世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.772

日銀は金融政策の転換に乗り遅れるな

川野祐司

(東洋大学経済学部 教授)

2016.12.26

FRBとECBの政策

 12月8日のECBの政策理事会では,資産購入プログラム(APP:expanded Asset Purchase Programme)の購入額を月額800億ユーロから600億ユーロに引き下げた。ただし月額600億ユーロになるのは2017年4月から12月までであり,3月までは現行の緩和政策が続くことになる。政策金利は据え置きで,最も重要な政策金利である主要オペ金利が0.00%,銀行がECB(より正確にはユーロシステム)から資金を借り入れる際の貸出金利が0.25%,銀行が余剰金利をECBに預け入れる際の預金金利は-0.40%である。ドラギ総裁は今回の政策はテーパリング(量的緩和の規模を一定ペースで削減させること)ではないと重ねて主張しているが,これまで緩和一辺倒だったECBが転換点に立ったと見るべきだろう。

 12月14−15日にかけて行われたFOMC(連邦公開市場委員会)では,0.25%の利上げが発表され,FFレートの誘導水準は0.25%~0.50%に設定された。これまで利上げを拒んできたイエレンFRBもとうとう利上げに追い込まれた。2017年は2回の利上げが予想されていたが,今回は年に3回の利上げの可能性が示され,これまでとは異なり引き締め気味の金融政策に転換したといえる。

■転換の背景は

 政策転換の背景を見てみよう。共通項として,原油などの資源価格の上昇が物価上昇につながっていることがある。その他には,ヨーロッパではECBの国債買取りに限界が来ているとの指摘があり,アメリカでは失業率の低下がある。また,ヨーロッパでは景気が底を打ち2015年後半から自律的な(またはシクリカルな)景気好転が見られている。これらの要因は,金融政策によるものとは考えづらく,金融政策が十分な効果を上げたために転換したわけではない。インフレ率を一定水準まで引き上げるという目標は,結局はOPECなどの産油国の政策転換によって達成されている。

■日本も続くべき

 過剰な金融緩和は経済の下支えにはならない。特にマイナス金利政策は,大企業が社債発行を増やすことで銀行離れを招き,引き下げに限界がある預金金利と引き下げが止まらない貸出金利に挟まれることで銀行の収益力を弱めている。銀行は収益を確保するために,よりリスクの高い証券への投資を余儀なくされており,次の金融危機の規模を大きくするおそれがある。さらに日本では低金利が政府の財政規律を喪失させており,将来の財政破綻が取りざたされている。

 欧米の金融政策の転換は,日銀にとっても政策転換のチャンスである。緩和から引き締めにいきなり転換することが困難であれば,テーパリングのようなよりマイルドな政策を採ることも可能だろう。経済情勢は変わりやすい。環境が整っているうちに手を打っておかなければならない。

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