世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1129
世界経済評論IMPACT No.1129

米中摩擦,両首脳の露出に濃淡も:トランプ流策弄スライドショウを読み解く

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2018.08.13

 米国の中間選挙まで,愈々3カ月を切った。

 この間,トランプ大統領は様々な分野で,関係者が「まさか…」と思うような措置を矢継ぎ早に打ち出し続けてきた。対象分野も,対外と対内の両分野に拡がっている。

 あまり遡っても,列挙の数が増えるばかりなので,取り敢えずは直近の3カ月に絞っても,案件の多様性と範囲の広さには唖然とする他はない。

 この絡みで,誰でも直ぐに念頭に浮かぶのは,トランプ流の外交独演ぶりであろう。

 6月8〜9日にG7サミットで一人“暴れる君”ぶりを発揮したかと思えば,6月12日にはシンガポールで米朝首脳会をやってのけ,その直後,今度は米中通商摩擦を激化させ,返す刃で米ロ首脳会談に臨み,プーチン大統領に友好的姿勢を示す。

 しかし,この米ロ首脳会談は思惑通りにはいかなかった。2016年大統領選挙へのロシア諜報機関の関与問題などで,自国の諜報機関の報告より,プーチン大統領のいうことに理解を示したとして,米国内での反応は極めて不評。

 もっとも,そこはトランプ大統領,変わり身が早い。

 反響が悪いと観るや,今度はイランを取り挙げ,同国との核合意の内容改善を目的に,経済制裁姿勢を硬化させる。そのやり方を,米国マスコミは,北朝鮮へのアプローチと同じだと解説した。実際,トランプ大統領は,北朝鮮の金委員長に直接会談を持ちかけた様に,イランの大統領にも直接会談には応じる,とのメッセージを送っている。

 想定外で相手を驚かせ,間髪をおかず交渉に持ち込む。そうしたやり方も,繰り返すと効果は半減するもの。ところが,トランプ大統領は,そんな予測を気にも留めない。

 イラン問題が,直ぐには動かない,と見極めるや,再び,中国に対して,更なる姿勢硬化を以って臨む様になる。対中制裁関税の賦課品目や賦課税率を一層高めることを検討するというのだ。

 ところが,トランプ大統領がこうまで対中問題でしつこく,且つ,ムキになってくると,外部観察者は逆に,そうした大統領の姿勢の背後に,交渉者として,彼が如何に自己の立場を優位にしようとしているか,何となく理解出来る様な雰囲気にもなって来る。

 そこに浮かびあがってくる大統領の思惑は,既に中国を壁際まで追いつめている。ハイテク産業の将来を決する戦いだから,勝負は長期戦。

 そうした諸々の認識に加え,これまでに既にかなりの程度迄対中姿勢を硬化させていたのだから,もっと姿勢を硬化させても,米国内では最早,政治的に失うものは大きくはないはず,との彼一流の勝負勘。

 亦,制裁関税の範囲と税率を,仮に以前の措置のままに留め置いておいたなら,恐らく,外野席の多くは「トランプは制裁を実際に発動するつもり(せざるをえない=仮に一旦交渉入りすると,相手に更なる譲歩を迫るレバレッジを失う)」と見えるはずだが,此処に至り,その制裁の幅を更に拡げ,関税率を更に高めることを検討するとなると,それは,姿勢の硬化とは裏腹に,追加制裁措置(検討中)を取り除く可能性を新たに設定することで,中国に交渉入りを迫る手段ともなってくる。

 或いは,仮に交渉入りしても,入口としては新たに設定した追加関税だけを取り除けばいいのであって,既決定の,当初の制裁関税は外さずに済み,交渉中にもレバレッジを確保し続けることが出来ることになる,というわけだ。

 今回の追加制裁検討の背景を,上述の様に読めば,こうした状況下でのEUへの経済制裁の一時棚上げは,交渉相手の中国とガチの勝負を行うための環境整備となる。

 そして,此処まで来ると中国も,米国の長期戦を見据えた交渉意図を読み取って,先ず国内での経済基盤の強化を指向するため,国内経済政策を大幅に変更し(例えば,投資を重視する従来型の政策への復帰や,米国からの非難をこれ以上招かないため,元安を阻止する政策など等),亦,中国としての対米交渉入り素材作りのために,更なる報復措置を明言する様になる。

 面白いのは,中国では,対米摩擦の激化・長期化を想定し,最高責任者習主席を,むしろこうした米国との対立から遠ざけて,彼の立場を守ろうとし始めているのに対し,米国では,むしろ逆に,トランプ大統領が前面に立ち続けていることだろう。

 中国では組織がトップを守ろうとし,米国ではトップが組織を追いたてて対立を煽ろうとする,好対照の構図ではないか…。こうした状況下,果たして,トランプ大統領が目指す様なトップ同士の会談で懸案を決着する,そうした方式に中国が応じるものだろうか…。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1129.html)

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