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