世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3081
世界経済評論IMPACT No.3081

より現実的なエネルギー政策導入の必要性

武石礼司

(東京国際大学 特命教授)

2023.08.28

エネルギー供給はどのように推移すると考えられるか?

 「脱炭素」という言葉が毎日のようにメディアで取り上げられており,今夏に日本において高温が続いていることから,温室効果ガスであるCO2排出量を減らさなければとの報道が,今まで以上に行われている。

 ただし,欧州においては,南欧を除いては,むしろ今夏は寒いくらいだとの連絡も現地の在住者より頂いており,北米,東南アジア等と比べても,日本の暑さが目立つ状況がある。世界の中に暑い地域があると,その他の地域では例年より涼しい(あるいは寒い)ということが生じる。世界の平均気温を算出するということは,実際には簡単ではなく,納得できる観測地点の配分に関しては論点が存在している。

 パリ協定が2016年に発効したことで,CO2排出量を減らすためには化石燃料の消費量を急速に減らすようにと,環境派の人々の求める声は一段と高まっている。

 ところが,世界全体で見ると,多量の化石燃料の消費が続いており,石油,ガス,石炭ともに消費量が増大している。特に,グローバルサウスと呼ばれる発展途上国における増加が顕著である。

 昨今は,天然ガスの長期契約が締結される例が,中国,欧州諸国等で相次いでおり,欧州の石油・ガス企業であるシェル,BP等もガス生産の増大に再度取り組む方針を打ち出している。

 価格の動きを見ると,2022年のロシアのウクライナ侵攻で,欧州へのエネルギー供給不足から,欧州向け価格が急騰した。原油価格が1バレル100ドル超えし,天然ガスも欧州向けは60ドル超え(100万BTU当り)と稀に見る上昇となった。その後2023年には,一旦は,エネルギー価格は低下するが,しかし,石油輸出に依存する中東を始めとする産油国は,「OPECプラス」と呼ばれるOPECおよびロシア等の石油輸出国とのグループとして,原油生産量をさらに削減すると表明した。こうして,2023年8月現在でも,原油価格は1バレル80ドル台で推移している。

 2023年末に向けては,従来は中国経済がコロナ禍からの脱却により回復基調となり,エネルギー需要も増大に向かうと予測されていた。ところが,中国経済は不動産バブルの崩壊,外資企業の相次ぐ撤退,雇用状況の急速な悪化が同時に生じており,人口減少も始まっていて経済停滞が長期化すると予測されている。資本自由化を行うことができない中国の通貨・元が国際通貨化する可能性はほぼ無く,一帯一路の施策も,中国経済の悪化と資金不足により,現状よりもさらに低下すると予測される。

米中新冷戦下でのエネルギー需給への見識の在り方

 米中の対立は早急な紛争の可能性を生じさせており,すぐに生じる直接の衝突を回避し,より長期の対立に移行するよう,制度的な包囲網を先進国側が整備すべきとの意見がある(國分俊史,2021)。

 再生可能エネルギーの導入は世界各国で進んでいるが,太陽光,風力のように希少鉱物資源の獲得競争を招き,とりわけ中国が,圧倒的な製造シェアを持つという事例を多く生んでいる。

 バイオマスの利用に関しても,本当にカーボンニュートラルな利用が確保できるのか,植林は進むのか等不明な部分も多い。その一方,焼き畑の禁止など,零細な高地居住者の生活を否定する動きも生じている。

 CO2排出削減を最終目標とする環境派の人々の主張は,生活が成り立ち,経済が回ることで人々が生きていくことができるという最も基本的な必要性への配慮を欠いている。

 重要な視点は,経済成長をもたらすイノベーションがどの分野で生じるかである。未来学者のレイ・カーツワイルは,遺伝学,ナノテクノロジー,ロボット工学の3分野が21世紀前半をリードする最も進歩する技術であると述べている(カーツワイル,2007)。日本を含めた先進国はこうした分野に資金を集中的に投下する必要がある。これら技術が,権威主義国において民衆の管理・抑圧に悪用されるのを防ぐ責務を日本は負っていると言える。

 遠藤誉(2022)が指摘しているように,中国の政策は「中国製造2025」計画に基づいた,政権の総意を挙げての米国を凌駕する産業競争力の確立を,あらゆる手段を用いて目指しているとの認識が必要と言える。

 中国と同じく権威主義国であるロシアによるウクライナ侵攻は,国連の安全保障常任理事国であるロシアが隣国ウクライナに進軍するという一大事であり,国連の機能が用をなさない事態を招いている。

 COP会議の場においては,先進国からの毎年1兆ドルの拠出があれば脱炭素に取り組むことができるとの途上国からの要求に,先進国が応えることが期待されている。しかし,日本を含めた先進国は,上記した今世紀前半の革新的な技術を着実に自国の技術として発展させつつ,その努力の中で,高効率なエネルギー利用の確立,そして炭素循環を確実に把握していくことを目指すことから始める必要がある。

[参考文献]
  • 國分俊史(2021)『経営戦略と経済安保リスク』〔東京〕日経BP日本経済新聞出版本部
  • レイ・カーツワイル(2007)『ポスト・ヒューマン誕生 コンピューターが人類の知性を超えるとき』日本放送出版協会
  • 遠藤誉(2022)『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略-世界はどう変わるのか-』PHP研究所
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3081.html)

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