世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3823
世界経済評論IMPACT No.3823

何故,トランプ支持率は相対的に高いのか:忘れ去られた人々と金満層の不可思議な連動

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2025.05.05

 就任以後100日,大統領令を発出し続け,米国の社会制度や経済システムに多くの変調を生じさせているにもかかわらず,有権者のトランプ支持率はそれほど大きくは揺らいでいない。幾つかの世論調査を見てみると,例えばCNBCの結果(調査期間:4月9日~13日)ではトランプ支持44%,不支持51%。CBS調査(4月8日~11日)でも支持47%,不支持53%等など。ラスムーゼン調査(4月13日~17日)に至っては,支持51%,不支持47%と,トランプ支持が不支持を上回る程。

 反トランプの色彩が強いNYT紙は4月24日の記事で「直近の支持率は44%,不支持率52%」だったとし,就任直後の支持率50%強からの大幅低下を強調したが,それでも歴代大統領と比べて,確定的に支持率の下落を断言するには,時期尚早の感を拭えない。また第一期トランプ政権下でも常に不支持率が8~10ポイントほど高かったが第二期政権下の100日では5~7ポイント程度差に留まっている。だから逆に,支持率が,何故,強固に固定化されている点こそが,解明すべき疑問点となるべきなのだ。

 上述の支持率調査結果に,NBCニュースやCNNが4月中旬までに発表した,民主・共和両党への支持率調査結果を重ね合わせてみると,①民主党への支持の度合いが史上最低レベルに落ち込んでいる点(有権者全般の民主党への好感度は29%VS共和党への好感度36%:CNN),並びに,②共和党支持者の中で,自らがMAGA支持者との立場を鮮明にする声が,選挙前より増加している点(共和党支持回答者の中での自称MAGA派の比率:24年11月選挙前55%→25年3月時点で71%:NBCニュース)が鮮明となっている。

 先ず①に関しては,従来の民主党の支持基盤だった製造業従事の非大卒労働者の民主党離れが選挙後にも依然進んでいること。また他方では,トランプ暴走に対する民主党の対応に不満が噴出している。民主党支持者の鬱積は,今後は連邦議会での民主党の抗議の動きの鈍さに向かうはず。それ故その反応ぶりが,民主党の将来展望とも結びついてくるのは必至。

 ②に関しては,共和党がトランプ党化している現実が顕著に表れている。共和党内でのトランプ専制が一挙に進んだのは,2018年の中間選挙の頃から。この中間選挙を,自らに対する信認投票だと強調した当時のトランプは,党内での穏健派勢力の一掃を図り,為に,党の主流派だったライアン下院議長(当時)や穏健派の現職議員の大半が引退に追いやられた。今から思えば,明け透けな党内の大粛清だった。

 こうした専制的行動が目立つトランプが,何故,2025年の選挙で大統領に返り咲くことが出来たのか…。筆者はかねがね,その理由を,米国の産業構造転換で,取り残された重厚長大の大型製造業に従事していた忘れ去られた人々と産業構造転換で前面に出てきた金融・サービス業,その基軸となっている金融の抑制なき拡大から裨益した金満層の,不可思議な連動の結果だと主張してきた。そして,この連動のメカニズムを知るには,以下の4点への認識が必要だ,と強調しておきたい。すなわち,

  • ①1980年代以降,米国の産業構造が,製造業からサービス・金融を主体とした構造に大転換したこと。
  • ②その結果,製造業雇用が減少,替わりに賃金水準が低いサービス業従事者が増え,全体としての賃金水準が伸び悩んだこと。続く,金融主導の株式資本主義化への流れの中で,株や有価証券を保有する層の資産が急増,保有しない層との間での資産格差が急拡大したこと。
  • ③またこの間,連邦政府による一連の所得減税が,累進性の大幅喪失などを伴い導入され,結果,所得格差,延いては資産格差が,一層大きく拡大したこと。
  • ④加えてこの間,連邦政府によって,金融規制が大幅に緩和・撤廃されたこと。

 先ず,①について,その発端は,1932年,民主党フランクリン・ルーズベルトの大統領当選だった。彼は不況期への新しい対応(New Deal)として,ケインズ経済学を財政政策に援用,積極的な公共事業を展開する。テネシー州でのダム建設などはそういう大型プロジェクトの典型例。ダムのおかげで,ランプの明かりに頼っていた南部諸州の白人たちは生活環境が一変,以降,そうした生活の質改善を齎してくれた民主党の大票田と化した。同じような生活改善感を,黒人層も享受した。それまで黒人層は,奴隷解放の党共和党を支持する票田だと認識され,そのイメージ故,共和党側は当然に自分たちの側に,逆に民主党側は,たとえ働きかけても奴隷制度廃止に反対した,民主党としての過去の経緯から,黒人層は自分たちの側には来ないだろうと判断,結果,黒人層はどちらの党からもアプロ―チを受けない,いわば選挙戦では無視される存在だった。

 そんな状態をルーズベルトは一変させた。結果,それまで共和党支持と見做されていた,南部農園や北部都市で工業労働者として働いていた黒人たちは,ルーズベルト政権の下,民主党の大票田に生まれ変わった。

 そして時は,ルーズベルト革命から40数年後に至り,1980年大統領選挙で,共和党レーガン大統領が,民主党の現職カーター大統領を破って,勝利を収める。

 大きな政府のコスト負担に,中産階級が耐えられなくなり,彼らの多くが,小さな政府を提唱していたレーガンに支持替えを行った。かくして,1981年に大統領に就任したレーガンは,「政府こそ諸悪の根源」と言い放ち,①減税,②歳出削減,③人為性を排し,誰もが予測可能な金融政策,④規制の軽減・廃止,の四本柱を政策に掲げた。

 しかし,この4本柱政策は,米国経済に急ブレーキをかける結果を齎す。それは,第二次大戦後の米国が経験した最大の不況の招来であり,その不況下での高金利,ドル高であった。経済政策の枠組みの中で行動せざるを得ない個別企業にとっては,この経済環境の悪化は,経営の根幹を揺るがすもの。為に,各製造企業は,急激に縮小した国内需要に見合うレベルにまで供給能力を大幅に削減,米国内には工場閉鎖やレイオフが蔓延した。どうしても生産増強が必要な場合には海外に生産を移植する方法をとった。つまり,このレーガン不況で米国製造業は一気に空洞化したのだ。だが,その製造業の穴を埋めるが如く,マイクロソフトやサンマイクロシステムズといったITC系企業が誕生したのもこの時期だった。レーガン革命は,米国経済の産業構造を,従来型製造業から,ITCに代表される当時の未来型製造業,さらには金融やサービス主導の方向に,大幅に転換させることになったのだ。

 他方,この時期,レーガン不況は米国に双子の赤字(貿易と財政)問題を齎した。日本の対米輸出過多で,米国内に対日バッシングの嵐が吹くことになる。不況下,苦しむ企業に何の手助けも講じない,米国のレーガン流,市場尊奉の,ある意味ショックセラピー的手法が,虚弱国内産業の徹底した淘汰・新規産業の急速な台頭を齎したのだが,反面,日米の経済関係をマクロ的に観れば,米国製造業が不況による国内需要減に対応するため,国内供給能力を大幅にカットしていたところに,米国経済が急回復し,そのために生じた国内供給能力の不足を,太平洋のかなたで,逆の動きをしていた日本の製造業が埋めることになった,というのが,事の真相。そして,この双子の赤字への対処として,レーガン政権は,それまでの自由貿易的主張を改め,相互主義貿易の提唱へと,対処のための論拠を変えたのだった。

 いずれにせよ,1980年代から始まった,米国経済の,従来型製造業から金融・サービスへの構造変化は,その逆の真実として,現在のトランプ政権が問題視する,米国の従来型製造業の沈滞・衰退化を齎すことになったわけだ。

 ②を解説するには,1980年代以降の米国の所得格差の拡大を示す統計があれば十分。米国家計を所得5段階別に分け,個々の段階の家計が,全家計の中でどの程度の割合を占めるかを経年で,そのシェアーが年の推移とともにどうシフトしてきたかをUS Census Bureauの資料を元に一瞥すると

  •   最下位層 下位から2番 同3番 同4番 最上位層(内トップ5%)
  • 1947年:5.0%,11.9%,17.0%,23.1%,43.0%(17.6%)
  • 1960年:4.8%,12.2%,17.8%,24.0%,41.3%(16.0%)
  • 1980年:4.2%,10.2%,16.8%,24.7%,44.1%(16.5%)
  • 1990年:3.8%, 9.6%,15.9%,24.0%,46.6%(18.5%)
  • 2010年:3.3%, 8.5%,14.6%,23.4%,50.3%(21.3%)
  • 2020年:3.0%, 8.2%,14.0%,22.6%,52.2%(23.0%)

 これを見れば,2020年で最上位層(年収62万ドル以上)が既に米国納税者層の52.2%を占めていることがわかり,この40年間の米国社会の所得分配上,最上位層が独り勝ちしてきた実態が露になっている。そして,今や米国の課税政策は,この最上位層を敵に回しては成り立たないのだ。

 また,極論すれば,この層と,その一つ下の層から徴収する税金で,最下位層(年収2万ドル以下:2020年当時)への諸々の福祉政策が行われているわけで,税を負担する側の無意識の価値観(=働かざる者食うべからず,の信奉等)から見れば,当然に,所得再配分への拒絶感も強まってくる,というものだろう。民主党のリベラル政策への反感が,年を経るに従って,強くなってきているのも,高所得層の,こうした所得の再分配機能への拒否感を反映したものに他ならない。

 ③では,米国の連邦所得税率の変遷をトレースしておきたい。米国史上最初の所得税導入は,1913年だった。税率は1~7%。そして,この高所得層に賦課された7%の最高税率は,1918年,米国が第一次大戦の戦費増大に対応するため,一挙に77%にまで引き上げられた(最低レートは6%)。尤も,その最高税率は,大戦終結後の1921年以降,段階的に引き下げられ,大恐慌の1929年頃には最高税率は24%,最低税率は4%程度にまで,それぞれ引き下げられている。

 しかし,第二次大戦の勃発で,税率は再び上昇に転じ,1931年には,最高税率は63%にまで引き上げられた。その後,戦争の終結と同時に最高税率は再度引き下げられ始め,1964年は50%に引き下げられたが,それ以降は,政府財源の不足をカバーするため再び上昇に転じ,民主党カーター政権末期の1980年には70%に達していた。

 この税率を,半ば恒久的に引き下げたのが,共和党のレーガン大統領。彼は,大統領就任の2年目(1982年),小さな政府実現に向けた具体的手段として,大幅減税法案の議会採択に成功,5段階ベースでの,最上位所得層への税率を,それまでの70%から一挙に50%に大幅に引き下げた。さらにレーガンは,再選後の1986年,最高税率を28%にまで引き下げる法案を議会で成立させている。

 そんな最高税率を,政府財源充当のため,再び引き上げた(28%→31%:1990年)のは,レーガンの後を継いだ共和党のブッシュ大統領だった。それを,同じ目的(政府財源不足)で,さらに引き上げた(31%→39.6%:1993年)のが民主党のクリントン大統領。それがさらに,民主党から共和党に政権が変わり,ブッシュ・ジュニア政権が登場するや,最上位所得層向け所得税率が再び引き下げられる(39.6%→35%:2001年)。そして,この税率が民主党オバマ政権の下で,再び引き上げられる(35%→39.6%:2013年)。この税率を,その後,逆に引き下げたのが,第一次トランプ政権(39.6%→37%:2018年)。そして,この引き下げた税率の期限が失効し,39.6%のレベルに戻ると予定されるが2026年。第二次トランプ政権は,この引き上げを阻止し,できれば現行レートを永久化,或いは一層の減税を達成しようと,今後,議会対策に全力を注入することになるのだろう。

 最後の④は,具体的には,1980年代以降の金融規制の大幅緩和である。

 金融機関(銀行)が資金を投機に向けることを禁じたグラス・スティーガル法は,大恐慌の余韻未だ覚めやらぬ,1933年に成立した。この銀行業務と証券業務を切り離した法律は,以後,40数年は厳格に守られていたが,1999年に至り,共和党の二人の連邦議員の主導で同法の廃止が議会で採決され(1999年グラム・リーチ法),民主党クリントン大統領が署名・成立した。この法律の廃止は,次の共和党ブッシュ・ジュニア大統領が提唱したOwnership Society政策によって,一層,その経済・社会的意義が深まって行く。具体的には,株式投資推奨政策→金融投資熱の高まり→投資ファンドの増大→新しい証券化商品の一層の開発促進→ファンドの金融機能のさらなる拡充といった,金融と証券の垣根が取っ払われた土俵の上での,金融関連機関総体としての,各種取引活動領域の拡大である。そして,その動きが金融グローバル化政策によって,欧州や日本の金融障壁排除への要求となり,延いては,世界的な金融グローバル化時代を招来せしめることになって行くのだ。余談であるがブッシュ・ジュニア政権が金融グローバル化を進めて,欧州諸国の金融市場をこじ開けようとしていた頃,某国際シンポで欧州の中央銀行首脳が「Globalization is not Americanization」と大声で抗議の主張をしていたことが,今頃になって懐かしく思い出される。

 本稿の結論に移りたい。

 何故,忘れ去られた人々と,本来は利害が相反するはずの金満層との,不可思議な連動が成り立ったのだろうか…。

 答えはもはや自明であろう。1980年以来の,小さな政府路線が根本的に定着し,ために増税への道は細り,社会福祉政策増強の可能性も薄れ,所得税の累進性復活も政治的には受け入れられなくなった。そんな中,金融主導による産業構造変化が一層加速化する。そうして生まれてきた所得分配の不平等,延いては資産格差の拡大。

 結果として残ったのは,かつては栄光ある中産階級の,輝ける担い手で,親子2代にわたってGMやUS STEELに働くことを誇りにしてきた,そして今や,その中産階級からもこぼれ落ちそうになっている“忘れ去られた人々”。彼らの社会的立場は劣悪化し,心には鬱積感が満ち溢れてくる。そして,そうした心理状態からは,何としても現状を打破したいという,そんな渇望感も生まれてくるというものではないか…。勿論,彼らとて,トランプが無茶なことを言っているとは知っている。だが,不動産王とまで言われ,企業経営実績豊富なイメージのトランプが,MAGAを唱え,且つ,その彼が,今や大統領とまでなっている。自らの立場,心情,希望を,“現状打破の教祖”たるトランプに託した彼らが,そんな教祖の下を離れがたいのも,よく分かる道理というものだろう。

 そして,共和党内MAGA派を構成する,上記忘れ去られた人々もまた,トランプが打ち出す数多くの現状打破策を,これまでの鬱積を晴らす,格好の痛快事と見做し,これまでは「トランプには誇張癖がある」,「主張することと,実施することの間に開きがあってもやむを得ない」との態度で擁護していたのが,今や,「関税の痛みは一時的…トランプは,言動一致の最高の大統領」と囃すまでに,トランプ支持の熱量をあげているらしい(日本経済新聞2025年4月26日)。其処には,トランプが,既存の多くの社会慣行やシステムを破って,国内外からの批判を浴びれば浴びる程,MAGA派の支持が固まる現実がある。故にこそ,トランプ支持率が,現段階ではまだ,大きく下がることはなく,むしろ支持の強度が固定されている根本理由があると言わねばならないのではないだろうか…。勿論,経済の実態が,MAGA派の支持者たちも認めざるを得ないほどに悪化した場合は,必ずしもその限りではないだろう。しかし事態がそこまで悪化するには,少なくとも半年はかかるのではないか。

 他方,金満層の方はどうか。彼らもまた,トランプの主張に共感を覚える部分が多いはずだ。上述してきた最後の2点,つまり,高額所得者向けの連邦所得税の恒常的引き下げと,金融規制の抑制なき拡大が,金満層にとって魅力たっぷりの提唱であることは疑いあるまい。この2つの提唱が意味すること,それは,高額所得者の手中に巨額の貯金が残ること,加えて,それら手元貯蓄を,投資という名分で振り向けられる分野が,さらなる拡大を認められることなのだから。高額所得者になればなる程,消費性向は低くなる。だから,その余剰としての貯蓄額も大きくなる。そして,この金満層の手中に残る余剰貯蓄が,現在のような金融至上主義システムの下では,草の根の如く詳細・濃密に拡散・発達した,公的・私的金融ネットワークを介して,マクロ経済学的に言う,投資に振り向けられる。それは,ある場合には,連邦政府が増発する国債の購入に向かい,ある場合には,投資ファンドの手を介してスタートアップの立ち上げ資金となり,またある場合には,忘れ去られた人々が,車や耐久消費財を買う場合の,小口ローンの資金源となる。つまり,富裕層のカネが,回り廻って,低所得層向けのローンの供給に向けられる仕組みすら,そうしたネットワークの中に組み込まれているわけだ。言い換えると,現代の金融ネットワークは,それほどまでに社会の全体を網羅してしまっているのだ。直近1-3月期の米国経済がマイナスを記録したと報じられている。だがその主因は恐らく,関税引き上げ直前の駆け込み輸入が,GDPの上昇の幾分かを食ったからで,経済の基調が一層鮮明になるのは,なお数か月を要するだろう。

 要は,トランプは今,経済の実態がそこまで悪化する前に,関税交渉など面での,面子の立つ妥協を模索しながら,他に替わるDEALでの成功を目指し,それ故,争点を次々と移動させ,国内にあってはリベラル派の拠点ともみなす,主要有名私立大学との対立を意識的に高め,国外にあってはウクライナ停戦に力点を置き(万が一,停戦がならなくとも,ウクライナ資源の入手可能性を米国内向けに誇示できる成果さえ出れば,当面,トランプはそれで手を打つつもり),次いで中国とも何らかの交渉開始を求め始めようとするなど,有権者の関心を分散させる手法に打って出ようとしている。

 世界との交渉の窓口にベッセント財務長官の役割が重さを増しているのも,上記のような米国内外の政治状況と無縁とは思われない。MAGA派の,忘れ去られた有権者層が,例え一時的にせよ,トランプ支持熱を再燃させてくれてはいるものの,トランプのもう一方の支持層たる金満層が,迫りくる世界金融市場の不安感増大に,次第に心安らかならざる気持ちを高め始めており,こんな時こそ,市場を知り尽くしている財務長官が,大統領の狙いを十二分に知りながら,なお妥協を図ることの出来る達人として,最も頼りになる存在だと,トランプの眼には,恐らくそのように映っている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3823.html)

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