世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.858

ユニラテラリズムとWTO

柴山千里

(小樽商科大学 教授)

2017.06.12

 2017年5月27日,G7が閉幕した。大統領就任後初めてのG7に臨んだトランプ氏は「アメリカは公正で自由で開かれた貿易を求めている」「米国の低関税に合わせないのであれば,関税を引き上げる」と発言したが,首脳宣言では「保護主義と戦う」との表現が用いられた。22日の国際通貨金融委員会の共同声明では,トランプ政権を配慮して従来入れている文言「保護主義に対抗する」を外したことと比較すれば一歩前進とは言えよう。

 それにしても,「公正な貿易」や「制裁付きの市場開放要求」というトランプ氏の発言は,デジャブ感がつきまとう。1980年代半ば以降吹き荒れたアメリカのユニラテラリズム(一方主義)を思い起こさせるからだ。ユニラテラリズムとは,アメリカの基準に基づき不当な通商制限を行っていると認定した国に対して,アメリカ政府が一方的に有罪と決めつけて制裁することで,米国1974年通商法301条がこれを認めている。さらに1988年には強化された時限立法である包括通商・競争力法(通称スーパー301条)が置かれ,クリントン政権下でも何度か復活した。「不当な通商制限」とは,アメリカが通商上不利益を被るような外国政府の不公正慣行のことを指し,何を不公正とするかはアメリカ政府が決定する。そして,制裁措置は,アメリカが受けたと見なされる経済的不利益に等しい不利益を外国に対して課すべきものとされている。

 日本も何度か通商法301条の対象国となったことがある。一方的とはいえ制裁を科されてしまうのは不利益が大きいため,制裁に至らぬよう二国間交渉をするのだが,1986年に締結した日米半導体協定を巡っては,苦い教訓を得ることになった。

 ことの発端は,1985年に半導体市場の不況を背景にアメリカの半導体業界が日本製半導体をアンチダンピング提訴したことと併せて,日本政府による自国の産業を有利にする様々な助成政策が日本の半導体産業の競争力を人為的に強化し,アメリカの半導体業界の日本市場への参入を阻んでいるとして,通商法301条違反であると申し立てたことである。

 日米半導体協定において,まず,日本企業が公正価格以下でアメリカ市場に販売しないように,アメリカ政府と約束した。次に,日本政府は,(1)日本の半導体企業がダンピング輸出をしないよう価格監視をする,(2)日本の半導体企業が第三国経由の迂回輸出でアメリカにダンピング輸出しないように監視する,(3)アメリカを含む外国製半導体の日本における販売を促進する措置を取るという約束をした。にもかかわらず,アメリカは(2)と(3)が守られていないとして,1987年4月17日に制裁関税を賦課することが決定され,小型コンピュータ,電動工具,カラーテレビに100%関税をかけるという制裁措置が即日実施されたのである。

 ところがさらに,日本企業の価格維持の約束はGATTに整合的であるが,その他に関してはそうではないことが問題視されることになった。欧州共同体(EC:EUの前身)が,(2)が事実上の輸出制限に当たるものとして日本政府をGATTに提訴し,1988年に日本政府はGATT第11条違反であるとされてしまったのである。

 これらの1980年代の熾烈な貿易摩擦の中から学んだ日本政府は,1990年代以降,二国間からGATT/WTO体制のルールに基づく多国間の枠組みを志向するようになった。二国間交渉を行いつつも,GATT/WTO違反の要求を突きつけられれば,GATT/WTOの紛争解決手続を利用した。1991年以降,国際的に合意された貿易・投資ルールの観点から外国の通商政策を分析した『不公正貿易報告書』も毎年公刊されるようになった。そのような流れの中で,1995年に終結した日米自動車及び同部品協議も,制裁措置をちらつかせながらのアメリカ製部品を一定数量日本企業が購入する等を約束する管理貿易に繋がるアメリカの要求を拒絶することができたのである。

 トランプ政権下でも,20世紀後半に繰り広げられたようなタフな通商交渉が行われる可能性はある。制裁をちらつかせた一方的要求もあるかも知れない。しかし,WTOのルールを逸脱した協定を日本や他の国々は拒否するだろう。もしアメリカが一方的に制裁措置を課せばWTO違反とみなされ,その措置を撤回しなければ,日本をはじめとした諸外国は,WTO紛争解決手続のもとで逆にアメリカに制裁措置を課すことができる。トランプ政権がとてつもない要求を突きつけてきたとしても,彼らが最終的に得られる成果は穏当なものに落ち着かざるを得ないだろう。

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