世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2447
世界経済評論IMPACT No.2447

中ロ連携,その実と虚を推論する

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2022.03.07

 本年2月の北京での冬季オリンピックでは,妙なことが起こった。ドーピング問題で国としての参加を拒まれ,ロシア・オリンピック委員会という名の組織で,参加選手は個人資格というロシアの大統領が,開会式に参加した。そんな国の大統領が…出席?

 中国は,米国への対応を,必死で模索している。そんな中国の立場を,ロシアのプーチン大統領がうまく利用している。オリンピック出席は,そんなプーチン流のパーフォーマンス。孤立しがちな中国に,プーチン大統領は,自らの“ロシア・ファースト”の対米欧政策のフレームの中で,中国ににじり寄る。中国にしても,そんなロシアの思惑は十二分に周知しながら,“敵の敵は味方”の論理を実践に移さざるをえない。

 ロシアは,そんな中国に数々の局面でアプローチを続けてきた。天然ガス供給面で長期保証を与え,更には安全保障面での協力を提示する。例えば,2021年10月には,米国の強硬姿勢に直面していた中国に働きかけ,日本を取り巻く海域で,中ロの海空共同演習を実施した。ロシアとしては,ウクライナ関連での米国の動きをけん制し,中国としては,ウクライナとの連動関係を示唆して,米軍のアジア・シフトを牽制したい。そんな同床異夢的思惑が背後にあったこと,想像に難くあるまい。

 そんな中国は,折に触れ,ロシアを支持する立場をとるが,心底では,”ロシア・ファースト”の動きを快くは思っていない。しかし,敢えて反対する必要もない。米国が,この問題でロシアに釘付けになるのは,願ってもないことなのだから…。肝心なのは,上記のような諸々を見る外部の眼には,ロシアの今回のウクライナ侵攻,少なくとも昨年秋ごろから,プーチン大統領の脳裏に明白に描かれていた,と映ることだ。

 ウクライナ東部のルガンスクとドネツクの両州を,実効支配しているロシア系反政府勢力からの要請という形で,今回,ロシアは反政府勢力の実効支配地域を,ロシア領に編入したのだが,その種のことを,いとも簡単にやってのけられるのも,プーチン大統領が自らの勢力圏と認識する旧ソ連邦諸国との関係を,必ずしも外交とは見做しておらず,云わば,内政に近いと認識しているためだろう。しかし,自由主義諸国の眼には,このプーチン大統領の動きは,19世紀的帝国主義の権化のようにも映っている。

 更に亦,そもそも今回のウクライナへの侵攻が,同国のNATO加盟願望を断ち切るためのもので,こうした強硬措置を取れば,ウクライナの現政権は当然のこととして反発を強め,ウクライナのNATO加盟も実現してしまう蓋然性も出てくる。それ故,プーチン大統領としては,いったん強硬措置を取ったからには,結局,ウクライナの現政権を転覆させるしか手が無くなるのだ。こんな動きに,中国とて,本心,同調したくなかろう。だから,現状,中国の最初のコメントは,「自制を呼びかけ,対話による解決を願う」程度のものでしかなかった(ロシアへの消極的支持)。更に亦,ウクライナ問題での国連決議に際し,中国は棄権したが,こんな処にも,中国の逡巡を読み取るべきだろう。

 米国のトランプ前大統領は,ロシアのプーチン大統領の動きを評し,天才の技と称したが,これとても全てを自分で決する傾向のある両者が,相互に共鳴し合うものを持っている証だし,何よりも,そんなプーチンの動きに翻弄されているように見える,バイデンの無能ぶりを指弾したいのだろう。

 確かに,巷間,このロシアのウクライナ政権転覆の試みに,米欧は有効な抑止策を持たず,バイデン大統領の対ロシア姿勢にもブレが見られる,と批判されている。だが,筆者としては,そうした見方は米国の基本方針を見誤っている,と指摘したい。米国の基本方針が,ウクライナのことは欧州の同盟諸国が前面に出るべきで,彼らの強硬の度合いに応じて,米国も同程度の強硬姿勢で後ろ盾となる,というものだと理解するからだ。それが,トランプ以降の,米国ファーストの立場なのだ。そしてこの見方が正しければ,太平洋局面での対中姿勢についても,同盟国日本への米国の注文は,その分だけ強くなる可能性が大きくなる。日本国民としては,日本の外交に,米国の要求を満たしつつ,中国とも対話のルートを持ち続ける。そんな,“しなやかさと強かさ”を求めたい所以である。

 ここまで急展開した,ウクライナ情勢悪化が,短期で終息するとは考えられない。逆に言えば,長期化すればするほど,プーチン優位が減価して行く。欧米とロシアは,そんな時間のメリットを奪い合うレースに,既に突入したのだ。そんな目で,ユーラシアの東を概観すれば,台湾が,ウクライナでロシアが取ったと同じ類の行動を,中国が取るのではないか,と警戒心を露わにしている。それに対し,中国は強く反発する。“中国は自制する”との意思が,その反発の中に含まれていることを,筆者として望んでやまない。2022年2月15日,ロシアは日本海とオホーツク海で,艦船24隻を動員しての演習を行ったが,それには中国は参加しなかった。不参加は,オリンピック開会中だったからだろうが,それ以上の意思がそこにあったと信じたいものだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2447.html)

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