世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2962
世界経済評論IMPACT No.2962

G7広島サミットは世界の政治と経済のターニングポイントとなるか

関下 稔

(立命館大学 名誉教授)

2023.05.22

 今年のG7広島サミットは目下焦眉のウクライナ支援,核軍縮,経済安全保障,金融不安の沈静化,脱炭素などのクリーンエネルギー開発,対話型AIの有効な規制,グローバルサウスを包摂する食糧問題など多くの重要課題が目白押しである。その背景にはこの数十年間を席巻してきたグローバル化とIT化の嵐に変化の兆しが見え始めたからである。前者は国家の障壁を超えて世界を一つに結合する巨大な流れをうみだしたし,後者は科学技術の進歩による新たな情報産業の興隆とそれを享受する日常生活上の飛躍的な利便さをもたらした。いずれもが自由化の波に乗って世界の経済成長と社会進歩を加速させた。だがそれらの進行の陰で諸国家間の利害の衝突や極端な所得格差やプライバシー侵害などの多くのマイナス面も堆積されてきた。そして今や安定的秩序が維持できない限界に近づいてきている。その結果,それに代わる新たな原理と主潮が模索され始めている。

 第1はグローバル化を超えたプラネットとしての問題群の緊要性である。この地球はかけがえのない唯一のものであり,その共通認識のもとに,気候変動や自然環境保護,さらにはコロナなどのパンデミックの襲来への対処,核廃絶などに一致して当たろうとする「連帯」(solidarity)精神が澎湃として沸き起こってきた。その点で平和と安全,生命と健康を守ろうとする70億人の人々の願いは一致している。グレタさんなど若者が先導した,かけがいのない地球を守るのは今をおいてないという叫びは世界にこだましている。

 第2は目下紛争や戦争の渦中にある地域での犠牲者の救済や支援はむろんのこと,紛争の停止と平和回復,さらにはそれを予防するための有効な手立てを模索する試みが良識ある人々を先頭にして,王族や国家元首,宗教界の代表,学者,文化人,知識人,芸術家,スポーツ界,企業経営者など各界を網羅して広範に展開され始めている。そこにはこれまでのナショナリズムに依拠した国益中心的な行動原理を超え,真にコスモポリタンな人類益の提唱と擁護,そして涵養を目指す確かな流れが息づいている。それはやがて巨大な力となって,21世紀における新たな国際的合意形成を生み出す巨大な力にまで上り詰めていくであろう。それは博愛と連帯の精神の結合されたヒューマニズムの発揚であり,「草野の根」の民主主義の確かな運動がそれを支えている。

 第3は超大国が先導してきたこれまでの国際秩序形成から,多くの国の創意に依拠した集団的な国際的合意形成への枠組み変化の兆しである。覇権国による「けん引」から新興国を含む先進諸国による「協調」へのこの流れが確かなものとなっていくことが大いに期待されるところである。そこにはアメリカのイニシアティヴの後退が新興国中国との対抗や,後者による「代替わり」を容認するものでは断じてない,新たな潮流の台頭があり,集団的な営為とその創意による難局の打破という民主主義の基本がそこに息づいている。

 だがそれらも目下急速に世界を震撼させてきているLGBTQに象徴されるマイノリティの要求に正面から向き合い,正当に答えることと,IT化の発展の上に現れてきた生成AI(対話型人工知能)への適切な対処が不可欠になる。簡潔にいえば,全ての人の人権擁護と人間の創造性を最大限に発揮させるための基本条件の制度的保障である。前者は人間の多様性を認め,個性が最大限に発揮され,相互に協力,共生し合っていく社会の建設である。後者は人工知能を人間の知能への便利な代替物と考えず,人間の創造性の発揮こそがその中心軸であり,「創造価値」に最大の敬意を払う気風の確立である。それはこれまで人間の創造性の発揮と考えられてきた科学的・芸術的・身体的営為の中から,ルーチンワーク的な作業部分を厳密に峻別することにもなろう。少なくとも,生成AIは主にこの後者の担い手に限定すべきであり,安易に人間の創造性の賜物(作品)をたとえ機械学習を使って改編するにせよ,無許可で模倣し,それをあたかも生成AI自体の作品であるかのような粉飾工作は絶対に避けるべきである。そのための国際的な合意形成が是非とも必要になる。

 両者はともに一人一人の声を大事にする民主主義を基盤にしている。その声に真摯に向かい合えず,おざなりの対応に止まる政治や政党は21世紀世界で確かな地歩を築けない。必ずや時代の荒波の中に巻き込まれ,いずれ廃れていかざるをえない運命をたどることになろう。今回の「ヒロシマサミット」はそのための確かな里程標になるだろうか。その行方を注視したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2962.html)

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