世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
減速する世界経済
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2025.08.25
コロナ禍後の世界経済の景気回復が一巡
7月に発表されたIMF世界経済見通しのアップデートでは,2025年の世界経済の実質GDP成長率は,4月時点の見通しの+2.8%から+3.0%へ上方修正されました。ただ,2023年の+3.5%,2024年の+3.3%から減速するとの見通しは変わっていません。先進経済の成長率は2024年の+1.8%から2025年には+1.5%へ,新興発展・途上経済の成長率は,同じく+4.3%から+4.1%へと減速する見通しです。コロナ禍後の世界経済の景気回復は一巡しつつあると見られます。
新興・発展途上経済の成長率は,第二次石油危機による景気後退の後の1984年から2002年までの平均では+3.8%でした。世界貿易の成長と共に2003年から新興・発展途上経済の成長率は急加速し,2003年から2007年の平均では7%以上の成長を記録しました。その後リーマンショックやコロナ禍などによる変動を経ながら,新興・発展登場経済の成長率のトレンドは徐々に低下してきました。現在は,2003年以前の成長トレンドにほぼ戻ったようにも見えます。
過剰投資の調整を迫られる新興経済
新興・発展途上経済では,貿易拡大につれて国内投資が増大したことも,実質GDP成長率を高める上で大きな役割を果たしました。新興・発展途上経済で総投資のGDPに占める比率は,2002年の25.0%から2008年には30.4%まで上昇しました。
ただ,その後実質GDP成長率のトレンドが下がってきた中でも,投資のGDP比はさらに上昇し,2010年以降は31%以上の水準が続いています。投資水準が高いことで供給能力が高い伸びを維持している一方,需要の伸びを示す実質GDP成長率が減速してきたことで過大な供給能力を抱えるに至っているようです。中国経済がデフレが陥っていることも,供給能力が過剰であることのあらわれと考えられます。供給能力の伸びを抑制するためには投資の削減が必要ですが,それは同時に需要も縮小することになるため,さらなる経済成長の鈍化を招きます。
限界を迎える財政政策による景気下支え
2009年の世界的な深い景気後退は,世界的に大幅な財政収支の悪化を招きました。先進経済の一般政府プライマリー財政収支(中央・地方政府,社会保障の合計の利払いを除く財政収支)のGDP比は,2007年の+0.4%から2009年には−7.0%へと大幅な赤字に転じました。新興・発展途上経済でも同時期に+2.4%から−2.2%へと悪化しました。その後,先進経済では赤字が削減され,コロナ禍前の2019年には−1.6%となったのに対し,新興・発展途上経済では-2.6%と赤字削減が進みませんでした。これは,中国など新興・発展途上経済が景気を下支えするために財政刺激策をとったことによると考えられます。コロナ禍を経て新興・発展途上経済の財政収支はさらに悪化し,2025年のプライマリー財政収支のGDP比は−3.7%の見通しです。
財政赤字が続く中,政府債務は累増し,一般政府総債務残高のGDP比は2008年の33.3%から2025年には73.6%に上昇する見通しです。先進経済では2025年の一般政府総債務残高のGDP比は110.1%と予想されており,新興・発展途上経済の水準はそれよりかなり低いのですが,通貨の信用度が低い新興・発展途上経済では,政府債務の増大は通貨危機につながりやすい面があり,これ以上の政府債務の増大は経済の安定性を損ないかねません。
トランプ関税によって世界貿易のさらなる鈍化が懸念される中,新興・発展途上経済は,過剰投資の調整を迫られ,財政政策による景気下支えも困難になりつつあるようです。新興・発展途上経済の減速の影響は,先進経済にも及ぶでしょう。2030年頃に向けて世界経済の成長トレンドは2%台前半へ減速し,先進経済は1%程度,新興・発展途上経済は3%程度へと減速しそうです。
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