世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2302
世界経済評論IMPACT No.2302

企業によるコミュニティ戦略のツボ

村中 均

(常磐大学 准教授)

2021.09.27

 旧稿(9月6日付参照)で,市場戦略すなわちマーケティング戦略の視点から,現代の企業の競争優位を生み出す源泉は,価値共創であることを指摘した。価値共創とは,企業と顧客が価値を共に創るということであり,顧客とのコミュニティをいかに構築するのか,その戦略を考える必要がある。本稿では,企業によるコミュニティ戦略で重要となる点,すなわちツボについて,概念的ではあるが,簡潔に論じていくこととする。

 まず,コミュニティ戦略の基本的な考え方は,現在,ビジネスシーンでよく使用されている「ファンベース」(佐藤尚之『ファンベース』ちくま新書,2018年)である。ファンベースとは,ファンを基盤とし,価値や売上を上げていくということである。この場合のファンとは,ある製品やサービスを支持し,再購入する関わりの深い顧客のことであり,80対20の法則(パレートの法則)と呼ばれる経験則からも分かるように,ある企業の売上の80%は,20%のそういった顧客(ファン)から生まれることになる。コミュニティ戦略では,新規顧客から再購入顧客であるファンへと,関わりを深めていくことが重要となる。

 顧客との関わりを深めていくための方法はいかなるものであろうか? 顧客との関わりを表すものの1つにブランドがあり,関わりの深化を考えるにあたっては,顧客視点に立つブランド構築の4段階(Keller, K. L., Strategic Brand Management, 3rd ed, Prentice Hall, 2008)が参考になる。具体的には,①アイデンティティ→②ミーニング→③レスポンス→④リレーションシップという4段階である。第1段階のアイデンティティでは,製品やサービス(あるいは企業そのもの)に対する幅広い「認知」をまず創り出すことが必要であり,第2段階のミーニングでは,独自性のある「イメージ」を確立することが課題となり,第3段階のレスポンスは,第1段階と第2段階によって起きる反応のことであり,顧客の評価や感情で,どれだけ「ポジティブな反応」を得られるかが重要となり,第4段階のリレーションシップでは,愛着や信頼,共鳴している「コミュニティ意識」をいかに高めるのかが課題となる。これらのことは,段階進展に伴って,①認知→②イメージ→③ポジティブな反応→④コミュニティ意識ということを課題とし,顧客との関わりを深めていく必要性を意味している。また,前述のファンとは,第4段階にある,製品やサービスの価値に共鳴(共感)し,愛着を持ち,信頼している人たちのことであることが分かる。

 企業は,特にコミュニティ意識を高め,顧客との継続的な関わりを持つために,常時接続可能な情報通信技術を活用したコミュニティを構築する試みを行っている。その例として,ソニーのαcafeやNike Run Club等(製品購入後のサービスの提供を行い,顧客との関わりを深めることによる差別化の事例)のプラットフォームが挙げられ,それらでは,参加者同士が,画像や情報の投稿や共有等を行い,価値を生み出しており,その価値を享受している。また,こういったコミュニティのファンは,その価値についてソーシャルメディア等を通じたポジティブな口コミを行い,前述の4段階の中の第1段階のアイデンティティ,具体的にいうと新規顧客の獲得に貢献することになる。④リレーションシップ→①(他者の)アイデンティティへのフィードバックというように,ファンが新規顧客を生み,コミュニティそのものの拡大や発展につなげていくことが,コミュニティ戦略では重要となる。

 それでは,コミュニティの形態はいかなるものであろうか? コミュニティには,プール型,ウェブ型,ハブ型の3つがあるといわれている(Fournier, S. and Lee, L., “Getting Brand Communities Right,” Harvard Business Review, 2009, 87(4), pp.105-111)。プール型は,参加者は共通の価値観や目的を持ち,緩やかな結び付きであり,ウェブ型は,参加者同士の結び付きであり,ハブ型は,中心的な参加者との結び付きのことである。したがって,コミュニティ戦略では,プール型から,企業を中心に顧客がつながるウェブ型とハブ型が結合したような形態にしていくことが重要となる。

 以上,企業によるコミュニティ戦略において重要となる点を幾つか論じた。それらをまとめてみると,コミュニティ戦略における要諦は,コミュニティの目的は何で,コミュニティでどういった価値を生み出し,さらに顧客にどういった価値を与えるのかということになろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2302.html)

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