世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.908

深刻な「分断」により空洞化が進む「アメリカン・コンセンサス」

平田潤

(桜美林大学大学院 教授)

2017.09.04

 「米国第一主義」を標榜するトランプ大統領政権が発足し半年が経過した。当初,(市場を中心に)米国経済を一段と浮揚させると期待された政策(所謂トランプノミクス=減税を中心とした税制改革や大規模なインフラ投資等)は十分に展開できず先行きも不透明な反面,大統領選挙時の公約的な政策とは言え,米国にとって効果は未知数で,国際社会・グローバル経済からみるとリスク・不確実性を大きく高める政策(TPPからの離脱,NAFTAの見直し/再交渉,パリ協定からの脱退)は実施に踏み切られた。そして移民の受入れ〔人材の自由な流入〕を巡る政策,医療保険制度改革(オバマケア)の改廃問題では,米国の司法・立法によるチェック&バランスが有効に働いた面はあるにしても,米国の抜きがたい「分断」の実態があらためて世界中に曝け出されたといえる。

 米国の「分断」といえば,政治面の対立=①民主党優位な地域(ブルーステート)と共和党が支配的な地域(レッドステート)が固定化し議会での党派的対立が深刻化,②財政再建(小さな政府)派と財政積極支出派(再配分やセーフティネットの強化)の非妥協的な対立が,米国国債上限法案を舞台に,一時は連邦政府機能を麻痺させた),社会面での対立=①銃所持への賛否や医療保険等をテーマに,権利や負担を巡って根強い相互不信が存在する),経済面での対立=(①拡大する一方の格差に対する両極端のスタンス,②自助努力重視か社会福祉拡充か)などが定着しつつあって,ある意味で米国の「構造問題」化していると見られる。そして今やこれまで米国の歴史が積上げてきた様々なコンセンサスが空洞化し,大きく揺さぶられているといえよう。

 前任のオバマ政権は,2008年発生した(100年に一度と称された)リーマンショックで,大きなダメージを受けた米国経済の回復・再生に向け,国民の新たな負託を受けた。そして新たな繁栄に向けての「変化(change)」を主導し,米国の一体化を回復する統合的リーダーシップを発揮すべく努力したものの,米国経済社会の「分断」の緩和・改善については,道半ばで挫折した。

 米国で建国以来連綿と続く米国社会を象徴するキーワードとして「アメリカン・ドリーム」がある。実際にこれまで米国とはこうしたアメリカン・ドリームを実現できる「機会」と「可能性」に富んだ経済社会(Yes, we canの世界)であるという,前提と認知=一種の「コンセンサス」が成り立ってきた。ここでアメリカンコンセンサスとは,「自由主義」と「民主主義」を両輪として発展してきた米国経済・社会の中で,伝統的に経験知・暗黙知として国民に共有され,長期にわたり生命・価値を保っている様々な内容を指す。米国の経済社会,そして米国資本主義の内懐に分け入ってみると,さまざまな分野(システム/マーケット/ルール等)にこうしたコンセンサスが見られる。例えばa米国経済発展の原動力として重視される「市場」と「起業」,b.フロンティア指向の高いイノベーションの土壌,c.自助努力による成果として高く評価される「成功」と「富」,d.自由かつ豊かなアメリカンウエイ・オブ・ライフ,e.「自助努力」が称揚される一方で,自発的チャリティやミッショナリー・スピリットが発揮される社会,などであろうか。

 米国社会は90年代,ICT革命を主導し一極集中覇権を達成したものの,アメリカンコンセンサスの母体である米国社会/コミュニティ自体の求心力や,多数を占める中間層の安定性は大きく揺さぶられ続けた。そして21世紀に入るとテロとの戦いに突入し,バブル崩壊(IT/住宅)と深刻な金融危機に直面する中で,重要な政策を巡って,社会の「分断」と国論の二極化が以下にみられる「経済の構造的変化」を背景に,益々昂進している。

  • A.産業構造・労働市場・雇用環境の変化による「中間層部分」の不安定化
  • B.社会の実質的流動性低下(固定化)と諸リスク負担の下方シフト
  • C.人的資本面での亀裂が一層拡大
  • D.様々な局面(所得・資産・教育・医療・安全性)での深刻な格差の拡大・固定化
  • E.既存リーダー〔エスタブリッシュメント〕への不信・不信認の増大

 独立以来の米国史を紐解いてみると,「米国的価値」を具体化し,発展の原動力となってきた「アメリカンコンセンサス」が,繁栄の副作用や負の遺産・矛盾が増大する中で求心力を喪い,動揺・分裂,或は硬直化し,しかしながら大きな危機を契機として新たに再構成・活性化していくといった流れが,繰り返し進行してきたが,今日こそアメリカンコンセンサスの再生,求心力の回復が喫緊の課題となりつつある。

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