世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1700
世界経済評論IMPACT No.1700

CA州とNY州の明暗を分けた欧州経由のウィルス侵入:発生源解明のための科学的な国際協力の必要性

新井聖子

(慶應義塾大学SFC研究所 上級所員)

2020.04.20

 米国は今年の2月2日から早々に中国からの入国制限を実施し,新型コロナ感染症(COVID-19)を抑止していると考えられていたが,3月初旬から状況が変わり始め,今や世界で最も抜きんでて感染者数と死者数が多い国である。しかし,米国でも州によって被害に大きな開きがある。特に目立つのは,カリフォルニア州(以下,「CA州」と言う)とニューヨーク州(以下,「NY州」と言う)の明暗である。2020年4月15日現在で,NY州の死者は合計約1万1千人だが,CA州は800人に満たない(人口はNY州が1954万人,CA州が3956万人)。

 もともと中国武漢で新型コロナが発生した当初,特に警戒したのは米国の西海岸側(特にCA州やワシントン州)で,中国から地理的に遠い東海岸は警戒心が弱かった。しかし,実際に医療崩壊が起こるほど感染者が増大したのは東海岸のNY州やニュージャージー州で,米国全体を見ても被害が大きいのは西側より東側の諸州である。

 米国政府のコロナウイルス・タスクフォースが去る4月3日に発表した,大規模検査に基づく各州の感染率の報告によれば,NY州とニュージャージー州は陽性率が米国最大の35%で最も危機的な州で,次いで感染率26%のルイジアナ州,感染率15%のミシガン州,コネティカット州,インディアナ州,ジョージア州,イリノイ州,感染率13%のロードアイランド州,マサチューセッツ州,コロラド州が続く(コロラド州以外は米国の東半分)。これに対し,西海岸のCA州とワシントン州は米国で最初に感染が大量に発生した州であるにもかかわらず,陽性率が8%という低いレベルを維持していた。

 CA州とNY州の明暗を分けた理由として,日本のマスコミがよく報じているのは,緊急事態宣言や外出禁止令を,CA州がNY州より各々3日早く発した政策の効果である(4月2日付TBSNews,4月8日付毎日新聞など)。しかし,この理由は一面でしかなく,重要な要因は米国の東の方がより欧州からのウィルス侵入の影響を受けたことのようである。

 確かに,州として非常事態宣言を出したのは,NY州が2020年3月7日で,一方,CA州は3日間早い3月4日だった(当時のCA州内の死者1人)。その上,CA州内のサンフランシスコ市は,州政府に8日も先行して2月25日に宣言を出し,やがて学校閉鎖などの措置を行うことを市民に警告していた(当時の市の感染者数はゼロ)。

 次に,外出禁止令(違反者には軽犯罪の罰則がある)だが,CA州は3月19日に全米で初めて州として外出禁止令を出したのに対し,NY州は3日後の3月22日に出した(ただし,NY州は3月16日には飲食施設の店内サービス禁止,映画館,ジム,カジノなど娯楽施設の閉鎖を命じ,3月19日には労働者の75%は自宅にいるよう命じていた)。また,CA州内では,大都市のサンフランシスコ市や近隣の郡が3月16日に外出禁止令を出しており(翌日の17日から発効),NY州より5~10日早く規制が始まっていた。つまり,CA州では,市や郡の政府が州政府に先行して,非常事態宣言や外出禁止令を発して迅速に動いていた。

 このようにCA州とNY州の緊急事態宣言や外出禁止令の時期に3日ほどの違いがあることは確かだが,以下のように,幾つかの科学的根拠から,別の大きな要因として,欧州などからのウィルスの侵入が両州の明暗を分けたとみられる。

 科学的な裏付けの1つとして,コロナウィルスのゲノムの変異情報を使って,どの国からどの国に移動したかを追跡した結果によれば,最初米国へのウィルスの侵入は,アジア方面からだったが,2月中旬以降,欧州方面からが大きく増えている(https:// nextstrain.org)。また,最近のニューヨーク大学とマウントサイナイ医科大学が別々に行った研究でも,NY州のコロナウィルスはアジアではなく,欧州や米国の他の地域から来たもので,感染時期3月1日にNY市で最初の感染者が確認された随分前の2月上旬・中旬ごろから感染が始まっていたとしている(4月10日付米国CNN)

 すなわち両州の明暗を分けた原因は少なくとも2つあり,米国西海岸のCA州は早くから警戒して対処していた一方で,東海岸のNY州の場合,CA州より政策対応が遅れたうえ,欧州からのウィルス侵入の影響がCA州よりはるかに大きかったことである。NY州など東海岸は,地理的にも経済的にも欧州との関係が強いが,気が付いたら欧州が震源地(epicenter)になっており,欧州経由でウィルスが世界中に拡散していた。米国が中国からの入国禁止を実施したのは2月2日からだが,英国を除く欧州全域からの入国禁止は3月14日からで対応が後手に回った。

 考えてみれば,中国の武漢から東京への飛行時間は3時間半で,同地からイタリアまでは11時間である。シルクロードの時代ならいざ知らず,今や東京であろうと,欧州であろうと,中国からの感染の速さに差はない。欧州諸国もこのことをわかっていたはずだが,それでも今回大惨事になった理由の一つは,彼らが中国やアジアを遠い国とみて,日頃から関心が低いことと関係している。コロナについても,大流行になる前は,市民の間で単なるインフルエンザと変わらないという誤った情報が流布し,殆ど警戒していなかった。

 このように欧州経由で米国に新型コロナの被害が瞬時に広がったことは,はるか離れた国の出来事が全く他人事ではないと改めて感じさせる。今後世界で今回の教訓を生かすため,新型コロナウィルスの発生原因の解明が重視されるところであるが,問題は,今これが難航している。

 新型コロナウィルスが動物由来であるとの確定的な証拠は見つかっていないが,その遺伝子配列から,コウモリが起源となった可能性が考えられている。しかし,コウモリが起源だとしても,このウィルスがいつ,どのようにヒトに感染し始めたのかが不明である。

 中国政府は当初武漢の海鮮市場から新型コロナウィルスが発生したと報じた。しかし,中国の科学者の報告によれば,2019年12月1日に認められた最初の感染者は武漢の海鮮市場に行っておらず,第1感染者グループの41人のうち3分の1が海鮮市場に接触していなかった(Huang, 2020)。また,この海鮮市場でコウモリが売買されていたという証拠はない。

 このため,市場からわずか280メートル先にある武漢疾病管理予防センターや,12キロメートル離れた中国科学院・武漢ウィルス研究所から,新型コロナウィルスが何らかの理由で外に出たという可能性が多々報告されている。トランプ大統領は4月15日,本件を徹底的に調査中と発表したが,中国政府は可能性を否定している。

 新型コロナウィルスの発生源は,政治的な論争によってではなく,科学的に解明されるべき問題である。しかし,今年3月に入り中国では,初期に患者に関わった女性医師が政府に拘束されたり,政府の新たな命令で,中国の科学者が新型コロナウィルスの発生源関係の論文を発表する前に政府の許可が必要になるなど,次第に科学的な真相解明が困難になる状況が生じていると報じられている。

 科学技術や基礎研究は長年の人類の英知の集積であり,その恩恵を享受する者は,また責任も人類に対して負うべきである。中国人研究者だけは論文発表しづらい状況だが,今回の被害で欧州や他国の政府や研究者も大きな関心を持つだろう。一刻も早く中国の研究者が世界の研究者と協力し,科学的な真相解明がなされ,今回の惨事が2度と繰り返されないよう願う。

[参考文献]
  • Huang et al. (2020) “Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China,” Lancet, Vol 395, February 15, Pages 497-506.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1700.html)

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