世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2014
世界経済評論IMPACT No.2014

グローバル化が人間社会を破壊した

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2021.01.18

 アメリカは,1940年から1980年にかけて,イノベーションにより多くの新しい産業を興し,マスプロダクション技術で経済を発展させ「高度大衆消費経済社会」をつくり,「アメリカの黄金時代」を築いた。これにより国民の所得は増大し,富の格差が縮小し,アメリカは「世界の覇権国」の座を手にした。

 しかし国際金融資本家グル―プをバックにするルイス・パウエルが1971年「パウエル・メモランダム」で「新自由主義」を掲げて,アメリカの福祉国家的な構造を破壊する運動を起こした。1981年大統領になったレーガンがパウエルの考えを実行した。つまりアメリカは,「市場原理主義」による「グローバル化」に走ったのである。規制を撤廃し,証券管理法,独占禁止法,ペコラ委員会レポート,10B5などを骨抜きにし,労働組合を壊し,アメリカ経済社会の「拮抗構造」を壊して,国際金融資本と多国籍企業を解き放った。

 アメリカの企業はどんどん海外に出ていき,産業の空洞化を起こし,産業はグローバル市場で価格切り下げ競争を展開して,価値ある商品を殺していった。イノベーションを殺し,特長ある価値のあるアメリカ的な商品を消してしまった。グローバル化は,世界中をマクドナルド化し,コンビニエンス化し,地域の文化を壊し,何もかもバラバラにした。グローバル化は,国や地域の文化,習慣,道徳,倫理,宗教,風土を破壊し,共同体意識を消してしまう。社会は分裂し,誹謗中傷,ヘイトスピーチがおこり,これがSNSで増幅されている。グローバル化による目先の利益で動く「市場原理主義の市場経済」は,イノベーションで動く「資本主義経済」を殺してしまった。

 アメリカを代表していたGEやGMもおかしくなり,ウエスチングハウスも消えた。鉄鋼産業,繊維産業,家電産業などはグローバルな競争に敗れて衰退した。産業は金融化し,多国籍企業のコングロマリットも価格切り下げ競争の果てに,部門をばら売りして衰退していった。今やアメリカは世界の「覇権国の座」を失いそうになっており,「パックスアメリカーナ」も崩れてきている。

 グローバル化が地球を覆うと,各国は独自の政策は取れなくなる。国際金融資本が世界の国に金融政策を強要する。アメリカの意思の入ったIMFが各国のプライマリバランスの健全化を要求し,自由な財政政策をとらせないようにする。

 今アメリカ社会は,BLM(ブラックライブズマター),マスク,コロナで分断され,国民がお互いに憎み合い,闘争している。アメリカの家庭も崩壊し,他を信じ,頼り会う社会が壊れてきている。ピケティが調べたように,アメリカの国民所得で上位1%の富裕層を所有する富の割合は1980年までは10%であったが,1980年以降急速に上がり今20%を越えている。

 2000年ぐらいからシリコンバレーでGAFA(グーグル,アマゾン,フェースブック,アップル)が出てきたが,これらはアメリカではあまり雇用を生まず,税金をあまり払わない。GAFAはデジタルの独占を進め,情報を操作している。GAFAは慈善活動でそれをごまかそうとしている。

 2017年,アメリカのトランプは,「アメリカ・ファースト」を掲げて,「アンチ・グローバル」に動き出し,海外に出た企業をアメリカに回帰させ,アメリカ経済を立て直そうとしている。

 日本では,2001年の小泉政権のころから,アメリカのレーガンに強要され「グローバル化」に走り,安倍政権がそれに更にアクセルを踏んで,今も走り続けている。小泉政権は,日本のグローバル化を加速するために,規制撤廃,「何でも民営化」を進め,外国資本,外国商品をどんどん入れ,グローバル市場でのコスト競争のため「非正規社員制度」を制定して,移民を入れて,労働賃金を下げ,労働強化を進めていったが,これで「ワーキングプアー」を増産し,国民を貧困化させてしまった。

 効率化,コストカットによる「何でも民営化」を進め,社会的に必要な「公的事業・サービス」を破壊してしまい,外国資本を引き入れて,外国資本に売り飛ばした。橋本竜太郎の「行政改革」は,効率化であり,コストカッターであり,日本社会を壊してしまった。日本の教育制度を破壊し,社会福祉を切り捨て,年金制度を悪化させ,日本の家庭を破壊した。安倍政権が造った最近の悪法は,このグローバル化を更に促進するためのものであった。

 日本の産業も海外に出ていき,グローバル市場で価格切り上げ競争という「底辺への競争」を繰り広げ,日本の家電産業,電子産業は自壊してしまった。これまでの産業の競争は,「価値創造競争」であったが,グローバル化してくると,特徴ある日本的商品がなくなり,企業は「価格切り下げ競争」の渦に巻かれている。多くは「100円商品」になり,誰も儲からない世界になってきた。ユニクロ,トヨタもその方向に流されている。

 日本は,グローバル化の「TPP」を推進しているが,この世界に入ると,グローバル競争は一段と激しくなり,日本の賃金を更に下げなければならなくなり,日本市場の門戸を開放しなければならないし,移民を更に入れなければならなくなる。日本の国益が失われる。

安倍内閣は,日本社会に「グローバル化」という「火」をつけて燃やしておきながら,「火消し纏い」を大げさに振り回しているが,火は消える訳はない。安倍首相は,自分が日本社会に「火」をつけたことを認識しないで,まだグローバル化の道を走り続けている。

 イギリスのサッチャーは,「サッチャーリズム」というグローバル化に走り,イギリス経済をおかしくした。ただサッチャーは,何もかも壊すついでに,イギリスにこびり付いた「利益団体」という「レントシーカー」を一掃した。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2014.html)

関連記事

三輪晴治

国際経済

国際ビジネス

国際政治

最新のコラム