世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
トランプの矢継ぎ早の決断とその後遺症についての一考察(その2):結果を予見しないままでの,生存本能の発現
(関西学院大学 フェロー)
2018.04.16
外交分野でも同じようなことが起こってくる。イランの核合意をどう処理するか,サウジやカタール,或いは,ロシアや中国,さらには北朝鮮へ,其々どの様な対応を取るべきか…。ここでも思い切って,America Firstの態度を鮮明にする,が答えであったのだろう。
そうなれば,グローバル指向のティラーソン国務長官との軋轢が頻発,遂には,同長官の解任という事態に至り,さらには,マクマスター国家安全保障担当補佐官の更迭にも繋がる。しかし,大統領にしてみれば,そんな結果になることは百も承知。それは,当然だろう,トランプ自身が,“自分らしく振舞うことで”そうした柵をふっ切ろうと決心したのだから…。
こうした心境の変化を,NY TIMES紙は「トランプ大統領は,自分の周りを,自身の“America First”の価値観に近い“肌合いの合う者”たちで固める,という決断を行った」(3月13日)と報じた。
この記事の中で同紙は亦,共和党ボブ・コーカー上院外交委員長(テネシー)の,かつての発言;「ケリー首席補佐官,マティス国防長官,ティラーソン国務長官は,【暴走する:筆者注書き】トランプ大統領へのブレーキだ」との発言をチャッカリと引用,そうした引用の印象を使うことで,共和党保守派ですら,この国務長官解任をどう理解してよいか,整理がついていない実情を,上手く,読者に伝えている(直近の米紙の報道では,トランプ大統領はケリー首席補佐官すら,更迭することを考えていた形跡濃厚だという)。
思い起こせば,コーカー上院外交委員長の次の発言も,当時の,そして現在の,同委員長の混乱ぶりを如実に表している様に見える。
その発言とは,約1年数か月前,トランプ大統領就任式の前夜,共和党主催の祝賀会席上での冒頭,挨拶に立った同委員長の第一声,「我々はどこに向かっているのだろう…私には見当もつかない」というものだった。
こうした,共和党右派と目される議員たちの,過去と現在の発言を重ね合わせて見ると,トランプ大統領の最近の諸措置に対する,議会共和党内の困惑ぶりも手に取るように推察されるではないか…。
ホワイトハウスから中枢を担う人材が,解任や辞任で,続々と流出している。
例えば,3月初旬,NY TIMES紙は,コーン国家経済会議委員長の辞任意図表明に関連して,次の様にも報じていた(3月6日)。
「トップ・サークルの側近たちのホワイトハウスからの退出が相次いでいる…ロブ・ポーター補佐官(人事担当)が去り,コミュニケーション局長のホープ・ヒックス女史も近々,職を辞すというし,ケリー首席補佐官も退出の噂が絶えず,それにマクマスター国家安全保障担当補佐官も辞任の準備を行っていると伝えられる【筆者注:後日更迭】…コーン委員長の辞任で,トランプ政権誕生後,トップ・ポストの離職率は43%にも上っている」云々。
いずれにせよ,以上のような状況を素直に解すれば,比較的長い(或いは,短い?)試行運転期間を経て,悪化する自らの立場を前に,トランプ大統領は“自身の生存本能に導かれた”,独自の決断を行った,ということになるだろう。
かつて,不動産王トランプは,テレビ番組アプレンティスに主役として登場,「お前はクビだ」を連発して,一躍,米国社会で有名になったが,その「お前はクビだ」を,最近はホワイトハウスから連発しているというわけだ。
ティラーソンやマクマスターといった,閣僚更迭人事は,彼らが登用していた副官クラスの人事にも波及せざるをえない。
ティラーソン解任は,国務省内の同氏副官の解任を随伴した。また,トランプ大統領は,オバマ政権晩年,FBI内で大統領選挙中のトランプ陣営のロシアとの接触事案を調査指揮したアンドリュー・マッカビ副長官をも解任した。
さらに,直近では,大統領は,ロシア疑惑を調査中のミュラー特別検察官に対応するためのトランプ弁護チーム入れ替えも実行した。(つづく)
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