世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
GXからCNへ:挑戦を始めた出光興産千葉事業所
(国際大学 学長)
2024.05.27
2024年1月,出光興産千葉事業所(市原市)を見学する機会があった。訪れた理由は,GX(グリーントランスフォーメーション)へ向けた取組みが多面的に展開されていると,聞いたからである。
見学したのは,進行中の次の四つのプロジェクトである。
- (1)使用済みプラスチックのリサイクル事業
- (2)SAF(持続可能な航空燃料)の製造事業
- (3)全固体リチウムイオン電池向け固体電解質の生産事業
- (4)統合研究所の建設
(1)は,厳密には,出光興産千葉事業所の隣接地(旧敷地内)で展開される事業である。出光興産と環境エネルギー(株)は,23年4月,合弁会社のケミカルリサイクル・ジャパン(株)を設立した。同社は,年間約2万トンの使用済みプラスチックを処理し,それを油化して,化学原料用に供給する予定である。すぐ近くに出光興産千葉事業所の常圧蒸留装置とナフサクラッカーが存在することが,事業の競争力を高める。商業運転開始は25年度の見込みであるが,すでにグリーンベルトを切り拓いて整地が行われており,広大な設備用地が姿を現していた。
(2)のSAFについても,見学したのは建設予定地であった。出光興産は,30年のSAF国内予測需要170万klのうち,50万klの供給体制を整備することをめざしており,年産10万klのSAF1号機を,千葉事業所内に24年度中にも建設を開始する予定である。複数あるSAFの製造方式の中から,将来的に原料調達のアドバンテージが見込めるATJ(アルコールtoジェット燃料)プロセスを選定した。千葉事業所にATJ製造装置を建設することには,①成田空港・羽田空港に近く,成田向けにはジェット輸送パイプラインが整備済みである,②用役・タンク・桟橋などの基盤インフラが充実している,③既存の安全環境・品質管理体制を活用できる,などのメリットがある。
(3)の固体電解質については,出光興産千葉事業所内で,小型実証設備の第1プラントがすでに稼働していた(運転開始は21年11月)。建屋の中では,生産性を向上するための作業が精力的に行われていた。事業所内の他の部署で働いていた方々が,新しいプラントで奮闘している姿が印象的だった。
(4)の統合研究所の仮称は「イノベーションセンター」であり,これについても,建設予定地を見学した。現在は複数拠点にまたがる生産技術,開発技術等の研究所をイノベーションセンターに集約し,事業を横断した研究開発体制の構築と社外連携の強化を図る。そして,カーボンニュートラル(CN)をめざして,研究開発から分析・解析,実証,プロセスエンジニアリング,商業生産までの一気通貫体制の構築をねらう。総投資額は500億円超,敷地面積は約11万㎡で,27年完工の予定である。
以上のように,出光興産千葉事業所では,GXにかかわるさまざまな取組みが活発に行われていた。これらの取組みは,やがてその先のCNへつながる動きに進化していくだろう。そこでは,生産活動の起点が石油精製からe-メタノール製造に変わり,製油所はe-フュエル(合成液体燃料)製造所となる。二酸化炭素は「悪者」から有用な原料に生まれ変わり,CCU(二酸化炭素回収・利用)がCNの切り札として君臨する。そのような未来図を想い描くことができた今回の見学であった。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国際ビジネス
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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