世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1598
世界経済評論IMPACT No.1598

アメリカ大統領選挙戦,民主党の混沌:選挙資金最高額はサンダース候補

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2020.01.13

民主党内の争

 2020年米国大統領選挙戦の端緒となる,2月3日のアイオワ州党員大会迄,既に1カ月を切っている。その後,2月11日にはニューハンプシャー州で予備選が,次いで同24日にはネバダ州党員大会が,そして同月末にはサウスカロライナ州予備選挙が,それぞれ開催される。

 3月に入ると,早々と,今回選挙での民主党候補決定への最大のクライマックスがやってくる。3月3日の,俗にいうスーパー・チューズデー。この日,同党の大統領選挙人の多いテキサスやカリフォルニアを含む11州で,候補者選びが行われ,僅か一日で1420人の選挙人(全体の4割弱)が選出される,つまり,このスーパー・チューズデーが終わった時点で,民主党側の候補は実質的に,1~2名に絞り込まれてしまう可能性が高くなるわけだ。だが現状を見る限り,そこから先,レースがまだまだ続きそうな予兆が見え始めている。それは,昨年の第4四半期,各候補者に続々と選挙資金が集まっており,お金の点だけで言えば,3月3日以降も,選挙を続けられる体力を持った候補が結構出てきているからだ。

 しかし,余り多くの候補者が,長期間レースに残るのは民主党全国委員会の望む処ではないらしい。同委員会は,恐らくは候補者を絞り込むため,次期の民主党候補者間の討論(アイオワ州デモイン,1月14日)に参加出来る資格を,直近の信頼出来る世論調査4つのいずれかで,5%以上の支持率を確保しているか,或いは,予備選や党員大会の早期開催4州の内,2つの州で7%以上の支持率を得ていることを条件として打ち出している。

 この基準に則して言うと,討論に参加出来るのはバイデン,サンダース,ウォーレン,ブディジェッジ,それにクロバチャーの5候補のみ。ブルームバーグは,討論会には一切参加しておらず,一人我が途を行っている。

 昨年12月末段階で,全国ベース(各種世論調査の結果平均ベース)で,民主党候補者として支持率が高い上位6人は下記の通りだった。1位バイデン(27%),2位サンダース(19%),3位ウォーレン(16%),4位ブディジェッジ(9%),5位ブルームバーグ(5%),6位クロバチャー(4%)。この6人を,中道か,左派か,右派か,で色分けすれば,バイデンとブディジェッジが中道,サンダースとウォーレンが左派,クロバチャーが中道寄りの左派,ブルームバーグが保守ということになるだろう。

 そして,この5人それぞれの,予備選や党員大会の早期開催州での支持率を見てみると下記の通りだった(この種統計の取れる最新時点;11月中旬段階)。

  •           Iowa   NH   Nevada  S.C
  •  バイデン     15%   22%   33%   33%
  •  サンダース    15%   20%   23%   11%
  •  ウォーレン    16%   31%   21%   13%
  •  ブディジェッジ   25%   16%    9%    6%
  •  ブルームバーグ   2%    —    —    —
  •  クロバチャー    6%    3%    2%    1%
  •  *ブルームバーグはこれら4州では候補登録していない。

 上記民主党6候補の,全米での選挙運動の現状を,概略纏めると,以下のようになるのではないだろうか。

 ①バイデン支持率は,7月に低下の危機に見舞われたが,8月には回復。しかし,以後は横ばい。予備選・党員大会早期開催州での世論調査結果を見ると,アイオワでは,同じ中道に属するブディジェッジの後塵を拝している。どうも今のバイデンには,有権者を熱中させる要素に乏しいようだ。

 ②サンダースとウォーレン,この2人は左派の代表の座を激しく争っているが,個別の世論調査結果を詳細に見ると,時として,サンダースがウォーレンに,競り負けるケースも散見され始めた(サンダースには昨年10月,心臓発作で倒れた経歴もある)。そして,その競り合い状況の微妙な変化と波長を合わせるように,ウォーレンは,ヘルスケアーや温暖化防止,環境保護などの分野で,従来の過激ともいえる論調を封印し始めた。明らかに中道色を出そうと努力しているのだ。

 ③左派でも中道寄りと看做せるのはクロバチャー。ミネソタ州選出の女性上院議員。連邦議会での法案通過への寄与度はかなり高い。2018年には,彼女がスポンサーになった法案の内,111本が立法化されている。第115議会では,トランプ政権が打ち出した法案の3割に,賛成票を投じている。

 ブルームバーグは,短期の間に急速に民主党支持基盤に浸透してきている。同候補は,明らかにスーパー・チューズデーに焦点を当てており,該当州の市町村の各種プログラムに,彼の財団が多くの寄付や支援金を拠出する形で,それら市町村のリーダーたちからの支持を得ているとも伝えられる,更に,対象州のテレビ広告に膨大な個人資産を投入,結果として,今後,それが,さもなければもっと大きくなったはずの,ブディジェッジの支持率上昇を抑制する効果を果たすようになるかもしれないとのこと(NY Times on Politics:12月20日)。

選挙資金集めでは1位サンダース,バイデンは3位

 ブディジェッジには,アイオワでモメンタムが付いてきている。各候補への第4四半期の選挙資金の集まり具合は,1月31日にならないと出尽くさない.しかし,ブディジェッジ陣営は年末,どの候補よりも早く,数字を公表している。しかも,その数字を見る限り,同じ中道のバイデン陣営を凌ぐ可能性が高かった。同陣営のマイク・シュマールによると,第4四半期の集金額は2470万ドル。第3四半期のそれが1920万ドルだったから,前期に比べ500万ドルも多かったことになる。つまり,昨年後半,それだけ同候補への草の根レベルでの支持熱が高まったというわけだ。但し,同候補には,黒人やヒスパニックの支持を集めることが出来ていないとの弱点もある。

 なお,本年に入って早々,残りの候補たちも続々と,第4四半期に集めた選挙資金額を自主公表し始めた。それらによると,第4四半期,最もカネを集めたのはサンダースで3450万ドル,2位が上記のブディジェッジの2470万ドル,3位がバイデンの2270万ドル,4位がウォーレンの2120万ドル,クロバチャーは第6位で1140万ドルだった(ちなみに第5位は,全米ベース支持率第7位3%,のヤング候補で1650万ドル)。既に記述しておいたように,各候補者,これだけの金があれば,優に3月のスーパー・チューズデー以降も,未だ十二分に戦えるというわけだ。

 最後になるが,アイオワ州での世論調査で注目しておくべきは,もし自分の支持する候補が選ばれなかった時,セカンド・ベストとして選ぶ候補は誰か,との質問に,かなりの数の民主党有権者がトランプを打ち破れる候補,と答えている事実だろう。この要素が濃ければ濃い程,民主党候補が一本化された暁に,その候補に民主党支持者の票が集中する可能性を払拭出来ないことになるからだ。尚,民主党全国大会は7月13日~16日に,ウイスコンシン州のミルウォーキーで開催される。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1598.html)

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