世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.967
世界経済評論IMPACT No.967

アジア日本人起業家とネットワーク化の新潮流:WAOJE(旧和僑会)クアラルンプール大会とバンコク大会に参加して

佐脇英志

(亜細亜大学 特任教授)

2017.12.11

 世界的な起業家ブームの中,2016年ASEANのベンチャーキャピタル(VC)は日本の3倍を超え膨張している。4年前の2012年は日本を下回る水準から急激な成長である(KPMG2017)。これらのエコシステムを背景として,近年ASEANでは,ベンチャー企業の動きが活発化している。こうしたASEAN起業家ブームの中で,日本人の起業家の活動も盛んになっている。

 身一つで日本を飛び出し,海外の厳しい経営環境の中でローカルに溶け込み身を立ててきた一匹狼の世界中の日本人起業家たちがWAOJE(世界日本人起業家協会,World Association of Overseas Japanese Entrepreneurs)の下に,今纏まろうとしている。WAOJEとは,旧和僑会である。2004年に香港にて和僑会が発足し,その後2010年全体を束ねる和僑総会が発足,さらに2016年和僑総会を一般社団法人化し,2017年には一般社団法人WAOJEに名称変更し,定款をつくった。

 元々和僑会は,香港・中国本土を拠点に世界で活躍する日本人企業家(和僑)組織で,香港・深圳・北京などに設立した組織である。WAOJEはこの和僑会の発展形で,華僑の模倣ではなく,オリジナルの意志を持った世界中に広がる日本人起業家ネットワークをめざしている。

 今年2017年5月マレーシアクアラルンプールでWAOJE地域大会,10月タイバンコクのAsean Venture Forum世界大会に参加したので,その状況をレポートする。

WAOJEアセアン大会 in Kuala Lumpur

 2017年5月,世界中の日本人起業家150−200人がクアラルンプールに集結し,マレーシア第4代首相マハティール氏,宮川全権大使を迎えてWAOJEアセアン大会が盛大に開幕した。基調講演では,日馬外交関係樹立60周年,ASEAN50周年に因んだ話が行われ,マハティール元首相はスピーチの中で,自身の経験を振り返った。1961年に初めて日本の地を踏んだ時,戦争の焼け野原からの復興に,自分を顧みずに,献身的に,一生懸命に尽くす人達に心を打たれたとのこと。だから,首相になった1982年に,「この献身的に働く人たちを師として,学ぼう」という趣旨でLook East政策を始めた。さらに,失われた20年に代表される最近の日本産業界のパフォーマンスの劣化に対比し,「今ここに,国を離れ,身一つで,祖国のため,世界のために,力を尽くしている人達がいる。彼らは,必ずしも正当に評価されていない。国家は,この献身的に働く人達(日本人起業家)をサポートしていかなければいけない」と日本人起業家たちに熱いメッセージを送った。

 また,マレーシア日本人起業家の女性リーダーのスピーチが印象深い。「前回のASEAN大会は2014年5月22日タイ軍事クーデターの翌々日にバンコクで開催された。しかし,誰一人として,キャンセルする仲間はいなかった(日本人駐在員であれば,本社の指示で身動きが取れないであろう)。自分の意志で,自分の責任で,独自の情報網を駆使して(日本語のニュースに頼らない),自分で決められる人達がここにいる」との言葉は,なかなか意思決定が出来ないサラリーマン海外駐在員に対して,明確なポジションの違いを示している。

WAOJE Global Venture FORUM 2017 in Bangkok

 KL大会に続き,400−500人の世界中の日本人起業家が新たな出会いやビジネスへ展開できる場を求めバンコクに集まった。他に類を見ない規模のビジネス交流会となった。

 基調講演では,お笑い芸人であり絵本作家でもあるキングコング西野亮廣氏,LINE株式会社元社長,現C CHANNEL社長の森川亮氏,著書『伝え方が9割』を執筆したコピーライターの佐々木圭一氏が講演を行った。さらに,さらにアクティブラーニングの第一人者である羽根拓也氏によるワークショップやアジア各国で起業した女性のパネルディスカッション,前夜祭,最後の大交流会と,企画盛り沢山の内容であった。

 森川氏は講演で,世界が急速に変わっていく中,日本の人口減,長期経済停滞に対して警笛を鳴らした。さらに,「過去の伝統,文化を守りながらいかに攻めるか。未来に何を残せるか。みなさんと,日本を元気にしていきたい」と語り,同じ起業家としてWAOJEのメンバーに加わった。

 WAOJE代表の迫氏は,バンコク大会の講演の中で,中国北京で建築デザインのビジネスを孤軍奮闘して立ち上げてきた自らの経験を振り返って,「海外の市場環境の急速の変化の中で生き残っていくため,世界に散らばった日本人起業家たちが,課題を共有し協力していくことの重要性」を説いている。

 世界の日本人起業家をつなぐWAOJEは,①情報の共有,②人脈の拡張,③機会の創出を求めて,急速に活動を拡大している。東アジアでは北京,大連,上海(近日設立予定),香港(準備中)。アセアンでは,シンガポール,クアラルンプール,バンコク,ヤンゴン,プノンペン,セブ,マニラ,ジャカルタ(準備中),ホーチミン(準備中),ハノイ(準備中)。オセアニアでは,ゴールドコースト,北米ではニューヨーク(準備中)に広がっている。日本でも,北海道,東京,名古屋,京都,大阪,岡山,広島,福岡,沖縄に支部が出来ている。今後,北米,南米,欧州,中東にも積極的に展開していく。世界に散らばった日本人起業家達は,今まさに集結し,大きな変化を巻き起こそうとしている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article967.html)

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