世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4078
世界経済評論IMPACT No.4078

企業・消費者マインドに見る米雇用・物価情勢

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2025.11.17

ISM雇用指数は50割れが続く

 米国では政府閉鎖の影響で多くの経済指標の発表が延期されています。早晩閉鎖解除となる期待が高まってきましたが,閉鎖が解除されても,すぐに経済指標の発表が再開されるのか,特に,12月9,10日のFOMCまでにFRBが金融政策の方針を定めるのに十分な指標が発表されるのかは定かではありません。そこで,金融政策の先行きを探る上で,民間調査機関による企業や消費者を対象にしたサーベイから雇用・物価情勢を見てみましょう。

 企業の購買・供給担当役員を対象にした調査に基づくISM雇用指数は,10月には製造業は46.0,非製造業は48.2となり,共に3カ月連続で上昇しました。ただ,増減の分岐点となる50を製造業は9カ月連続,非製造業は5カ月連続で下回っています。一方,雇用統計の非農業部門就業者数は,発表されている8月分では前年同月比+0.9%であり,1年前の2024年8月の同+1.3%から緩やかな伸び率の低下に留まっています。ISM雇用指数の50割れが続いていることが,9月分以降の就業者数のさらなる伸び率の鈍化につながるのかは,はっきりせず,雇用情勢の判断がつきにくい状態です。

高止まるISM非製造業価格指数

 企業の仕入れ価格の動向を示すISM価格指数は,製造業に関しては今年1月の54.9から3月には69.4まで上昇し,6月まで69台で推移しました。しかし,7月から下落に転じ,10月には58.0まで下がりました。トランプ関税の影響が薄れてきたことがうかがわれます。これに対し,非製造業価格指数の方は,年初の60.4から7月には69.9へと上昇し,10月も70.0と高止まっています。非製造業の方が製造業より経済全体に占めるシェアは大きく,非製造業価格指数の方が製造業価格指数よりも安定的であることから見ると,経済全体としてのインフレ圧力は根強いと言えます。

 さらに,金融政策における物価判断の指標として重要な食料とエネルギーを除くコア消費者物価指数の前年同月比上昇率は,ISM非製造業価格指数に6カ月以上遅れて動く傾向があります。この関係から見ると,9月時点で+3.0%であったコア消費者物価前年同月比上昇率は,今後上昇する可能性の方が高そうです。物価面では12月のFOMCでの利下げが正当化できる状況にはないようです。

消費者信頼感は22年6月以来の低水準

 ミシガン大学の消費者調査11月分速報によれば,消費者信頼感指数は50.3と2022年6月以来の低水準となりました。リーマンショック時の景気後退期における最低水準は2008年8月の55.3であり,それを下回ったという点では,歴史的に見ても極めて低いと言えます。一方,1年先の期待インフレ率は+4.7%と+6%台であった4,5月よりは下がったものの,6月以降+4.5~5.0%の範囲で高止まっています。物価上昇に加えて,景気や雇用の先行きに対する懸念が消費者マインドの悪化をもたらしているようです。

 足元の雇用情勢などに関して十分なデータが得られない上,インフレ圧力が根強いまま12月のFOMCで3回連続の利下げが行われれば,トランプ政権の圧力に屈したとして米国の金融政策やドルへの信認が揺らぐ可能性があります。一方,消費者マインドの低下が景気悪化の前兆である可能性も否定できません。FRBにとって,通常に増して判断が難しい状況です。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4078.html)

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