世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1315

ASEAN低温物流市場の拡大

春日尚雄

(都留文科大学 教授)

2019.03.25

 近年,日系の総合商社,物流・食品流通企業などがASEANにおいて低温食品物流事業を展開する例が相次いでいる。拡大するASEAN消費市場の取り込みが大きな狙いであるが,ASEANにおける食品マーケットは,各国が経済成長と共に中所得層が厚みを増し,食生活の多様化とともに消費生活様式が変化し,コールドチェーン物流の重要性が高まりつつある。ASEANでは都市部を中心にスーパーやコンビニなどの大幅な増加がみられ,冷凍・冷蔵食品の消費量が拡大しており,各国の一人当たり消費量は今後もさらなる消費拡大が見込まれている。これまでASEAN 各国では,地場の食品メーカーや小売業者,地場財閥グループなどが低温物流網を構築してきたが,配送・保管時の温度指定や湿度管理の徹底といった低温物流の高度化のニーズへの対応が不十分であるとの指摘があった。

 2018年11月の第16回日ASEAN交通大臣会合において,「日ASEANコールドチェーン物流ガイドライン」が承認された。日本の支援により,コールドチェーン物流に要求される倉庫事業や輸送事業の質を上げることを目指している。ガイドラインでは,冷蔵・冷凍保管と保冷輸送を行う際の技術的内容や,各国のコールドチェーン物流に関する法制度やインフラ整備等を行う際の事項が入っているが,基本的にB to Bを対象としている。

 同ガイドラインの日本側のカウンターパートである国土交通省は,ここまでASEAN域内における低温保冷輸送の実証実験をおこなってきた。近年おこなったものとして,①タイ→ラオス→ベトナム間でのクロスボーダーでの複合一貫(トラック+鉄道)冷温輸送,②ミャンマー(シャン州)の農産品のタイへの低温クロスボーダー輸送,③タイ北部チェンマイ・チェンライからバンコクへの小口低温配送,などのパイロット事業の実証運行をおこなってきた(注1)。日本政府としては,こうした支援を通じて,物流高度化を通じたASEAN経済成長への貢献,日系物流事業者や食品メーカー・小売業者によるASEAN進出の促進,高水準の低温物流サービスの提供に必要となる日系メーカー製物流機器の利用促進,日本からの農林水産物・食品輸出の拡大,を図るといった狙いがあると考えられる(注2)。

 一方,こうした小口保冷配送サービスの国際規格がPAS1018として,2017年2月英国規格協会(BSI)から発行されている。この国際規格は日本主導で策定されており,物流関連のみならず日本としても意義が大きく,今後は国際標準化機構(ISO)などにおけるサービス規格化の流れの中に入ってくる可能性がある。昨今のeコマース(EC)市場の急拡大は,日本で一般化している小口保冷配送(クール宅急便など)の新興国における需要を押し上げる効果があるが,PAS1018の対象領域としてはB to Cも含んでいる(注3)。こうした規格面における動きも,ASEANにおける高品質な物流基準の普及にも影響を与えると考えられる。

 ASEANにおける物流では多くのケースで国境を接するため,越境交通円滑化が求められてきた。ASEAN通過貨物円滑化に関する枠組み協定(AFAFGIT)の交渉がトランジット通関を中心に進みつつある。これをもとにASEAN税関貨物通過システム(ACTS)が稼働しており,トランジット通関手続きが大幅に簡素化される動きが一部地域であるが本格化し始めている。またGMS(大メコン圏)の枠組みでは,GMS越境交通協定(CBTA)が陳腐化しつつある内容のアップグレードのためにCBTA2.0に改定される見通しになっている。ASEANの拡大する消費財市場の中で,低温食品物流などの新しい事業展開はこれまでやや停滞していたASEAN交通円滑化措置の高度化の後押しにもなることが期待される。

[注]

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