世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
LGBT理解増進法案は人権侵害と国家解体の悪法
(敬愛大学経済学部経営学科 教授)
2023.06.12
- ・生物学的女性を危険に晒し,
- ・新たな反感・対立を招き,
- ・左翼が狙う社会・国家の分断を許す,
- ・新たな補助金利権である。
今,世界は,一方では自由民主義と権威主義の対立から戦争に至っているが,他方ではグローバリズムとナショナリズムの衝突や,左翼・リベラルと保守主義の対立も極めて先鋭化している。
現国会に与党が提出したLGBT理解増進法案は,平成28年に稲田朋美政調会長の命によって自民党内に設置された「性的指向・性自認に関する特命委員会」(古屋圭司委員長)が方針を策定し,それに基づいて議論が進められ,提出に至ったものだ。平成28年の方針には,「わが国においては,中世より,性的指向・性自認の多様なあり方について必ずしも厳格ではなく,むしろ寛容であった」と書かれている。確かに,キリスト教やイスラム教で同性愛は宗教的禁忌であり,刑罰の対象にもなってきた。欧米でLGBTに対する差別禁止や,「包摂」を推進する動きが活発あるいは激しいのは,差別の歴史への反省あるいは反動があるからであり,左翼・リベラルの争点と化している。
日本国憲法は,第14条で「すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない」と規定している。この「法の下の平等」原則は,例示された以外の差別も禁止しているのかという論争があった。これについて最高裁の判例では,「人種〜門地」は例示的列挙であり,それらに限定したものではないとし,「この平等の要請は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり,差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべき」としている。つまり,日本では,LGBTも含め,あらゆる差別は,憲法と最高裁の判例によって禁止されているのである。
ならば,なぜ今回の法案が提出されたのか。日本では,裁判で争うような差別は無くても,学校での虐めや,社会での差別的言動はある。この法案を推進する中心人物の一人,古屋圭司氏は,自身のブログで「現状では社会の理解が進んでいるとは言えない」,「カムアウトする必要のないお互いに自然に受け入れられる社会の実現」を目指すとしている。それは結構だと思う。しかし,ネット検索すれば,親や児童生徒への啓蒙を始めている地方自治体は既にある。新法制定の必要性はどこにあるのか。
この法案の最大の問題は,「性自認による差別は許されない」(途中から「不当な差別はあってはならない」に修正)という文言である。その結果,生物学的女性の専用スペースを設ける事が許されなくなるのである。トイレ,浴場,更衣室などに生物学的男性が入って来ることに恐怖や嫌悪感を感じる事は差別だとされるのである。性的少数者の権利を優先させる結果,多数者の権利は侵害される。米国では,後述する通り,現実にそうなっている。
そうした可能性があるのか無いのか,自民党特命委員会は,発足して7年経つのに,何をもって差別とするかのガイドラインが出来ていない。そのようなガイドラインは,そもそも作成する事が極めて困難なのである。
LGBT当事者による法案への批判もある。まず,LGBTにQ(Queer),A(Asexual),I(Intersexual)など幾ら並べても,「自認」や「志向」は千差万別で,法律やガイドラインで類型化出来ないのである。多くの性的少数者は,特に困難があるわけではないし,静かにしていたいと考えている。一部の人が大きな声を出すことによって,注目を集めて欲しく無いし,却って反発を招くことを心配している。
(参考)「LGBT法案、当事者から異論続出『非常に迷惑』と怒り」
新法制定で促進されるのは啓蒙だけではない。そのための予算が計上され,推進団体が設立され,さまざまな関係者が雇用/委嘱される。これらが政治資金や選挙協力に還元される利権構造になる。これが,自民党の一部議員が熱心あるいは強引に進めている背景である。
今回の法案は,G7広島サミットに間に合わせるため,自民党内の部会で反対・慎重論が多数だったにもかかわらず,執行部が「部会長一任」を宣言して強引に進めている。古屋圭司氏はG7サミット直前のブログで,「G7の中でLGBTに特化した法案を持つ国はない中,日本はややもすると,人権に後ろ向きと謂れのない風評被害(批判)を受けて来た。これに対し,議長国として主体的に岸田首相は『我が国政府・議会は理解増進法案を取り纏めた。日本国内は歴史的に性差に対し鷹揚な文化を形成してきた。しかし,世界の流れを捉え,日本は先駆けて今般このような法案を取り纏めた。文句あるか!』と堂々と主張してほしい」と書いた。古屋氏は保守政治家を自認しているが,この一文を見る限り,思想も矜持も無い卑屈な欧米追従だと言わざるを得ない。保守を自認する国会議員が,突然欧米の名を借りて法案を強引に成立させようとする背景は,補助金利権しか考えられない。
欧米追従を口実に使うなら,米国で起きていることを知らねばならない。民主党の支持母体である左翼・リベラルによる反差別を掲げた急進的な運動は,共和党支持者や無党派層にも反発を広げ,社会・国家を分断しつつある。
2021年5月,民主党の地盤だったヴァージニア州で,女性を自認しスカートを履いた生物学的男子生徒が,高校の女子トイレで性的暴行事件を起こした。しかし,高校と教育委員会は,親たちとの集会で,性犯罪が起きたことを認めず,犯罪防止よりLGBT差別禁止を重視する姿勢を変えようとしなかった。被害者の父親は憤激して詰め寄り,学校が呼んだ警察に逮捕された。親たちの反発で大騒ぎとなり,加害者は転校させられたが,転校先で再び性的暴行を起こした。民主党の州知事は高校・教育委員会を擁護し続け,州内の高校生が反対デモ行進を行い,10月には裁判所が加害者に有罪判決を下した。そして11月の州知事選挙で,8年ぶりに共和党が勝利した。
また,昨年から今年にかけて,共和党の地盤では,LGBT差別禁止法を禁止する反LGBT法を制定する動きが続いている。
宗教的禁忌や伝統的価値観を破壊することを狙った左翼・リベラルの運動は,性教育にも及んでいる。快楽を求めること,LGBTなどあらゆる形を受け入れることを肯定し,小学校低学年から図解入りで教え込むという。さらに,米国で取材した沖縄の保守派ジャーナリスト,我那覇真子氏は,左翼・リベラル側の教師が,虐めや自己肯定感を持てない子供の悩みの原因は,自分でLGBTであることに気づいていないことではないかと暗示を与え,そうだと信じた子供は,ホルモン投与や性転換手術などへ行きかねない。それを聞いた親が「そんなはずは無い」と言って止めようとすると,その親が虐待で訴えられるのである。
米国の民主党が推進する反差別やマイノリティ保護政策は,不法移民や薬物中毒者まで弱者として法的,経済的に保護しているが,民主党支持者を増やすことを狙ったばら撒きあるいは買収政策である。当然ながら社会は混乱を深め,保守派との対立は激化し,国家は分断状態に陥っている。しかし,それこそが左翼の狙いである。ソ連崩壊後に一旦は目標を失ったマルクス主義者が,混乱,敵意,分断こそが,独裁的権力の樹立を正当化するという,新たな革命戦略なのである。
目先の利権に目を奪われて,国家を分断し,社会を混乱させ,人権を侵害して敵意を煽るような政策を,通してはならない。
関連記事
藪内正樹
-
New! [No.3643 2024.12.02 ]
-
[No.3551 2024.09.09 ]
-
[No.3449 2024.06.17 ]
最新のコラム
-
New! [No.3647 2024.12.02 ]
-
New! [No.3646 2024.12.02 ]
-
New! [No.3645 2024.12.02 ]
-
New! [No.3644 2024.12.02 ]
-
New! [No.3643 2024.12.02 ]