世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2397
世界経済評論IMPACT No.2397

戦争を知らない子供たち:モバイルで進むベトナム都市住民のキャッシュレス化

小原篤次

(長崎県立大学国際社会学部 准教授)

2022.01.24

 ベトナムにおけるモバイル決済及び銀行の最新の利用状況を明らかにすることを目的に調査(*)を実施した。調査方法はインターネットで,2021年12月23日~12月28日の間,3地域(ハノイ,ダナン,ホーチミン)に在住する20~49歳を対象に実施。回答は618名。銀行口座保有率は98.4%,クレジットカード保有率は83.7%にのぼる。

 キャッシュレス化について国際比較可能な調査は世界決済銀行(BIS)統計か世界銀行調査がしばしば引用される。ベトナムが含まれるのは後者である。世界銀行は,金融包摂分野の学者,実務家,および政策立案者,ビル&メリンダゲイツ財団と調査会社Gallupの協力も得ながら,2011年,2014年,2017年と実施している。ベトナム戦争が終了したのは1975年,その年に生まれると今年で47歳,ドイモイ政策(1986年以降)生まれは36歳になる。調査対象は概ね「ベトナム戦争を知らない世代」と言える。

 2017年の世界銀行調査では銀行口座保有率(15歳以上)は30.8%,クレジットカード保有率(同)は4.1%である。さらに,世界銀行調査の個票(1002名,うち20~49歳が618名)を用いて,2021年12月調査の対象年齢に合わせて独自集計すると,銀行口座保有率(20~49歳)が43.7%,クレジットカード保有率(同)が5.2%と若干,高まる。

 ベトナム統計総局(GSO)によると,2019年の平均月収は6697千ドン(約3万4000円)。対して,2021年12月調査では,世帯所得7000千ドン以上の割合が92.1%となっている。つまり,都市部の所得上位を対象とした調査となった。

 携帯電話は100%所有で複数台所有が45.3%にのぼる。モバイル決裁のモバイルウォレット1種類登録者が35.0%,さらに複数登録者が61.7%。利用するモバイルウォレットのブランドを質問すると,Momoが89.6%,ZaloPayが61.2%,ViettelPayが51.2%となった。東南アジアの配車アプリGrab系が38.6%,韓国メーカーSamsung系が15.3%で上位のシェアとは言えない。

 なお,インターネットや携帯サイト,ECサイトの買い物利用は1週間で1回以上が39.3%,1カ月で1回以上が41.4%となっている。

 ところで,既存の銀行に影響がある送金と現金引き出しについても質問している。家族や友人への送金で携帯電話やパソコンを利用するのが77.7%,公共料金支払いで74.8%,これに対して,銀行店舗・銀行ATM・現金を合わせて,家族や友人への送金が19.7%,公共料金が22.0%とICT利用が伝統的な送金方法を上回った。銀行口座の残高確認方法(複数回答)では,携帯電話86.0%,ATM37.8%,銀行店舗17.6%,パソコン17.4%となっている。現金引き出し頻度は,1カ月で1回以上が44.9%,毎週1回以上が35.0%だ。場所はATMが79.6%,銀行店舗が14.3%となっている。

 最後に,NHK放送文化研究所の「日本人の意識」調査(質問数13種類,複数回答)の質問を参考にして,日常生活で「欠かせないもの」(質問数18種類,複数回答)を聞いている。

 1位は「パソコンでインターネットを利用する」で76.7%,2位が「携帯電話を使う(家族や友人との会話,動画と音楽とゲーム以外)」で75.6%,3位の「家族と対面で話をする」(75.1%)や5位の「友人と対面で話をする」(67.6%)を上回っている。ただし,オンラインでの対話の設問も用意した。7位の「携帯電話やパソコンを使って友人と話す」が62.1%,8位の「携帯電話やパソコンを使って家族と話す」が59.7%だ。4位の「パソコンや携帯電話で動画を見る」(73.1%)や6位の「音楽を聞く(CD,携帯電話などを含む)」63.9%を下回ったものの,9位の「ゲームをする(パソコン,携帯電話,ゲーム機)」56.0,10位の「テレビを見る(ビデオ録画を含む)」53.2%を上回っている。

 NHK放送文化研究所「日本人の意識」調査は世代によって順位は変わるが,「携帯電話・スマートフォンを使う」,「インターネットを利用する」,「友人と話をする」,「家族と話をする」,「テレビを見る(録画を含む)」という設問が上位に来る。例えば,16歳~29歳の男性はこの順位だが,40代の女性では,「家族」,「携帯電話・スマートフォン」,「テレビ」,「友人」,「インターネット」となっている。ベトナム調査では「日本人の意識」調査ほど「テレビ」は重視されていない。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響でネット調査を利用せざるを得ず,平均以上の所得水準を対象とする調査になった。結果的に日本企業がターゲットとするマーケティング調査と似たグループとなった。詳細な分析は今後の課題だが,日本人の平均もしくはそれ以上にモバイルやインターネット利用度が進んでいる可能性がある。

 モバイル決済が浸透しているベトナムに,日本が誇る交通系カードSuicaを持ち込んでも普及しない。モバイル決済は日本が必ずしも得意な分野ではないだけに,担当者の苦悩が脳裏をよぎる。

[注]
  • *高橋塁(東海大学)との共同研究である。Nguyen Thi Ngoc(長崎県立大学大学院修士課程修了)から翻訳で助言を受けた。調査は株式会社マクロミルに委託。全国銀行学術研究振興財団および石井記念証券研究振興財団から研究助成を受けている。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2397.html)

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