世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1938
世界経済評論IMPACT No.1938

中国経済V字型回復の現状

童 適平

(独協大学経済学部 教授)

2020.11.09

 10月19日に,中国国家統計局が今年第3四半期のGDP統計を発表し,世界に対して中国経済のV字型回復をアピールした(http://www.stats.gov.cn/tjsj/zxfb/202010/t20201019_1794596.html)。対前年同期比で第1四半期の−6.8%,第2四半期の3.2%から,さらに躍進して,第3四半期は4.9%を実現し,前年同期比でも物価変動要因を除き,実質0.7%のプラス成長となった。

 経済回復の要因はほぼ第2四半期と変わらない。

 前回の本コラム(世界経済評論IMPACT2020.08.31)と同じように,統計方法も統計カテゴリもGDP統計と違う固定資産投資(農家投資を除く投資規模が500万元以上のプロジェクト)と消費財販売額及び税関の輸出入額の推移を見てみよう。

 固定資産投資は順調に拡大し,1~9月累計436,530億元に達し,去年同期比で0.8%の成長となり,プラス成長を実現した。消費財販売額は273,324億元で,去年同期比で7.2%の減少で,減少が続いているが,第2四半期の11.4%減より減少幅は大きく縮小した。税関輸出入額は輸出が1.8%増,輸入が0.6%減であった。

 固定資産投資と消費財販売額の中身もみてみよう。

 固定資産投資は民間部門の投資と政府部門の投資に分ければ,それぞれ243,998億元と192,532億元であった。前年同期比で,民間投資額は1.5%減だが,今年1~6月と比べ,減少幅が小さくなったのに対して,政府のそれは4%増で,増加幅が更に拡大した。その結果,固定資産投資における政府の比率は上昇し,政府主導の公共投資による回復はより鮮明になった。産業別から見ても,電気・ガス・水道業は17.5%増加したのに対して,製造業は6.5%減少した。製造業への投資は回復しつつあるものの,なお弱いことが伺われる。投資の回復は,公共投資とインフラ投資に依存する局面は変わらないことが分かる。

 一方,前年同期比の累積で固定資産投資がプラスに転じたのに対して,消費財販売額は引き続きマイナスが続いているが,その中身には強弱交差の現象が見られる。大打撃を受けた飲食業の前年同期比の累積は依然として23.9%の減少であったが,外食の代替としてか食品の販売額は大きく増加した。ネットショッピングの勢いも衰えを見せずに,1~9月,その売り上げの対前年同期比は1~6月の14.3%増から更に高まり,15.3%の増加となった。コロナ対策は成功したとはいえ,従来の生活方式に戻るのに,まだためらいがあり,時間が必要であろう。ほかに,自動車の販売額は,9月に前年同期より11.2%の増加に転じた(1~9月の累積値はまだ6.3%減である)。コロナで販売額が急増した通信機器は9月に4.6%減に転じたが,医療品の販売額は増加が続いている。

 世界的にコロナの被害に見舞われているのに,輸出入には大きな変化が見られないのに疑問を持つが,ここで棚上げにして内需拡大の背景だけを考えてみることにする。

 まず,前年比消費財販売額の減少が続く,つまり,民間消費が依然として弱い原因は可処分所得と雇用にあると思う。1~9月,全国一人当たり平均可処分所得は前年比で実質0.6%増であるが,都市住民のそれは実質0.3%減で,減少が続いている。可処分所得の減少が原因で,全国一人当たり平均消費支出は6.6%減,都市住民は8.4%減であった。

 可処分所得の減少は雇用から由来する。当局者は失業率が改善しつつあると強調しながら,7月,8月と9月の都市失業率はそれぞれ5.7%,5.6%と5.4%であると認めざるを得ない。一見下がっているようだが,2019年よりは高い状態が続いている。9月に20~24歳年齢層大卒者失業率は例年より4ポイント上昇した(国家統計局人口と就業統計司長のネット文章)。李克強首相が提唱した“屋台経済”には後続きが見られないようだが,消費と雇用の課題はどう対応するであろうか。

 続いて,投資であるが,固定資産投資は順調に拡大しているように見える。これはどうやって実現できただろうか。資金調達先を見てみよう。投資資金なのか,消費資金なのか,分類することができないが,中国人民銀行の発表によれば,1~9月人民元貸出は19年より20.1%増の13兆8961億元に達した。政府債券発行と企業債券発行による資金調達は,19年同期比でそれぞれ,68.8%増の6兆7313億元と67.7%増の4兆967億元であった。企業の株式発行による増資も6100億元で,19年の2.6倍に達した。この結果,1~9月新規社会融資額は,43.7%増の29兆6201億元に達した。ここから,今年これまでの投資拡大を支えたのは,放漫に資金を供給した金融政策と赤字財政による財政政策であることが確認できたと思う。世界金融危機後の“4兆元投資”と同じ構図であるが,“4兆元投資”の轍を再び踏むのであろうか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1938.html)

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