世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3354
世界経済評論IMPACT No.3354

ビジネスモデルの経済原理:アジア企業の事例

村中 均

(常磐大学 教授)

2024.04.01

 企業の競争の優位性の源泉は,大きくはポジショニング,経営資源,ダイナミック・ケイパビリティによるものであるが,競争状況により重視されるものは異なり,参入・移動障壁といった産業構造が影響している状況ではポジショニングが重視され,製品・サービスの差別化が競争の焦点となっている状況では経営資源が重視され,そして不確実性が高い環境下でイノベーションが競争の焦点となっている状況ではダイナミック・ケイパビリティが重視される(入山章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社,2019年)。

 筆者は旧稿(世界経済評論IMPACT No.3343参照)で,それらの競争戦略の視座は,利益を生み出す仕組みを意味するビジネスモデルに統合されることを説明した。本稿では議論をさらに進め,ビジネスモデルを稼働させる経済原理はどういったものがあり,どのようにそれを反映させているのか,成長著しいアジア企業の事例を基に説明を行う。

 ビジネスモデルを稼働させる,すなわち利益を生み出す基本的な経済原理は,「規模の経済」,「範囲の経済」,「ネットワークの経済」である。規模の経済は,単位当たりコストが,操業規模(生産量)が拡大するにつれて低下していくことである。範囲の経済は,共通性のあるところで製品・サービスを組み合わせ,より高い価値が生み出されたり,それらを独立させた場合よりコストが低下することである。ネットワークの経済は,大きなネットワークであればあるほど価値が大きくなること(例として,ユーザーが増加すればするほど便益は高まること)である。

 ポジショニングと経営資源が重視される競争状況では,規模の経済と範囲の経済の同時追求が主たる経済原理となるが(例として重厚長大型企業),現在のように特に不確実性が高く,イノベーションが求められる競争状況下では,企業内外の資源を状況に合わせて組み合わせるダイナミック・ケイパビリティが重視され,まず規模の経済を追求し,その後に範囲の経済を追求し,場合によってはネットワーク経済によりユーザーの囲い込みを行うことになる(同様の見解として,高木聡一郎『デフレーミング戦略』翔泳社,2019年が挙げられる)。

 電子機器産業では,21世紀に入って,日本企業の凋落とは対照的にアジア企業は,アジア地域での機能特化(多くの場合は部品や組立て)を背景に分業体制を構築していったといわれており,上記のような経済原理を背景としたビジネスモデルを採用し,成長してきている(以下の事例は,村山宏『アジアのビジネスモデル』日経文庫,2021年を参考にしている)。例えば,半導体のファウンドリ(受託生産)企業のTSMCは,製造機能に特化し生産規模を拡大させ,設計情報のIPコア(既に開発された回路ブロック)のライブラリを設け,顧客企業がそれを利用し短時間で設計できる開発支援サービスの提供を行い,スマホや医療機器さらに人工衛星等,幅広い範囲の電子機器に採用されてきている。EMS(電子機器受託生産)企業のホンハイ(Foxconn:鴻海精密工業)はデスクトップPCの半完成品受託生産(金型と部品の内製化を伴う)で成長し,その後,スマホ,ゲーム機,テレビ,プリンター等の受託生産を展開した。ファブレス(工場を持たない)企業のXiaomi(シャオミ)は,スマホのインターネット販売の特化から始まった(現在ではスマホの組立ての自動化工場を開設するに至っている)。Xiaomiは開発者を含むユーザー(顧客)の意見交換の場のインターネット上のフォーラムでの意見を製品に反映させ,さらにユーザーに気に入った機能をSNS上に投稿してもらう,口コミを利用した販売促進を行ってきている。Xiaomiはユーザーコミュニティの成長を活用し,成長してきており,現在はスマホ以外にもテレビや空気清浄機といった家電や電気自動車を実店舗でも販売している。またネット企業でSNSを提供するテンセントは,メッセンジャーアプリのWeChatから始まり,その後WeChatのアプリ上で動くミニプログラムと呼ばれる金融,ネット通販,ゲーム,ホテル・交通予約,スポーツ・音楽・映画等のサービスを提供し,ユーザーの囲い込みを行っている(統合的なスマホのアプリであり,スーパーアプリと呼ばれている)。

 上記の事例から,アジア企業は,ある機能に特化し規模の経済を追求し,その後範囲の経済を追求しており,さらにXiaomiやテンセントのようにネットワーク経済を背景に成長を遂げており(TSMCのIPコアのライブラリやホンハイが2021年から開始した電気自動車開発のコンソーシアムもネットワーク経済の効果が働いている),結果として経営資源が蓄積され,ポジショニングの確立につながっているのが分かる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3354.html)

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