世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1160
世界経済評論IMPACT No.1160

ASEANにみる一帯一路構想の7つの疑問

石川幸一

(亜細亜大学 教授)

2018.09.17

 2017年5月に北京で開催された「一帯一路国際協力フォーラム」にASEANの10か国から首脳あるいは閣僚が参加したことに象徴されるように中国の一帯一路構想(BRI)に対するASEANの期待は極めて大きい。ASEAN各国は経済開発計画を作成し,インフラ開発に力を入れているが,この1−2年,タイの東部経済回廊,インドネシアの6大経済回廊,フィリピンのBBB計画など自国の経済開発計画とBRIを連携させる動きが活発となっている。2017年の一帯一路国際協力フォーラム以降,多くの国で大型プロジェクトを含むBRIプロジェクトが合意され,一部は着工している。BRIに対する高い期待の一方で,ASEANでは次のような問題や懸念が指摘され,表面化している。

 BRIについては,中国首脳の演説や中国政府の発表するビジョンなど中国政府の文書による論考が多いが,受け入れ国での実態や見方を検討することがBRIを客観的に評価するために必要である。以下は,ASEAN各国でのBRIに対する見方や評価から浮かび上がった疑問である。

1)経済性の評価は適切か:インドネシアの高速鉄道,マレーシアの東海岸鉄道,ミャンマーのチャオピューSEZについては需要予測が過大であり,採算性に疑問があると指摘されている。チャオピューSEZはFS調査と受注者が同じ中国企業であり,客観的なFSが実施されたのか疑問が出てもおかしくない。

2)あまりに巨大すぎないか:経済規模からみてあまりに巨大でリスクが大きいと思われるプロジェクトがある。たとえば,ラオスの高速鉄道の総工費はラオスの名目GDPの5割に匹敵する。その他の鉄道プロジェクトも極めて規模が大きいし,チャオピューSEZは100億ドルプロジェクトである。

3)プロジェクトは本当に必要か:相手国の経済発展にとっての必要性への疑問があるプロジェクトがある一方で,中国の安全保障や中国企業の利益など確実に中国の利益になるプロジェクトがある。中国企業が提案したといわれるラオスの都市開発,マレーシアの東海岸鉄道などがその例だ。中国の安全保障のために重要なプロジェクトには,マラッカ・ジレンマを解決できるミャンマーでのチャオピューSEZ,石油天然ガスパイプライン,マレーシアの東海岸鉄道などがある。

4)金利は高くないか:BRIプロジェクトの金利が高さへの批判も多い。BRIプロジェクトの優遇金利は2−2.5%のようだが,パキスタンは8%,スリランカは6%と高い金利が適用されているといわれる。日本の円借款金利はLDCかつ最貧国は0.1%であり,BRIは20倍の高さとの批判が出ている。

5)相手国経済社会に貢献するのか:BRIプロジェクトは中国企業が受注し,資材などは中国から持ち込み,中国人労働者が工事現場で就労し,中国人労働者には住居,食事が中国企業により提供され,賃金も人民元で支払われる。典型的な「ひも付き援助」であるが,融資の条件となっている。下請け業務や技術移転など地元企業に恩恵がなく,地元社会にも金が落ちないなど相手国経済社会に貢献しない。

6)多数の中国人が入国し滞在を続けているのではないか:プロジェクトの実施に伴い,多数の中国人労働者が入国し,一部は不法滞在をしている。ラオスの高速鉄道では中国側は5万人の中国人労働者の移入を計画している。多数の中国人労働者が不法滞在するケースも多く,ラオスとカンボジアには5万人から10万人の中国人がすでに移入しているといわれる。

7)債務増加を心配すべきではないか:プロジェクトの規模の大きさ,経済性の疑問,金利の高さから対外債務が増加する可能性が指摘されている。カンボジアとラオスはGNI(国民総所得)に対する対外債務の比率が2015年時点で54.6%,99.6%とすでに高くなっている。カンボジアとラオスの対外債務の5割は中国に対する債務といわれており,BRIの推進により対中債務がさらに増加すると,返済が滞った場合にスリランカのハンバントタ港で起きたような中国による資産の租借の発生,なども懸念される。

[参考]石川幸一「一帯一路構想とASEANの対応」J+C Economic Journal  2018年10月号,日中経済協会。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1160.html)

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